物語の舞台はどう決めるか

 長らく休みつつもようやく重い腰を上げ再開した、執筆中の長編作品『幽霊船の船長』。

 やっと次から新しい舞台である「魔の海域」に入ります。


 しかし、この「魔の海域」、ずっと書いてみたい場所だったにも関わらず――――いざ書くという段階になると、なぜだかものすごーく億劫に感じる自分がいます。

 というのも「魔の海域」という場所そのものにはワクワク要素が詰まっているのに、あれこれ決められていないままそこへ突入する羽目になったせいだと思われますが。


 一応、魔の海域がどんな場所で、どんな奴らがいて、何が起こって、結果はこうなる――くらいは決まっているんですけどね……。

 でもそれだけでは、たったの数行で「魔の海域」の話が終わってしまいます。

 

 以前、本作の「結果から逆算して書いてみる」の回で、こんなことを言っていました(昔過ぎてどこか他人事……)。

「私の場合プロットと言えるほどのものを書けている自信はないですが、マップと旅のルートを描いたり、各地点で何が起こるかメモしたりして、ざっくりですが物語のだいたいの流れは決めています。それを元に、間の細かいところはなんとか全体の流れに合うように考えて後から埋める……みたいな。これも逆算してるって言えるケースなのかなと思います」


 そう、間の細かいところはなんとか全体の流れに合うように考えて後から埋める……ここが難しいのですよね。

 とはいえ今までわりとこの方法で執筆してきました。まあ……長編作品はまだ二作目で、未だ執筆方法などきちんと決まっておらず、手探り状態ではありますが。



 突然ですが、私の好きな言葉に、「かわいい子には旅をさせよ」ということわざがあります。私は、長編作品についてはこれを基本スタンスに、主人公(子どもが多い)やその仲間とともに、時には困難に立ち向かいながらも世界中の様々な場所を巡ってゆき――登場人物と一緒にワクワクできるような物語をなるべく作りたいと思っているところがあります。

 なので、物語のストーリーの流れよりも、旅先にどんな場所を用意するか……を、先に決めてしまうことも多いです(マップと旅のルートを描く、と言っていたのはこのことです)。


 ふと気になったのですが、皆さまは物語の舞台(場所)はどのように決めていますでしょうか。

 私が自分自身で思い起こしてみたところ、次の三つの方法が思い浮かびました。


①まず物語のテーマ、方向性コンセプト等があり、それに見合う舞台を想像して用意する

②ストーリー上、こういった場所に行かねばならないといった明確な理由があり、それに沿った適切な舞台を用意する

③個人的な趣味や描きたい欲から決める(ただ単に、こういった場所を描いてみたい……等)


 執筆中の『幽霊船の船長』に関しては、全体で見ればまずは「幽霊船」というものが舞台であり、これは完全に③で、自分の趣味で決めました。そして幽霊船を描いてみたい→恐ろしいイメージがあるけどそれを味方にできたら面白そう……といったところから、物語のコンセプトが生まれました。 

 長編作品一作目の『アイラと神のコンパス』よりもコンセプトが明確だからか、おかげさまで初見の方に読んでもらえる機会が多かった(過去形ですが……)ように思います。

 『アイラ』も大海原を舞台にした話なのですが、なんとも説明しにくいというか、ただ女の子と盗賊の男が不思議なコンパス持って、一緒に航海する話?……と、ちょっとどういう話かイメージしづらい部分があるので……。


 そうして生まれた『幽霊船の船長』は、幽霊船であちこち旅をする話になるのですが――旅先は「幽霊」のコンセプトにちなみ、骨が埋まってそう→砂漠、死体が多そう→樹海といったふうに想像力を駆使すると比較的簡単に決まっていきました(これも物語のコンセプトがはっきりしているおかげだと思います)。こうした決め方は①になりますかね……いや、砂漠は自分の趣味もあったので③も含んでますね。

 一方で、砂漠の前に立ち寄った場所、監獄なんかは②(ストーリー上の理由)になります。ストーリー上、監獄で捕まっている人に用があったもので……。


 そして次に執筆予定の魔の海域(『幽霊船』を読んでいない方は天候が常に大荒れでたくさんの船が沈み、海賊の墓場と言われている場所……を、とりあえずご想像いただければと思います)――これは①②③全部に当てはまります。

 幽霊がいそうな場所→たくさんの船が沈む恐ろしい海域というのは①のコンセプトから決まり、②のストーリー上の理由からもそんな場所を物語上最重要といってもいいような部分に持って来ようと決め、そして大荒れの海、海賊の墓場と言われるような恐ろしい海が描きたいという憧れがあったので③も当てはまりました。


 といったように、『幽霊船の船長』で見ると、コンセプトがはっきりしているため①(物語のコンセプト)から決めることも多かったです。

 一方、『アイラと神のコンパス』の時はコンパス持って世界中を航海する、くらいしかコンセプトがはっきりしていない分、登場する人物に即して舞台を決めていきました。

 戦士が出てくる→戦士たちの拠点となる島、海賊が出てくる→海賊たちが一堂に会する島、賢者が出てくる→賢者や学者などがひたすら学問に明け暮れるような島、といった感じです。うーん、どれかと言うと②(ストーリーの流れに即して決める)に当てはまりますかね……?

 あ、『アイラ』に出てくる「ディール島」だけは完全に趣味なので③です。空飛ぶ絨毯飛び交う島なのですが、それを描きたくて……(こないだのKACでも空飛ぶの話を描きましたが)

 既読の方は空を飛んでいく必要があったから②(ストーリー上の理由)では?と思われるかもしれませんが、空を飛んでいく展開は実は後付けだったりしました。空飛ぶ絨毯が出てくるなら、それで次の目的地まで行こう……てな感じで次の物語の流れが決まった感じです。


 そんなこんなで今までの自分の長編作品から、物語の舞台をどのようにするか、その決め方について改めて振り返ってみました。

 そうして思ったのですが、やはり③の、自分の描きたい場所に来た時はワクワクしますね。『幽霊船』では、砂漠に来た時が一番ワクワクして、筆が進んだものです。


 その理論でいくと次に執筆する「魔の海域」も、③の理由が入っているため筆が進まないとおかしいのですが……。

 元々は描きたかった場所なので、話が迷いなく決まりさえすれば、とんとん拍子に進められそう……とは思いますが、いかんせん最終局面の重要な場面に入ってきているので、今はその緊張プレッシャーが重くのしかかっていて……優柔不断な作者に、様々な決断の時が迫っています。

 これまでに方針をしっかり固めておけばよかったのですが、なんとなく先延ばししたことも多く……そのツケを払わされる時が来たようです。


 とりあえずここでいろいろ考えてみたおかげで、なんだかんだ言っても「魔の海域はずっと書きたいと思っていた場所」であることを思い出しました。


 これから先は重要な局面であるというプレッシャーは大いにありますが、それに押しつぶされることなく、ワクワクするような気持ちを忘れずにこの先執筆にあたりたいと思います……!



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