第2ラウンド
第20話 夏だ! 水着だ! ギャンブルだ!
「目の前に広がるのは満天の星空!」
気づけば出ていたのは、いつも以上に上気した甲高い声。
豪快に手を広げ声を上げる―――そんな私に、強制移動させられ先ほどまで挙動不審でいたプレイヤーはただただ呆然。奇妙なものを目前にしたかのうように、目を丸く、口はパカーン。
彼らが驚くのも無理はない。
ゾンビランドという壮絶な会場だった第1ラウンドに続く、デスゲーム第2ラウンド――――それがどんな会場なのか、どんな
だからこそ、警戒を高めなければならない。
自分の生死が決まるのだから、気を引き締めなければならない――――だが、そんな覚悟は、私の一声で崩れてしまったことだろう。
「魅力的な水着姿のガールズボーイズ!」
でも、この状況を前に興奮を抑えきることができるだろうか?
目の前にいるのは水着姿のナイスバディな美男美女。前世で写真集を売れば、すぐに重版しそうなほど美しい。
私が彼らを憎んでいるのは事実。
だが、モデル並みの美貌に感動するのも事実。
ゆえに、感嘆。
「そして、お城並みに広大な豪華客船!」
そう。
天空の島から移動した先は、なんと豪華客船。
全長300メートルもある巨大な船舶だ。
「あははっ! ここでデスゲームができるなんて最高ね!」
現在、私たち――――プレイヤーがいるのはその屋上。何種類ものあるプールの傍で、呆然と私を見つめるのは第1ラウンド生存者。
風は爽やかに吹き、上を見上げれば、星々が煌めく夜空が広がっている。飾られたライトは、バケーションのおしゃれな雰囲気を作り出していた。
「みんなの水着、とっても似合っているわ!」
普段であれば、憎い相手に誉め言葉など送りはしたくない――――全員嫌いだから。だけど、昂った感情の私の口からは、自然と賛美の声が出ていた。
折角の豪華客船――――ドレスが似合うその会場。
先程まで彼らが着ていたドレスやコートは泥やほこりで汚れ、戦闘中に破けたりし、ゴージャスさから一転、ボロ雑巾状態。
その状態で第2ラウンドはあまりにももったいない――――そう考えた私は、第2ラウンドの参加者に色直しとして、水着に着替えてもらった。
ある人は古き良きスク水だったり、ある人は「それ、着ている意味ある?」と問いたくなるようなレイティングギリギリの水着だったり、多種多様。
乙女ゲーム世界ではありえない水着も多数あるが、もちろん全部私がデザインしたもの。1人1人違う案を出し、ナアマちゃんに作成してもらった。
私ももちろん着替えており、クロスホルダービキニとパレオの南国を思わせる水着を着用。それに合わせて雫の形のピアスと青の宝石のネックレス、足首には銀のアンクレットをつけていた。妖艶さを備えながらも、可愛さも忘れない――最高の一着。
さすがアドヴィナ、スタイル抜群だからどんな服でも似合うわ。
私が堂々とセクシーな水着を見せつける一方で、水着は初めて着るのか、女子たちは恥じらい、男子は露出度が高くなった女子に鼻の穴を大きくさせる。
ゲスめ………とそう思わずにはいられなかったが、唯一エイダンは私を真っすぐ見据えていた。私は笑顔を作り直し、淑女のように深く頭を下げた。
「改めまして、皆様! 第2ラウンドの会場――――豪華客船へようこそ! 船は皆さん初めてですよねッ!? 船酔いは大丈夫でしょうかッ!?」
と聞いてみるものの、蒼白な顔の人は誰1人いない。船酔いなんかで脱落されるのは私の本望じゃない。当然、船酔いや風邪にならないように設定している。
うふふ………ちゃっかりしてるでしょ? 私。
「豪華客船なんて、皆様にはなじみないかと思いますので、しっかりとご説明いたしましょう! では、ナアマちゃん! ルール説明を!」
「かしこまりました」
御意と言わんばかりに背後から現れたのはメイド服のナアマちゃん。超絶クール美少女な彼女の横顔は、相変わらず凛々しい。同時に頼もしさを感じた。
「アドヴィナ様に変わって、
ナアマちゃんがお辞儀をすると、ブォンと電子音とともに空中に船の立体図が浮かびあがった。魔法が中心の世界にいたプレイヤー。馴染みのない立体地図に、珍しさを感じてか全員が注視していた。
「この船には、カジノ、スケートリンク場、プール、舞台、バーなど様々なレジャー施設や多くの客室がございます。それら全てが今回のゲーム会場となっております」
船の立体図近くに施設の写真が映し出された。想像もつかないのだろう……そんな未知の世界に、どこからか感嘆の声が聞こえてくる。
