インターバル3
第55話 月と地球
遠くに見える青い地球。
かつて人類が月面に着陸し、撮られた写真には青い地球が映っていた。その写真も綺麗ではあったが、やはり生の方が美しい。
現在私が見ている地球は、前世の地球と島の位置が異なるが、綺麗なことには変わりない。
思わず溜息が出てしまいそうなほど美しい青の地球を眺めながら、私は紅茶を飲む。白桃の甘い香りがした。
第3ラウンドが終了し、私たちは最後のインターバルに入っていた。ラウンドの最後は私とエイダンの絶叫で終わったが、次に転移した場所はそれはそれは静かな場所。
昂っていた感情も自然と落ち着いた。
ただ――――。
「よかったですね、殿下」
「………………」
「生き残れなかったら、月で茶を飲めませんでしたよ」
エイダンは地球を見るのは始めてだろう。月に来ること自体初めてだろう。まぁ、私も初めてだけど………。
目の前の彼は、地球ではなく、私をずっと睨んでいた。穴が開きそうなぐらい目を見開き、眉間に山脈のような皺を作り、口を歪ませている。相当お怒りのようだ。
「さっさと次のラウンドに入れ。お前を殺す」
「まぁ、殿下。そう焦らずに、時には休憩も大切ですよ」
「俺に休みなどいらない。お前を殺す」
すると、エイダンはカップを持ち、立って私の横まで行くと。
「………………」
彼はカップに入った紅茶を私にぶっかけた。熱々の紅茶じゃなかったので火傷はせず、私はエイダンの紅茶を静かに浴びた。
「お前と茶を飲む気はない。早くしろ」
私は反応することなく、そのまま紅茶を優雅に飲み続ける。
「殿下、あそこにある青い星なにか分かります?」
「………………」
「あの星って私たちがいた場所なんですよ。感動しませんか?」
「………………」
「今いる場所は月なんですよ。月面で紅茶なんて素敵ですよね」
最後に残った1人と地球を見ながら、紅茶をしてみたい。そう思って、最後のインターバルは月面にしてもらった。まぁ、相手は全然乗り気じゃないけど。
「ああ、月って1年で3㎝ずつ地球から離れていってるみたいですよ」
「………………」
「もし、月が完全に離れたら、地球は高速自転。今みたいに穏やかな気候じゃなくなるみたいです。人間は住めなくなるかもしれませんね」
私から視線を逸らすエイダン。
彼の瞳には青い地球が映っていた。
前世を思い出す前までのアドヴィナはエイダンが好きだった。彼から離れることを全く望んでいなかった。
だから、彼に冷たく当たられようと、双子からの死にたくなるような暴力を受けようと学園を去ろうとはしなかった。
最後までエイダンを信じていた。
いつか自分に向いてくれる日が来るって。
でも、私は違う――――。
「アドヴィナはあなたたちから離れられなかったけど、私は月のようにあなたたちから離れる。あなたたちを殺して、存在を失くす。たとえば、こんなふうに――――」
パチンと指を鳴らす。
ドガッ――――ンッ!!
すると、そんな音が聞こえてきそうなぐらい、地球は激しく爆散。
「全てを消す。1人残らず、ね」
月まで地球の破片の隕石が飛んでくる。インターバル中は絶対に死なないと分かっているため、動揺はしない。エイダンも取り乱すことはなく、というか隕石にも気づいていないよう。
「脅しているのか」
「脅しじゃないです。宣言です」
エイダンから目を逸らすことなく、はっきりと答える。すると、エイダンは落ち着きを取り戻し、席に着いた。不機嫌そうなところは変わらずだが………。
噴石が煩わしくなったので、もう一度指を鳴らし、あの青い地球に戻した。
「復讐したかったのなら、俺だけゲームに引き込めばよかっただろうが」
「復讐相手は殿下だけじゃありませんから、他の人も憎くって全員ぶっ殺したかったんです………それにこれは戦争ですから」
「………………」
私が話す『戦争』――――。
エイダンもきっと薄々感づいているのでしょうね…………その戦争が『私と自分』という関係だけでなく、他の対立関係もあることに。
「残りはあなた1人。あなたを倒せば、ゲームクリア」
ティーカップを起き、私はエイダンに向かって指をさす。彼はじっと私を睨むだけ。瞬き1つしない。
「………デスゲームで死んだ者は本当に死んでいるのか?」
「ええ、死んでますとも。死体は保管してありますので、後でちゃんと埋葬してあげますよ」
「………デスゲームの目的は、俺たちの復讐以外に何がある?」
「えー、それもう話しちゃいます?」
「言え」
「ぃやです」
…………ふんっ、私が話さなくても、どうせ分かってるくせに。
「そんなに気になるのなら、次のラウンドで勝ったら、話してあげますよ…………さぁ、他に聞きたいことは? 遠慮なく尋ねてくださいませ」
「質問などない」
「まぁ、そうは言っても、どうしても聞いておきたいことは1つぐらいありますでしょう?」
「…………」
「インターバルは1時間ありますから、何でも質問してくださいな」
「…………もうお前と話すことなんてない」
エイダンは紅茶を一口だけ飲むと、さっと立ち上がる。
「絶対お前を殺す」
「はいはい、分かりましたよ」
そう言って背を向けるエイダンは、隕石が降ってくる月面を歩き、どこかに消えた。散歩でもするつもりなのだろうか。
そうして、私は何よりも青い地球を眺めながら、1人静かにお菓子をつまみ、紅茶を飲む。
「あと少し……あと少しでゲームが終わる………」
寂しいような、嬉しいような。準備期間が苦しくって長いように感じていたけど、いざやってみるとあっという間だった気がする。
「でも、油断は禁物ね」
エイダンも頭の回る男だ。私の想像以上斜めを行く戦略を見せてくるかもしれない。この前みたいに気絶させられないようにしないと。
「見ていてくださいね、陛下………」
私はあなたの敵を全て倒しますから――――………。
――――――
明日も更新します。
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