第35話
目の前の城ケ崎の様子は明らかに常軌を逸していた。
何事にも冷静で無感動な城ケ崎が、今は熱に浮かされたように喋り続けている。
「……それは、事件の真相が分かったということですか?」
「そんなものはとっくに分かっている。
「え?」
「犯人なら
「まさか」
この発言は流石に信じ難い。
もしそれが本当なら、城ケ崎は殺人事件が起こる前に犯人が分かっていたということになる。
「それなら、どうして昨日の段階で回答権を使わなかったのですか?」
回答はルール上、その時点で生きている参加者全員の前で行わなければならない。
不破の死体が見つかった直後は無理でも、
それなのに何故?
「それでは駄目なんだ。犯人とトリックが分かっただけでは、犯人を追い詰めるにはまだ不充分。このゲームでは回答の正否は犯人の自己申告制になっている。極端な話、オレが正解を答えても、犯人にだんまりを決め込まれてしまえば、不正解ということになってしまう。オレ自身には自分の回答が正解か不正解かを確認する方法がないからな」
「しかし、先生は犯人のフェア性を信じていると……」
「信用はしているさ。だがそれは、あくまで犯人が余裕をこいている間の話だ。土壇場で自身の敗北を認めたくないばかりに、見苦しい真似をすることも当然考えておかねばならない。それにはまず、犯人が言い逃れ出来ないくらいの確固たる証拠が必要となるだろう。だが、その証拠でさえ犯人が用意した偽の証拠である可能性が残ってしまう。よしんば犯人が自白したとしても、それが真実かどうかも分からない。何故なら、真犯人を庇う為の狂言かもしれないからだ」
「そんなことを言い出したら、とても事件の真相を推理することなんてできないじゃありませんか」
そうだ。
それではまるで、悪魔の証明だ。
「その通り。事件の真相を推理するということは、本来そういうことなのだ。オレたちが踏みしめている大地は、そのくらい脆く頼りないものなのだ」
城ケ崎は肩を竦めてそう言った。
「さて、前置きはこのくらいにしておくとして、そろそろオレの推理を聞いて貰うとしようか」
「…………」
いよいよ始まる。
わたしは固唾を飲んで、城ケ崎の次の言葉を待つ。
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