第10話 週末の予定は人助け…?
混み合う食堂で何とか席を見つけ、俺たちは飯を食べ始める。
俺はコロッケのトッピングのついたカレーで、和馬は大根下ろしと竜田揚げのA定(ちなみにB定は麻婆豆腐と餃子)。
数日前に透さんの家で食べたカレーの味を思い出して、何となく食堂でもカレーを注文したけど、完全に失敗したと思うと同時に、また透さんの手料理が食べたいと思って、虚しい気持ちになってしまう。
「ん? そんなにカレー、不味いか?」
和馬に声をかけられ、我に返った。
「え?」
「――カレーを食いながら切なそうな顔をしてたからさ」
「いや、別に……」
「最近、やたらとぼーっとしてるよな。なにかあったか?」
「暑いんだよ。特別、何を考えてるってわけじゃない」
「ふうん」
和馬は何かを探るような視線を向けてくる。
それから、何か心当たりに行き着いたみたいに不敵な笑みを浮かべた。顔の整った奴ってのはこんな嫌味な表情すら似合うから世の中、不公平だ。
「恋だな、そうだろ?」
「ち、ちが……」
「図星か」
「だから……」
「相手は
「またその話かよ。だから違うって」
「はいはい。お前はほんっと嘘をつくのが下手くそだよな。だからいい加減、俺が朝沙子のLINEを教えてやるから」
「いや、だからさ……」
しつこく食い下がってくる和馬とやりとりしていると、
「――ここ、いい?」
聞き慣れた声に顔を上げれば、そこにいたのは透さんだった。
透さんは隣の席を指さしている。
「も、もちろん。どうぞ」
声が少し上擦ってしまう。
「ありがとう」
透さんだけじゃない。透さんの向かい、和馬の隣の席に座ったのは橘さん。
「朝沙子が食堂に来るなんて珍しいじゃん」
「まあね。透に食堂で食べようって誘われたから」
透さんはスパゲティミートソース、橘さんは俺と同じ、コロッケカレー。
「朝沙子と隆一君って、コロッケカレーなんだ。気が合いそうじゃない?」
透さんが明るく言った。
「んー? そう?」
橘さんは気のない返事をしながら、カレーを食べ始める。
和馬がちらっと俺を見る。
「朝沙子。突然だけど、お前って今付き合ってる奴いるか?」
いきなり何言ってるんだ!?
「ほんと突然……。今はフリーだけど? あ、和馬はありえないから。私、女を取っ替え引っ替えするナンパな奴ってムリ」
「ひっでー。俺はただ運命の相手を探してるだけだってのに」
「それでどんだけの女子を泣かせてきたわけ? ありえないんだけどー」
「朝沙子は今、好きな人がいるの?」
透さんが話を振ってくる。
「ううん、特に」
「じゃあ、当分、彼氏とかはいらないの?」
「そういう訳じゃないけどー。いい人がいればもちろん、考えるけどさ」
透さんが恋愛話に興味を示すのは珍しい気がした。
クラスでも女子同士、恋バナをしてるのを見るけど、透さんは積極的に参加したりする印象はなかった。
「そうだ。今週の日曜、朝沙子と一緒に遊ぶ予定を立てたんだけど、二人ももし良かったら一緒にどう?」
「ちょっと、透。二人きりで遊ぶんじゃなかった?」
「でも朝沙子、大人数のほうが楽しいって話したでしょ。違う?」
「うん、まあ、言ったけど……」
透さんと二人きりのデートが邪魔されると思ったのか、橘さんは不満そうだ。
「――隆一君、新宮君。もしスケジュールが合えばだけど、どう?」
「もちろん、いいぜ。な、隆一」
「いや、俺は……」
「なんだよ。さっきも暇とか言ってただろ」
「……は? なんだよそれ――」
「決まりだな! それじゃ、日曜日に駅前の広場に十一時に集合ってのはどう?」
「いいよ」
透さんと橘さんは頷く。
「じゃあ、LINEを交換しよう。朝沙子は隆一君のLINE知らないでしょ?」
