ダンジョンリーグ

いかづち1

序章

第1話 目覚め


『目覚めよ新たなダンジョンの主よ。』


 朦朧とする意識の中、女性の声が頭に響く。


『あなたは私が新たに生み出したダンジョンの導き手です。』


 頭の中にダンジョンの知識が流れてくる。ダンジョンとは魔物を生み出す母体であり、ダンジョン自体が一種の魔物らしい。俺はダンジョンという魔物として新たに産み落とされたようだ。

 ようやく意識がはっきりしてきて辺りを見渡すとそこは執務室のようだった。俺はいすに座っており、目の前の机には人の頭くらいのサイズの水晶玉が置かれていた。


『ようやく意識がはっきりしてきたようですね。そこはあなたの仕事場です。その部屋にはあなたが許可した者で無ければ入ることができません。』


 頭に響く声が辺りを見渡す俺に説明する。


『そして、あなたの目の前にある水晶玉がダンジョンコアです。あなたはそれを使うことによってダンジョンに干渉することができます。』


 ダンジョン側にも同じものがあり、ダンジョンとはこれを通じてやりとりをするようだ。逆に言えば向こう側でこれを破壊されれば俺はダンジョンへの干渉力を失うことになるというわけだ。


『まずはそこに手をかざしてみてください。』


 声に従って手をかざすと空中にウィンドウが表示される。そこには、まだダンジョンコアの置かれる部屋しか存在しないダンジョンと左上に[DP20000]、右下に [召喚カード]という表記がある。


『そこに表示されている[DP]というのがダンジョンを強化するためのポイント。このポイントを使ってダンジョンに必要なものを揃えていきます。DPはダンジョン内の魔力量などによって増えていきますので魔物を召喚したりなどしてポイントを増やしていってください。そして[召喚カード]というのはダンジョンマスターが魔物を生み出すのに必要なカードで同じランクで別の属性のカード2枚を使うことで魔物を召喚することができます。』


 説明を受けながら俺は[召喚カード]のところを開く。


『[召喚カード]のページを開くと今は何も持ってないはずですので何もありませんが召喚カードを入手するとそこに表示されるようになります。そして、ページの右上に表示されている[カード生成コスト]というのがあなたが自分の属性のカードのカードを生成するためのコストとして使えるポイントです。』


 俺は[カード生成コスト40000]と書かれているところをタッチする。そうすると[王]と書かれたカードと『創』という字の下にA~Dまで書かれたカードが1枚ずつ表示される。


『召喚できる魔物はS~Dまでの5種類、召喚に使ったカードと同じランク、属性の魔物を召喚できます。そして、各カードには属性があります。属性はダンジョンマスター毎に異なっていて他の属性のカードを入手しない限り、魔物を召喚することはできません。[王]のカードはSランクの魔物を召喚するためにAランクのカードと一緒に使うカードです。このカードが唯一の生成できるカードだけで魔物を召喚できるカードでもあります。』


 王という属性を持つこのカードは自分の属性とは別ということか。俺の属性は『創』らしい。試しに[王]のカードを押してみたら『生成コスト100000』と表示された。コストを増やさない限りSランクの魔物を召喚するのは無理らしい。ちなみに他のカードは


A:10000

B:3000

C:1000

D:400


らしいので他のカードは問題なく生成できるようだ。


『Sランクの魔物には規格外の能力と共に王のスキル、名を持っています。Sランクの有無は戦況を大きく左右するでしょう。これでSランクの重要性はわかっていただけたと思います。そして、これが私からの新たなダンジョンマスターへのプレゼントになります。』


 頭に響く声がそう言うと新たに[王]のカードが[召喚カード]のところに表示された。


『そのカードはあなたのダンジョンの最強の切り札になるカードです。そのカードを使って召喚した魔物があなたの戦略の中心となるでしょう。』


 最初にSランクの魔物を召喚してその魔物を中心としてダンジョンを作れということらしい。


『ここまでで何か質問はありますか?』


 ここまでひたすら語りかけてきた声がそう尋ねる。


「カードの入手手段についてだ。他の属性のカードを入手するにはどうすればいい?生成コストを増やす方法も知りたい。」


 DPについての増やす方法については聞いたがカードの生成コストについては聞いてない。何より他の属性のカードの入手手段がわからなければ魔物が召喚できない。


『まずは生成コストの増やし方から説明します。生成コストの増やし方は主に2つ。1つはDPを変換する方法。こちらのレートについては後で自分でご確認ください。もう1つはこれから説明するダンジョンリーグに参加することです。』


「ダンジョンリーグ?」


『はい。あなたたち新人のダンジョンマスター10人にはこれからお互いのダンジョンの魔物たちの実力を競う総当たりのリーグ戦に参加してもらいます。このリーグ戦に参加すれば試合に勝てば2000ポイント、負けても1000ポイント生成コストを入手することができます。そして、最終的に上位4チームに入ればプレーオフに進出し、その結果によってさらに生成コストを入手が可能です。』


 つまり、リーグ戦に勝ってより多くの生成コストを入手できればライバルに戦力で差をつけられるというわけか。


『そして、他の属性カードの入手方法ですがこちらも主に2つです。1つは他のダンジョンマスターから入手する方法です。ここではDP、生成コスト以外の全てをトレードすることが認められています。価値を決めるのはお互いのマスターですので同意の上であればあらゆるトレードが認められるでしょう。』


 ダンジョンのアイテムだろうと魔物だろうと全てトレードの駒として使えるわけか。


『もう1つはダンジョンリーグ間のオフシーズンに行われるドラフトです。シーズンオフ毎にランダムに生成された11枚のAランクカードの中から1枚を各ダンジョンが選択して入手することができます。ここでは直前のシーズン下位のダンジョンから順番にカードを選択して残ったカードの中から次のダンジョンが選ぶという形になります。そして、最下位のダンジョンは全てのダンジョンが選択した後、残ったカードを手に入れられます。』


 つまり、ダンジョンマスターの属性以外のカードを入手する手段はここしか無いわけか。そして、ポイントを使わずに確実にAランクのカードを入手できる機会でもある。


『ですので、成績が振るわなかったとしてもドラフト次第では次のシーズンに活躍するチャンスがありますのでうまくここで立て直してください。』


 最下位なら実質生成コスト0でAランクの魔物が手に入るなら再建も可能になるだろう。つまり、これが最下位への救済処置か。


『ダンジョンリーグは準備期間を1ヶ月設けてのスタートになります。毎週1試合を戦っていただき全9試合、1週間インターバルを挟んでプレーオフを2週間、最後にドラフトを開催する全13週間3ヶ月を1シーズンとして1ヶ月のオフシーズンを挟んで年3シーズンを予定しております。』


 プレーオフを戦わないダンジョンは約2ヶ月で終わる。そして、ダンジョンリーグは仮想空間で行われるため、例えそこで魔物を失っても試合後には戻ってくるらしい。逆に言えばダンジョンリーグでどんなに成長してもその成長はダンジョンの魔物には反映されない。シーズンが早く終わったダンジョンはその分ダンジョン内で成長するチャンスがあるらしい。


『細かいルールや仕様については執務室の本棚に資料を用意していますので各自で確認なさってください。そして、最後に大事なお知らせです。あなたたち新人ダンジョンマスターのダンジョンは1年後、3シーズン終了後に地上に出現します。ダンジョンの出現以降は人間たちに攻められることになりますのでそれまでに十分な備えをすることをおすすめします。』


 女性の声はそれを最後に聞こえなくなった。

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