第24話:邂逅

 横須賀港を母港とする世界最強と言われているアメリカ合衆国海軍第七艦隊はグアム基地へ向かう為、威風堂々と出港する。


 総旗艦は、最新鋭原子力空母“リンカーン”で排水量40万トン・全長420メートル・小型原子炉×3基・蒸気タービン×6基・スクリュープロペラ×6軸・最大速力40ノットを出す。


艦載機は戦闘機や攻撃機を含んで実に200機を搭載している。

 その旗艦を守護する守護神としてイージス艦4隻・ミサイル巡洋艦4隻・駆逐艦8隻・原子力攻撃型潜水艦4隻を編成している。


 旗艦“リンカーン”艦橋ではロボス大将以下4名の高級参謀長が傍にいて航行の予定とそれまでに実施する訓練内容を確認していた。


「ふむ、今回の訓練は対潜を重視しよう。いつ何時、海中からの敵による奇襲攻撃を防がねばならない」


「そうなると対潜ヘリの出動ですね? 敵役は潜水艦“バンクー”でよろしいでしょうか? ボリス艦長が雪辱を果たすと息巻いていましたから?」


 参謀の言葉にロボスは苦笑いすると了承をすると共に水上艦艇にも、いかなる音も逃がさず解析して報告するように言うと参謀の一人が真剣な表情になって答える。


「あの例の潜水艦、何をしているのでしょうか? 突然、姿をくらましてしまい手がかりも無しとの事ですが?」


「私には信じられませんが彼らが言う平行世界に帰ったのでは?」

「ジャップのくせにとんでもない兵器を持っている」


 口々に伊400の事を言う参謀達をよそにロボスも同じことを考えていたが長年の勘によると未だこの世界にいるのではと思っていた。


「もしかするとこの艦隊の真下にいるかもな?」


 ロボスの言葉に参謀達は顔を見合わせると流石にそれはないかと……? と意見の一致が見られる。


 とにかく演習と訓練は対潜専門とすることを決定したが今まさに伊400は第七艦隊後方2キロ地点・水深500メートルにいたのである。


♦♦


 伊400司令塔では日下と橋本が第七艦隊の配置図を眺めながら会話をしていた。


「当艦から前方1キロに“バージニア級攻撃原潜ヘルシー”がいます」

「ふむ、丁度私達の真上の海上にはタイカンデロガ級巡洋艦がいるが俺達に全然、気が付いてないな?」


 苦笑しながら日下が答えると橋本も苦笑いしながら頷くと彼らは対潜訓練をやっているようで中々の高度で練度が高い訓練だと言う。


「伊達に世界最強と言われているのだから当然だろうな? 当艦以外なら間違いなく補足されていただろう。よし、このまま直進して“リンカーン”の真横数十メートル地点で浮上するとしよう! 奴さん、腰を抜かすだろうな?」


「何か音楽でも流しながら浮上するのもいいかと?」

「うん、そうだな……軍艦マーチでも流すかな? 奴さん達、きっと腰を抜かして飛び上るだろうな?」


 日下と橋本は笑いながら言うと軍艦マーチを鳴らすように言うと了解との返答がある。

 伊400はそのまま無音航行で原子力潜水艦の真上を通過して“リンカーン”真横の位置に着く。


「音楽を流せ! メインタンク・ブロー! アップトリム45度」


 その時、第七艦隊の全艦のソナーに軍艦マーチが鳴り響いて皆が飛び上り何事だ? と大騒ぎになる。


「何だ? 何処から聞こえてくる?」


 艦橋にいたロボス大将が怪訝な表情で言うと参謀が信じられないような声で海中からですと言うとロボスは顔色を変える。


「まさか……奴か……? モビーディック!!」


 その瞬間、海面が盛り上がったかと思うと映像で何回も見た伊400潜水艦が突如、海面から浮上してきたのである。


 独特の美しいシルエットをした伊400潜水艦の船体に皆が眼を奪われたが直に大騒ぎになり戦闘配置のベルが艦隊全域に鳴り響くがロボスが直ぐに大声とドスの効いた声で戦闘配置のベルを停止して平常体制に戻れと命令する。


「落ち着け! 奴らは堂々と浮上してきたのだ! やろうと思えば我々が気付かない内にC国艦隊と同じ運命になっていただろう。だが……この艦隊のソナー及びソナー員は米海軍一の有能なのだぞ? それを全て搔い潜って中心まで見つからずここまで来て浮上……とんでもない潜水艦だ」


 ロボスの言葉が終わると同時に観測員から発光信号が出ていますと言うと何を言っているのだ? と聞き返す。


「ええと……我、大日本帝国海軍潜水艦伊400艦長『日下敏夫』少将です、ロボス提督と会談の申し込みを申請します。同意して頂けるのなら返答の発行信号をお願いします」


 発光信号の意味を聞いたロボスは??? の表情だったが直にその会談の申し込みを受諾したとの返答を送ることにした。


「艦長……? よろしいのですか? 罠ではないのですか?」


「罠……? ハハハ、そんな訳ないだろう! 別に日本と戦争をしている訳でもないし奴らは日本の為に動いているのだ。独断で我が国と争う事は絶対ないぞ? それにあの日下と言う艦長に一度はあってみたいと思っていたのだ」


 信号員がロボスの返答内容を発光信号で送ると直ぐに返答が来たがその内容に再び吃驚して直に艦橋に連絡が入る。


「何だと!? 日下少将自らこの“リンカーン”に単独訪問をするだと? 信じられない……そのまま拘束拘禁されてしまうという事を考えないのか?」


「提督、続きがあります! 国籍は違えど一人の海の男と男の対話です、誇りある提督が汚い事をすることは無いと断言します。このような内容です」


 ロボスはそれを聞いて唖然としたが不意に豪快に笑うと確かにそうだ! 海の男同志の対話に駆け引きは必要ないと言い喜んで歓迎しようと返答を送れと命令する。


 返答した直後、伊400の艦橋甲板ハッチが開いて一人の男が出て来る。

 例のホログラムに映っていた人物そのものである。


 日下は甲板に出ると“リンカーン”に向って敬礼すると乗員がゴムボートを海面に設置して日下が乗り込むと同時に動いてリンカーンの舷側に設置されている階段式のタラップ下まで行く。


 ロボス自ら彼を迎えに行くことにして幕僚と共に甲板に出る。

 提督の両側には銃を持ったSPが立っている。


 数分後、タラップを昇る音がして遂に日下は“リンカーン”の甲板に立つと、ロボスを見据えて軽いお辞儀をする。


 ロボスもそのまま日下の前まで歩いていくと二人は同時に敬礼する。


「突然の訪問、申し訳ありませんでした。提督の寛大なる答えに感謝します」


「こちらこそ、あの潜水艦の艦長に直々にお会いできるとは光栄です! まあ、ここでは何ですから貴賓室に行きましょうか」


 ロボス提督の後を歩く日下に乗員達はある畏怖を覚えていたのである。

 何百年も生きて来た男のオーラに圧倒されていたのであった。

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