第16話 みぃつけた♡

 今回は短めです。


 ――――――




「これでおしまいっと」


 私の目の前に横たわった1人の死体。穴だらけ、血だらけの死体は、かろうじて人の形を保っていた。その少女の死体を中心に赤い血だまりが広がっていく。

 

「あなたには楽しませてもらったわ」


 冗談ではない本心を、死んだ彼女に話してみる。


 本当の本当に他の人よりも随分と楽しませてもらった。人間離れした身体能力に、どんなことにも瞬時に反応する反射神経。


 噂で知っていたとはいえ、これほどの化け物だとは想像していなかった。殺すのが惜しいと思ってしまうほど、永遠に私の人形ものにしたかった。


 まぁ、それも最後まで気を緩めずにできていたらの話だけど。


 彼女は最後の最後で油断した。甘かった。

 苦しめるような殺し方にしたくって、首を締めての窒息死を狙ったのでしょうけど、それがあだとなった。


 私は息ができなくなって、意識が飛んだわけじゃない。


 あえて、死んだふりをした。意識を飛ばした。

 死んだように目を閉じ、泡を吹いてやった。

 息を、脈を、止めてやった。


 まぁ、死んだふりをしたとしても、彼女がとどめとして銃で胸なり頭なり撃たれていたら、本当に死んでいた。彼女はそういう点で詰めが甘かった。


 彼女が背を向けたところで、私は“生き返り”、最初、彼女がやったように乱射してあげた。ジーナも拳銃を持っていたけど、反撃の隙は与えない。


 弾が尽きるまで、撃って、撃って、撃った。


 乱射を止めると、すでに屍となっていた彼女の体は地面に倒れ、私が勝った。血だまりへ足をつけ、ジーナの死体に近づき、しゃがみ込む。彼女の髪を払い、顔を覗く。

 

「あなた、いつもあんな風にしておけばよかったのに」


 気弱な態度を見せているから、他の人から下に見られたのよ。

 普段からあんなクールで強気でいれば、なめられなかっただろうに。


「…………」


 彼女からの返答はなし。丸メガネは割れ、紫炎の瞳は光を失っていた。メガネを取ってあげると、クロスボウちゃんに似ているかわいらしい顔があった。


 エイダンは彼女の素質を分かっていた。

 分かっていたからこそ、ジーナこの怪物を初手のチームに送り出してきた。


 多分、私の実力を確かめているのだろう。

 時間が経って彼の所に行けば、怪物ジーナ以下の能力と判断し、少人数で対抗。


 一方、怪物があっさり倒して彼の所に行けば、エイダンは私を怪物の実力持ちだと判断。人員を増やして、プランを変更することだろう。


 そう言う理由もあって、あまり時間をかけずに倒してあげた。楽しかったし、1時間ぐらい戦ってもよかったんだけれどね。


 想定内とはいえ、怪物以上と思われれば、彼は多少動揺する。ゾーンに入ったジーナ以上の子ってそうそういないし、仲間の士気は下がってしまう。


 あえて時間をかけて、私を弱くみせてもよかった。


 その場合は、エイダンは少人数チームを複数回に渡って送り出してくるに違いない。それはそれで楽しかったのでしょうけれど、でも、彼の所にさっさと向かいたい。


 となると、まとめて殺す方が効率は断然いい。

 それはある意味RTA。


「あなた、最後の最後まで利用されたわね………」


 エイダンは作戦を立てるために、死を前提に彼女を戦場へと送り出した。彼女は戦場に出された時点で、私に勝つことがない限り死が確定していた。


 彼女はエイダンの手下だったわけだし、彼の命令が絶対とはいえ、あんなやつに利用されて殺されるのはかわいそうだわ。


 あ~あ。

 彼女が学園にいた頃から、私に声をかけてくれていたら、情けをかけてあげていたかもしれない。

 として向かえてあげれたかもしれない。


 思えば、ジーナ以外の子もそれなりに強かった。短気なところはあるけれど、そこさえ目をつぶれば、強かった。 


 エイダンたちの意見を何も考えずに飲み込んだ、バカな子たち。


 能力があるのに、もったいないわ。

 従うべき人間を間違えたわね。


 私はジーナから銃を回収し、穴がぽっかり開いた屋根を上った。

 出た瞬間、風にあおられ、髪が大きくなびく。


 エイダンはきっと別の倉庫で待ってる。

 かなり待たせているだろうし、さっさと行ってあげましょう。


 そうして、私は別の倉庫へ行き、エイダンの部下を倒し、倒した。倉庫を転々としながら、そこにいた人間全員の命を奪った。基本的には銃での狩りだったが、時には首を締め、時には鍬で頭をボールにしていた。

 

 4部隊ほど倒した先の倉庫街の中央にあった、大きな倉庫。そこに入るとあったのは、2階をぶち抜いたような吹き抜けのある大きな部屋。これから運ぶのであろう1メートルはある木箱が積み重なっていた。


 誰かいそうなものだが、人の気配がない。

 音一つない。

 そんな物静かな部屋の中央で人を見つけた。


 あれは――――。


 壊れた屋根から差し込む青白い月光に照らされる1つの椅子。

 その似合わない古びた椅子に座っていたのは1人の青年。

 

 髪ですぐに誰か分かった。


 眠るように目を閉じていた彼はそっと開眼し、ずっと睨まれ続けていたあの橙色の瞳が現れる。


「――――――やっとぉ、みぃつけた♡」


 大部屋に1人椅子に座って私を待っていた人。

 それはずっと追いかけていたエイダンだった。




 ――――――


 明日も2話更新です。第17話は7時頃更新します。

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