第10話

その一方であった。


アタシは、高松市大工町にあるスナックで働いていた。


しかし、新しいナイトワークについて行くことができずに苦しんでばかりいた。


水割りを作るのがものすごくドヘタなので、お客様から『何だよ!!薄すぎるじゃねえか!!』とどやされてばかりいた。


接客もドヘタだから、全くうまく行かなかった。


店のママとチーママは『あの子大丈夫かしら〜』と心配した。


やっぱりアタシには無理だったみたい…


デリヘル店かソープ店かファッションヘルス…風俗店の方がよかったわ…


アタシは、入ったばかりのナイトクラブを泣く泣くやめることにした。


そのまた一方であった。


ゆうともまた、仕事がうまく行かない上に、家の家族との関係が悪化した。


ゆうとは、家の両親と大ゲンカを起こしたあげくに家出した。


その頃、ナイトクラブをやめたアタシは風俗店へ転籍することと高松を離れてよそのまちへ移ろうと考えていた。


高松ここには、アタシの身の丈に合うナイトワークがない…


早いうちに新しい居場所をみつけよう…


アタシの気持ちのあせりは、さらに高まった。


8月29日の夕方5時半頃のことであった。


(ピンポーン…)


玄関のインターホンが呼鈴ベルが鳴ったので、アタシは玄関のドアをあけた。


(ガチャッ…)


ドアを開けたときであった。


アタシの目の前にゆうとがいた。


「ゆうと。」


ゆうとは、ものすごく悲しい表情を浮かべていた。


アタシは、すぐにゆうとを部屋なかに入れた。


部屋の中にて


アタシは、できたてのホットミルクをゆうとに差し出した。


ゆうとは、円座の家を飛び出したことをアタシに打ち明けた。


「円座の家を飛び出した…その後、あんたはどこで何をしていたのよ?」


アタシの問いに対して、ゆうとは『野宿のじゅくをしていた…』と答えた。


野宿のじゅくをしていたって…」

「ああ…(ことでんの)仏生山ぶっしょうざんの駅のベンチで寝ていた…ごはんは、コンビニに行って、賞味期限切れの弁当をもらって食べた。」


ゆうとは、今にも泣きそうな表情をしていた。


アタシは、困った声でゆうとに言うた。


「それじゃ…あんたこれからどうするのよ?ほかに行くあてはあるの?」


アタシの問いに対して、ゆうとは答えなかった。


アタシは、ゆうとにこう言うた。


「わかったわ…それならここにいなさい。」

「かあさん…いいの?」

「いいも悪いも…今は非常事態だからなんとも言えないわ…かあさん…めたわ…かあさん…ゆうとを守る!!」

「かあさん。」


アタシの中で、再び抑えきれない感情がよみがえった。


アタシは…


ゆうとの実母ママよ…


ごめんね…


つらかったよね…


かあさんは…


どんなことがあっても…


ゆうとを守るわ…


この日を境に、アタシはゆうとを死守まもりぬくかた訣心けっしんした。


ゆうとのためにもう一度がんばると訣心けっしんしたアタシは、新しいナイトワークを探すことにした。


8月31日のことであった。


アタシは、ゆうとが心から安心して暮らせる場所を作るために再び松山へ向かった。


アタシは、高松駅から始発の特急いしづち101号に乗って再び旅に出た。


松山市にある不動産会社に電話して問い合わせたところ、北持田の家は他に買い手がいないと言う返事を聞いた。


アタシは、あの家を買い戻すと決めた。


朝8時過ぎに、アタシが乗っている列車が松山駅に到着した。


アタシは、赤茶色のバッグを持って列車を降りた。


駅を出たアタシは、大急ぎで三福さんぷく(不動産屋さん・アパマンショップ)へ向かった。


開店時間になったと同時に、アタシは急いで不動産屋さんのスタッフさんに北持田の家を買い戻すための手続きを申し出た。


アタシは、この日のために取っていた百十四銀行の預金通帳と銀行印をバッグから出して、支払いの手続きを取った。


預金通帳には、北持田の家を売却した際に受け取った2500万円と松山のデリヘル店に在籍をしていた時に貯めていた500万円の合計3000万円が入っていた。


その中から、リフォーム代込みで2700万円を口座引き落としで支払うことにした。


その後、所有名義の登録などの法的な手続きなどを取る。


そのため、アタシはあと数日の間松山に滞在することになった。


北持田の家の所有権は、一度アタシの名義になったあとゆうとの名義に所有権登録を変更をする運びとなった。


その他にも、しなければならないことが山のようにあった。


松山に滞在する期間は数日間と予定していたが、再確認などで相当な時間をついやした。


すべての手続きが完了したのは、9月12日頃であった。


9月12日の夕方頃であった。


アタシは、上りの特急いしづちに乗って高松へ向かった。


その頃であった。


ゆうとは国道193号線の空港通り・三名町の交差点にあるガスト(ファミレス)にいた。


ゆうとは、ひろみさんと会っていた。


ふたりは、ハンバーグセットを注文して夕食を摂った。


夕食を摂ったあと、ふたりは食後のコーヒーをのみながらお話しをした。


「あのねゆうと。」

「ひろみ…」

「アタシ…お見合いの仲人を引き受けた家のメンモクをつぶしたバツとして…カレの弟と結婚しろと強要めいれいされた…」

「あの時の新郎さんの弟と…結婚しろって…」

「カレの実家のお父さんがとかした預り金を…アタシの両親が立て替えたのよ…その上に、カレの弟が元カノを妊娠させた…元カノの中絶手術の費用も…アタシの両親が出したのよ…」

「そんな…ひろみはイヤだろ…好きでもない人と結婚するのはイヤだろ…イヤだったらなんでイヤだと言わないのだよ?」

「アタシだってイヤよ!!だけど…両親は『ワガママ言うな!!』と言うて、一点張りよ…明日、(婚姻届を出す)手続き(をとりに市役所)に行くぞと(両親から)言われた!!」

「明日!?」

「カレの弟は、明日からはアタシの家の婿養子イリムコになるのよ!!ねえゆうと!!聞いてるの!!」

「ひろみはぼくにどうして欲しいんだよ!?」

「アタシはゆうとが好きなのよ!!お願い…たったひと言でもいいから…『好きよ。』と言うてよ…くすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすん…」


ひろみさんは、ゆうとに好きだと言うたあと、テーブルに顔をふせてくすんくすんと泣いた。


どうしろと言うのだよ…


ひろみはぼくのことが好きだと言うけど…


無理だよ…


ぼくは…


ひろみと結婚することは…


考えていないんだよ…


甘ったれるんじゃねえよ!!


ゆうとは、テーブルに顔をふせて泣いているひろみさんに怒りを込めて『甘えるな』とつぶやいた。

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