「そうだっけ?」
「連絡を取り合うのに、LINEは知っておかないとなーっ」
透さんと、ニヤニヤする和馬に背中を押され、俺たちはLINEを交換する。
「で、どこに行くかは決まってるのか? カラオケとか」
「私、カラオケ苦手だから、別のところにしてもらうと助かるんだけど」
透さんが言う。
橘さんがうんうんと相づちを打つ。
「だからウィンドウショッピングでもしようかなって話してたんだけどさ。あんたらも一緒なら、別のところがいいでしょ?」
「じゃ、ボーリングに行こうぜ。安達、それならいいだろ?」
「そうね」
「決まり。メシは駅前のファミレスで済ませて……。隆一、それでいいよな?」
「お、おう」
とんとん拍子に話が進んでいく。しかしそんなことは正直、どうでも良かった。
日曜日に透さんと遊べるだけで、最高だ。
「んじゃ、詳しいことはまたLINEで打ち合わせようぜ。じゃ、またな」
メシを食い終わった俺たちは一足先に、透さんたちと別れる。
本当は透さんと一緒にいたかったんだけど、和馬の手前、従うしかなかった。
配膳カウンターに皿を戻して食堂を後にする。
「おい、これも運命だな」
和馬が機嫌よさそうに言った。
「なんでお前が嬉しそうなんだよ」
「逆になんでお前は嬉しそうじゃないんだよ。神様が奥手で童貞なお前に、絶好のチャンスをくれたんだぞ? まさか相手のほうから来てくれなんてな。カモネギってのはこういうのを言うんだろうな。これはもう勝負をかけるしかないだろっ!」
「……お前が橘さんと付き合いたいだけじゃないのか?」
「ないない。親友が好きな女を狙うか」
「……じゃ、じゃあ、透さんとか?」
「透? ああ、安達か。そんなこと考えたことなかったなぁ……」
「今までさんざん彼女を作ってきたくせに?」
「だってあいつ無愛想っていうか、女ぽくないだろ。ま、美人だとは思うけどな?」
「……そっか」
ちょっと安心してしまう自分がいる。
「ていうか、お前、いつの間に安達のこと、名前で呼ぶようになったんだ? 安達もお前のこと名前で呼んでたけど」
「……前から呼んでただろ」
「そうかぁ?」
「そ、そうだって」
藪蛇にならないように話を打ち切り、俺はさっさと歩き出した。
※
『おにーさん今いい?』
俺が日曜日のことに想いを馳せている時に、静ちゃんからLINEが届いた。
『大丈夫だよ。どうかした?』
『実は今週の日曜日、お姉ちゃんが友だちと遊ぶことになったの!』
文章だけじゃなくって、パンダをデフォルメしたキャラクターが驚いているようなスタンプまで一緒に送られてきた。
日曜日――その遊び相手は俺たちだ。
『そんなに驚くこと?』
『だってお姉ちゃん、友だちも家に連れてこないし、休みの日だって友だちと遊ぶなんてことなかったんだよ!? 学校で何かあった!?』
ここまで静ちゃんが驚くって相当なんだな……。
『何もなかったと思うんだけど…』
『それだけじゃないの! 友だちと遊ぶなんて珍しいねって言ったら 遊ぶんじゃなくって 人助けって言うんだよ???』
人助け?
たしかに、静ちゃんのメッセージにはてながたくさん浮かぶのも分かる。おかしな話だ。
俺たちはただ遊ぶだけだ。
俺たちと遊ぶことを伝えたほうがいいかなと思ったけど、必要性があれば聞かれた時に透さんが答えているはずだろうし、ここは余計なことは言わないほうがいいだろうと黙っておく。
それから静ちゃんの話題は中学校の友だちのことに移り、簡単なメッセージのやりとりをして終わった。
人助けってどういう意味だ……?
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