正しい節分豆のまき方

改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )

木星のコロニー型マンションで家族で豆まき

「あいテテテテ!」


「おにそとお~。おにそとお~」


「ちょっ、ちょっと待った、ユウナ、マイメ、ピーターった、痛い!」


「ユウナ、マスクに当てたら駄目じゃない。あの鬼形のマスクは超合金でできているから、当たっても痛くないでしょ。豆はね、こうやって、胴体を習うのよ、よっ!」


「イテっ! おい、サッキー、投げ方に手加減がないぞ! もう少し優しく投げ……いったい!」


「やった。当たった」


「すごいわね、ユウナ。お、マイメも上手ねえ。私たちうさぎは跳んでばかりだと馬鹿にされないように、投球術くらいは身に付けとかないとね」


「だからって、そんなに勢いよく投げなくても……イテっ。あのな、ここは木星だろうが! 重力が強いんだぞ! おまえらも少しは手加減し……うげっ」


「うぇーい、もう一発、ぴしゅっ」


「イテっ! コラ、バグス! パチンコ使うな! 反則だぞ!」


「これは『反重力スリングショット』だよ。ぴしゅっ」


「ぐえっ! なんでもいいから、それ使うな! 死ぬほど痛い!」


「ほら、コニマルちゃんも投げましょうね。はい、豆を握って、振りかぶってえ、ひょいと投げる」


「痛っ! おまえが投げてるじゃないか、サッキー! 小さな末っ子を使って投げれば許されると思うな……いってえ!」


「あらら、マイメ、それは豆じゃないでしょ」


「これなに? ママ」


「それは本物のパチンコ玉よ。どこから持ってきたの? マイメ」


「おじいちゃんちの机の引き出し」


「この前、地球のおじいちゃんちに行った時に持ってきたの?」


「うん。いっぱいあった」


「まったくもう……。いい歳してパチンコ屋なんかに行って……」


「おじいちゃんのパチンコ好き、まだ治んないんだ。ポリポリポリ」


「ハルカは豆を食べるんじゃないの。何個食べているのよ。歳の数だけ食べるのよ」


「いいじゃん、おいしいんだから。それより、パチンコ店に行って玉を持ち帰るって、まずくね?」


「おじいちゃんは几帳面だから、一個ずつ手で磨いてからじゃないと、使いたくないらしいのよ」


「ごたわるう~」


「仕方ないでしょ。歳とると、みんなそうなるのよ。それに、今の地球にはパチンコしか楽しみがないんだから」


「そうなんだ。じゃあ、その玉はおじいちゃんにとって大事な物だから、投げない方がよくね?」


「もう遅いわね。ユウナが全玉投げ終わったみたい。まさか、全部命中したのかしら」


「たぶん、そうじゃね? 鋼鉄マスクの鬼が背中押さえて床に倒れてる。ウケる、ウケる」


「ウケるじゃないわよ。ちょっと、冷たい人参を持ってきて。本当に怪我をしたのかも」


「うう……、大丈夫だ。背骨に重いのが当たってな。それが効いた……」


「ちょっと無理しないでよ」


「あううう……。大丈夫、それより、サッキー、そろそろいいんじゃないかなカンッ! ……ぐたぁ」


「コラっ、バグス! その何とかスリングショットはやめなさい! それでパチンコ玉を飛ばしたら、本物の兵器でしょ!」


「でも、ママあ、今の一撃は僕じゃなくて、ウサジ兄ちゃんだよ。廊下の向こうから狙撃したんだよ」


「コラっ、ウサジ! またアレを使ったの? あんた、去年もその改造エアガンのアサルトライフルで豆を飛ばしたでしょ。いい加減にしなさい! あんたが鬼をやっつけてどうするのよ」


「大丈夫だよ、ママ。ちゃんと鋼鉄マスクを狙ったから」


「あんたの改造は威力があり過ぎるのよ! 衝撃で脳震盪のうしんとうを起こしてるじゃないの! もう、どうしてその頭を受験でフル回転させなかったのよ!」


「ママ、それ言わない方がよくね? ウサジまだ立ち直ってねーし」


「そ、そうね、ハルカ。今のはママもちょっと言い過ぎたわ。それより、大丈夫なの。血は出てない?」


「だ、大丈夫だよ。少し、頭がクラっときたけど……」


「ああ、駄目、駄目。まだマスク外さないでよ。ウッキーが登場するまで、待ってちょうだい。もう、何しているのかしら。ハルカ、パパを読んできてちょうだい」


「えー、だるいー、ていうか、来たんだけど」


「とう! ウッキーパパの登場だ! さーて、悪い鬼はどこかなあ。パパが退治しちゃうぞ!」


「もう、ウッキー、決めのポーズはいいから、早くとどめの豆を投げて終わらせて。もうそろそろパパの腰も限界みたいだから」


「分かったよ、サッキー。――では、とどめだ! 鬼はあ、外お!」


「ぎゃああ、参った、参った。退散、退散」


「わあ、パパすごい。おにがにげていったよ」


「パパ、つよい!」


「パパ、カッコイイ!」


「まーめー」


「どうだ、ユウナ、マイメ、ピーターにコニマル……は未だ分かんないか」


「ほらほら、おじい……違った、鬼さんがベランダに逃げていったよ。正義のパパとママが追わないと」


「おお、ナイス進行、ウサジ! じゃあ、ユウナ、マイメ、ピーター、コニマル、ハルカ」


「私は分かってるって」


「そうか……だよな。ハルカは大人だもんな。とにかく、パパとママはこれから鬼さんを追い出しに行ってくる。みんな、ちょっと待ってなさい」


「ウッキー、寒いからフリース着て」


「あ、ありがと。サッキー」


 二人はベランダへと出て、室外機の角に隠れた。そこに鋼鉄のマスクが落ちている。


「お義父さん、すみません。今年も鬼の役をやってもらって」


「いやいや、なんのなんの。子供たちが成長していて、意外と豆の威力が強かったが、どうということはないさ」


「ホントにごめんね、パパ。ウチの子がパチンコ玉なんか投げるから……。頭の一撃は大丈夫だったの?」


「あれは本物の豆だったから、大丈夫だよ。衝撃は強かったけど」


「さあ、寒いので早く中に。一杯やって温まりましょう」


「おつまみの塩人参も準備してあるから」


「お、いいねえ」


 三人は子供たちの笑い声が響いているリビングの中に戻っていった。


 了

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