「ただし、海に落ちた場合は指定の位置に戻ります。その指定の場所はここでは公表いたしません。どうか転落にご注意ください」
今回、武器は銃器以外の使用可能となっている。割合的には刃物系が多い設定。もちろん、日本刀なども入れている。
武器は初めに1つだけ配布されるが、またさらに別の武器を手に入れたいとなると、フィールドの至るところに配置されているものをゲットしなければならない。
別に1つでいい――――そういう人は新たな武器を探す必要もないが、最初に何を持つかによって、戦術が変わってくる。
もちろん、初期武器は自身で選択でき、スタート前の移動後、ちゃんと時間が用意されている。また、第1ラウンドと同様、魔法の使用は不可だ。まぁ、使っても面白いとは思うけれど、今回は会場のギミックを堪能していてほしい。
「移動方法については、鏡で転移ができます。いたるところに設置されていますので、ぜひご活用ください。ただし、移動先はランダムに繋がっていますので、転移する際にはご注意ください」
ランダムな転送先――――それは当然私も把握していないし、ナアマちゃんすら把握できていない。本当に無作為転移なので、移動先は乱戦状態かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
逃げた先として、鏡の中を通り抜けても、その先が必ずしも安全地帯とは限らない。敵が待ち構えている可能性も十分にある。だから、鏡移動はほぼ運試し。
「ゲーム開始時にはお好きな鏡を選んでもらい、その鏡へ飛び込んでいただきます」
また、その最初の鏡も当然ランダム。いきなりスイートルームや、他のプレイヤーに遭遇する可能性だってある。
ギャンブルみたいで絶対面白い。
はぁ…………ワクワクが止まらないわ。
「最後に、第2ラウンドの終了条件は、生存プレイヤー30人となっております」
その一言で、落ち着いていた会場がざわつき始める。
現在の
それが半分以下、6分の1の30人になるのだ。
驚くのも無理はない。
―――――が、このルールを変えるつもりは毛頭ない。
次のラウンドのことを考えると、この人数は妥当。このくらい減らしておかないと、次が大変になってしまう。
「説明は以上となります。質問があれば、5分間だけ受け付けます」
声を上げる人はいない。だけど、律儀なナアマちゃんは一秒もたがわず、きっちり5分間待ってから、再度話し始めた。
「皆様のご健闘をお祈り申し上げます。では、アドヴィナ様にお返しいたします」
「どうもありがとう、ナアマちゃん」
ナアマちゃんが下がると、プールの中やプールサイド、いたるところに額に入った鏡が出現。驚いたのだろう、付近にいた人たちはビクッと体を震わせていた。
これも予定通りの演出。
始めしか使用できない180個の鏡を用意させた。
「では、皆さん。お好きな鏡をお選びくださいませ。あ、ただし1つの鏡に入れるのは1人だけですよ~。カップルの方はごめんなさーい」
そう言うと、引っ付いていたカップルの顔は安堵100%から、絶望の底へと落ちる。
申し訳ない気持ちなんてない。ハッ………ざまあみろ、デスゲームなめんじゃねぇーよ、という思いしかなく、口元から嘲笑が漏れ出る。
「ねぇ、アドヴィナはどの鏡を選ぶの~?」
みんなが鏡を厳選する中、いつの間にか近くに来ていたセイレーン。
第1ラウンドでは祭服だった彼だが、今は現代風の水着を着衣。白のパーカーに白の半ズボン。靴は白の厚底スポーツサンダルを履いていた。その所々にセイレーンの瞳の色――水色と黄色のラインが入っていて、かわいらしい。
これも私がデザインをして、ナアマちゃんが手作業で作ったものだった。ナアマちゃんの裁縫技術はプロ並みね。
「私は残り物でいいわ」
「へぇ、じゃあ、僕もそれでいいやー」
笑みの顔を崩さないセイレーンは私の足元に座り込み、周囲を眺めていた。
「ねぇ、アドヴィナ」
「………何?」
「3ヶ月ぐらい前から、集団誘拐があったじゃーん? 多くの人が行方不明のままになっているやつー」
そんなこともあったわね。
事件当日は新聞の一面を飾っていた気がする。
「あれって君がやったの?」
「………………」
ちらりと横目で見ると、オッドアイで真っすぐ見つめたセイレーン。問い詰める様子はなく、ただただ真実を知りたい好奇心が見えた。
「ええ、そうよ」
端的に答えると、なぜか笑顔になったセイレーン。何が知りたかったのやら。
そうして、私とセイレーン以外のプレイヤーが鏡を選び終えたことを確認すると。
「どうぞ。鏡に飛び込んでくださいませ」
