第22話

 ゲーム2日目。

 12月27日。

 午前6時。


 今回も誰が殺されているのかは一目瞭然だった。

 何故なら、二階のギロチン台の上に不破ふわ創一そういちの首が転がっていたのである。


 不破の顔は目を見開き、口を大きく開けた、生前の穏やかな物腰からは想像出来ない恐ろしい形相だった。


 続々と探偵たちが集まり、不破の首を取り囲むような形になる。


「またしても首切りか」

 城ヶ崎じょうがさき九郎くろうが無感動に呟いた。


 見たところ辺りに血痕はなく、ギロチンにも刃こぼれ一つない。どうやら、首切りにこのギロチンが使われたわけではなさそうだ。


「そんじゃあ、ちゃちゃっと現場検証済ましちゃおっか」

 飯田めしだまどかが不破の頭部を小脇に抱えると、元気よく腕を振り上げた。


「否、暫し待て」

 それを切石きりいし勇魚いさなが厳しい表情で制止する。


「えー、なんでー?」

 飯田は不満そうに口を尖らせている。


「約一名、まだこの場に現れていない者がいる」


「え?」


 その一名が誰であるかは言うまでもない。


 ――鮫島さめじま吾郎ごろう


「あの馬鹿、本当に部屋から出てこないつもり?」

 そう言って肩を震わせるのは綿貫わたぬきリエだ。余程腹立たしいのか、こめかみの辺りがヒクヒク痙攣している。


「出てきたらぶっ殺す」

「金玉かち割ってやろーよ」

「…………」


 もしこれを聞いていたら、鮫島は二度と部屋から出ないだろう。


「……どうします?」


 わたしは城ケ崎の顔を見る。

 しかし、そこには何の表情も浮かんでいない。城ケ崎はただ黙って事の成り行きを見ているだけだった。


「もー、あんな人放っておこうよー。下手に相手すると益々つけ上がるだけだって」

 飯田は口を鉛筆のように尖らせている。


 確かに飯田の言う通り、ここで鮫島に不破の死を伝えることは、鮫島の立場を有利にするだけかもしれない。鮫島に主導権を握られれば、その後の交渉で強気に出られる可能性が高い。


 しかし同時に、事件に動きがあったという事実は鮫島を部屋から引きずり出すカードにもなる。


「わたしが行きます」

 わたしが全員を代表して一歩進み出る。


「無駄だと思うけどなァー」


 飯田のそんな声を背に、わたしは鮫島の部屋の前まで来て扉を二度ノックした。


「鮫島さん、事件です。今度は不破さんが殺されました。これから皆で現場検証をしようと思うのですが、鮫島さんも一緒に来ませんか?」


 静寂。

 やはり鮫島にゲームに参加する意志はないようだ。


「ほーら、私の言った通り。幾ら呼んでも無駄だよー。それより早く不破さんの部屋の中を調べようよ」


「…………」

 わたしは仕方なく鮫島を説得することを諦める。


 しかし、そこではたと思い付く。

 もし犯人が鮫島だった場合、わたしたちにゲームをクリアする手立ては残されていないのではないか?

 そのことについて、城ケ崎たちはどう考えているのか?


眉美まゆみ、置いていくぞ」


「わッ、先生ちょっと待って下さい」

 城ヶ崎に急かされて、わたしは慌てて不破の部屋に滑り込んだ。


 確かに鮫島の動向は気になる。

 だが、まずは目の前の事件を調べなくては残酷館から脱出する前提条件すら満たすことが出来ないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る