3.結ばれた呪い
時々、彼らは
生き物の悪意が塊になった虚は、意思を持たない代わりに周りの「悪意」を全て取り込むやっかいな性質を持っていた。
「殺される前に合うのであれば助けてやりたいだろう」だとか、「なんだか面白そうだったからなぁ?り」だとか、「気が向いたら」だとか。そんな仕事の中で気儘に乗じて助けた人に
とはいえ、まぁ。
勿論彼らは人ではないので大概は誰が死のうが生きようが知ったこっちゃないのだが。
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あまりに大きな虚に成ると
天秤が壊される前に定期的に祓う必要に迫られた世界の創造主は、地位をやる代わりに『与えた土地を守る』役目を与え、その地位を神と名付けた。
さらに主は『神達の動きを管理する』役目を持つ、世界の玉座に座る神を自ら作りあげた。
自分の代わりに新な世界を統治する神に龍神と名前をつけ、その地位をこう呼んだ。
神の動きを見極める――神の秩序。と
世界ができてすぐ、主は突然姿を消した。
黄金の天秤を一つおいて。
どちらかに天秤が完全に傾いた時、世界を消滅させる目安として。
世界は長らく平和だった。
一柱の神に呪われ龍王が死ぬその時まで。
それからというもの王座は長い間空席のまま宙に浮かんでいる。
王が居ない世界で神達は、王座を求めて争いを始めた。
天秤はやがて片方に傾き始める。
それを知る者は龍神ただひとり。
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今回、彼女を助けたのは聖蘭だった。
彼は都心にある別邸から僻地の山荘にある別邸へ移動途中であった。
大狼が本体である牙狼に乗り、颯爽と夜を駆ける。
「どうした?」
「いやぁ、次から次へと単調な攻撃ばかり!」
聖蘭の隣を走る男、落雁は息も乱さず牙狼と並走しながら不満そうに声をあげる。
この男は長年生きているからか、常に面白い事を求める厄介な性格をしていた。
時折飛んでくる暗器を弾きながらあれが、つまらん、これがつまらんと、攻撃を受けるたびにいちいちこと細やかに苦言を言っている。
「こうも手緩いとなぁ」
「そう言うな。本体もとれん雑魚ばかりだ」
「…あなや!……俺も随分と侮られたもんだなぁ」
手を打って笑った後、落雁はゾッとするような笑みをその顔に浮かべた。
「俺を喰らえばそいつは忽ち王座に座れるとでも思っているんだろう」
くっと喉奥で笑った聖蘭の余裕のある態度に落雁は言っても仕方ないとわかりつつも苦言をもらす。
「君なぁ、何を呑気に…聖蘭では人間の子供となにも変わらんのだぞ?」
「頼りにしている」
「誤魔化すな」
ピシャリと、締め出すような声で落雁は聖蘭の言葉を跳ね除けた。
その態度に聖蘭は、気落ちしたような表情で本音を漏らした。
「…俺は首を差し出すつもりはないが、解呪が出来ずに死ぬのは厭わない」
それは、呪いが解けなくても落雁達に罪はないのだという聖蘭の偽りのない本心だった。
ここに虎徹が居れば大騒ぎに発展するのだが、彼は今いない。
「君な…」
「…」
なんとも言えない空気が漂う。
言葉を切った落雁と、聖蘭が乗る狼の足音だけが辺りに響く。
そんな折、聖蘭の佩く脇差がリンと鳴った。
「牙狼!」
「御意」
聖蘭の指す方へと向かう牙狼はぐんっとスピードを上げた。
振り落とされまいと牙狼を掴む聖蘭。
後ろにはいつのまにか本体である白鷹の姿をした落雁が美しい羽を広げて後に続く。
聖蘭達がその場につくと、娘を飲み込まんとする虚の姿が目に入った。
リンと、また脇差の白雪が鳴る。
まだあの娘を救う手立てはあると、教えているような音が合図になった。
聖蘭は牙狼から飛び降りるように地面に降り、白雪の口を切った。
白雪から放たれた白き一閃が、虚だけを薙ぎ払う。
虚はたちまち霞となって消え失せ、残ったのは横たわる娘一人。
「連れて行く」
「あいわかった」
後から来た落雁が人型をとる。
「白雪が鳴るほどの要人とは思えんがなぁ」
観察するような物言いで落雁は、死んだように横たわる痩せ細った身体をひょいと米俵の要領で娘を肩に担いだ。
追手を一時的に離したとはいえすぐにまた奴らは嗅ぎつけて聖蘭達を見つけ出そうとするだろう。
「まずは先を急ぎましょう、そろそろ虎徹から合図が来るはずです」
牙狼が聖蘭へ声をかけ、頭を低くして今にも駆け出そうとしている。
「わかった、頼んだぞ」
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