優しくこちらが促すと、沼にハマるように、吸い込まれるように、怯える顔のプレイヤーは鏡の中へと消えていく。そんな中、エイダンだけは私から目を逸らすことなく。
「――――」
「…………」
最後まで闘志が宿った瞳を向け、消えた。
静まり返ったプール会場に残ったのはセイレーンと私。
「僕はこれにするよー」
彼が選んだのはプールの間にあったバー近くあった楕円の鏡。
「アドヴィナ」
セイレーンは鏡の前に立つと、いつになく真剣な声で私の名前を呼んだ。
「何かあったら、僕を呼んで。僕がどこにいても、いつだって君の元に駆けつけるから」
「…………そう。頭の片隅に置いておくわ」
セイレーンの約束は嘘だと分かる。
そんなことはこの
適当に答えた私の返事に、彼はにひっと笑顔を見せる。
「じゃあね、アドヴィナっ! また会おーっ!」
そうして、手を振って、鏡の中へ入り込み。
屋上のプールには私1人と最後の1つの鏡だけ。
プールの水の上で漂う長方形の鏡はただ静かに私を待っていた。
「アドヴィナ様、武器をどうぞ」
先ほど裏方にはけたナアマちゃん。再度現れた彼女は、1つの武器を両手で差し出していた。
……………………さすがね、ナアマちゃん。
私のこと、よく分かってるじゃない。
ゲーム開始前から使うと決めていたそれ――――黒の鞘に収まった日本刀。その鍔には月と星々の模様が描かれている。その美しい日本刀を、私はニコリと微笑んで受け取った。
大剣などテストの際に試したが、やっぱり日本刀が手に馴染みやすい。やはり母国の武器だからだろうか。
そんな見とれてしまうほど美しい日本刀を一瞥し握りしめて、ステージから下る。鏡の傍のプールサイドまで歩いていった。
何十人入ってもはしゃげそうな広いプールに1つ浮かぶ、暗闇を移す鏡。
――――この鏡はどこに繋がっているのかしら?
そう願いながら、走り出す。そして、助走をつけ、プールの端で踏み切り、空高くジャンプ。
『まもなくゲームが始まります。準備をしてください』
空中に飛んだ瞬間、ナアマちゃんのアナウンスが響く。
さぁ、どこに出るかしら――――?!
ビィ――――ッ!!
そして、私はゲーム開始を知らせるブザー音とともに、底抜けに暗い闇の鏡にめがけて飛び込んだ。
★★★★★★★★
「…………」
地面にへばりついた体を起こす。
そこに響くのはドガンっと何か飛び出しぶつかる音、コロコロとボールの転がる音、ジャン!ジャン!と当たりを知らせる騒がしいベル音――――思わず耳を塞ぎたくなる喧喧たる音が響いていた。
………………随分と騒がしい場所についたのね。
目を開け立ち上がった先に見えたのは、キラキラとした眩しい場所。
天井には豪華なシャンデリア。
ガジャガジャとうるさい音を鳴らすスロット。
私の移動先――――それはカジノ会場。それを象徴するポーカーテーブルには柔らかな微笑みを浮かべるディーラーが立っていた。
へぇ…………ここが最初の私の戦場になるのね。
船上にスタッフはいるが、この人たちを殺したところで意味はなさない。ゲームで言えば、NPCといったところ。人間らしく反応するが、その場から逃げたりはしない。生きていないに等しい存在。
そのディーラーが管理しているカジノエリアは思っていた以上に広い。今いる場所からは、スロットマシーンなどの障害物があり、全体を確認することはできない。見える範囲で確認したが、ディーラー以外には人は見当たらなかった。
もしかすれば、スロットの向こう側に人がいるかもしれない。そう期待した私は、武器を握りしめ、ステップを踏んで進んでいく。
テストの時は
「初めにお会いするのが貴殿とは…………これもまた運命」
「…………」
会場の中央にいたその男。
体のラインが完璧で、筋肉美が眩しいラッシュガードを着たその男。
正直、彼はこの会場に似つかわしくない。
アンマッチすぎる。
江戸時代の日本を思わせる総髪の黒髪。『何も見えていないのでは?』と疑いたくなるような糸目。
その彼が持っていたのは――――自分と同じ身長ぐらいの長さがある大太刀。
「武士の心、いざ汝にさずけん――――」
私の転移先のカジノ会場――――そこには本物の武士が立っていた。
――――――
明日からは1話更新となります。ただし、土曜日は2話更新する予定です。
第21話は明日の7時頃に更新いたします。
毎日更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。<(_ _)>
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