第2話:公爵家からの迎え
「荷物はこれだけですか?」
公爵家から迎えに来てくれたメイドが、私がボロボロの麻袋1つしか持っていないのに驚く。
それはそうだろう。
普通はトランクとか、せめて鞄とかに荷物は入れるだろう。
私はそんな贅沢な物は持っていない。
この麻袋も、今朝の納品の中から比較的綺麗な物を「ゴミ袋に使えるのに勿体無い」と嫌味を言われながら貰って来たものだ。
麻袋の中身は、ワンピース6枚と下着と夜着が1枚だけ。
あぁ、靴下は1枚は穴が空いていたから捨てたので、今履いている物しか無いけど、使用人の服として公爵家から支給される事を期待している。
「ここに署名すれば良いんですな?」
父親が何やら書類を手に、公爵家の使用人に聞いている。
「はい。婚姻届はこちらで提出しますので」
眼鏡を掛けた初老の男性は、一分の隙も無い服装をしている。
「離縁しても、うちには返さないでくださいね」
母親が扇で口元を
それが娘が嫁ぐ家に言う言葉とは、余りの常識の無さに情けなくなる。
「契約内容は、変更無しで大丈夫ですね?」
男性の問いに、父親が大仰に頷く。
「では、婚姻届はこちらの都合で提出させていただきます」
男性が頭を下げる。
「勝手にするが良い。こちらは、支援金さえ貰えれば
父親の台詞に、顔には出さないが頭が痛くなる。
公爵家との関係を悪化させたいのだろうか?
『そんなの』を公爵家に押し付けるのか!と激昂されてもおかしく無い。
「とうとう出て行くのね!あぁ、屋敷内の空気が綺麗になるわぁ。私が王太子妃になっても、図々しく話し掛けて来ないでね」
全ての元凶である姉が見送りに出て来た。
使用人を侍らせて。
横のメイドが
姉はトレイの上から掴み取った物を、私に投げつけた。
顔にぶつかって床に落ちたソレを見る。
何かしら?ネックレス?
「餞別よ。優しい姉からの結婚祝い」
拾おうとしたら、公爵家の使用人に手で制された。
代わりに拾ってくれる。
「随分と質の悪い
ネックレスを見た男性が呟く。
おそらく「出来損ないの妹だけど、結婚したから贈り物をしてあげた」と皆に言いふらす為だけに、安いネックレスを
「この様な品質の物は、公爵夫人に相応しくないのでお返ししますよ」
汚い物でも摘むようにネックレスを持った男性は、メイドの持つトレイに戻した。
そして姉の前に立つと、
「これからは、我が主人が妻に相応しい品を贈りますので」
男性の陰で顔が見えないが、姉は怒りで顔を真っ赤にしている事だろう。
姉は今まで誰かに、この様な扱いを受けた事など無いだろう。
ちょっと胸が
クルリと振り返った男性は、少し腰を落とし私に手を差し出した。
「……お手を」
誰かにエスコートされるなど始めてて、言われるまで気付かなかった。
「すみません」
思わず謝ると、男性に優しく微笑まれる。
「使用人に謝る必要などございません。奥様は堂々としていらっしゃれば良いのです」
姉を見下した人が、私に
まだ結婚届を出していないのに「奥様」と呼ぶのは、離縁前提で話をする家族への意趣返しなのだろうか。
だとしたらなかなかに腹黒い。
実質、この人が私の上司になるのだろう。
楽しみだ。
メイドの仕事も教えられた訳ではなく、使用人達の見様見真似で自分の身の回りの事をやっていただけだ。
いっその事使用人として扱ってくれていた方が手に職が付いたのに。
家を出て自立する事も許さないって事だったのだろう。
読み書き計算だけは妙にしっかりと叩き込まれたのは、こんな事でも無ければ一生家で使い潰すつもりだったのだと予想出来た。
本当に最悪な家族だった。
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