アニオタ兄とミリオタ妹の異世界戦記~明日夏INパラダイス特別編~

@Ed_Straker

第1話 異世界へ

 この異世界転移の物語は、アニソン歌手、アイドルユニット、地下アイドルユニットやそれを取り巻く人々の活動を描写した、日常系とラブコメを2で割ったような構成のライトノベル『明日夏INパラダイス』のサテライトストーリーである。そして、本編の登場人物である岩田誠と尚美の兄弟が異世界に転移し、名前と性格が本編と類似している登場人物たちと協力して、人間の絶滅を目指して戦いを始めた魔王軍エスディジーズ18を撃退し、プラト王国を救う話である。物語を始める前にこの物語の本編の主な登場人物と、その本編での役割を簡単に紹介する。なお、芸名やSNSの名前がある場合は、芸名を主とし、本名をカッコの中に記す。

 神田明日夏(芸名と同じ、高校卒業2年目):本編の主人公で、ヘルツレコード所属・パラダイス興行のアニソン歌手である。周りからは天然でお気楽な性格と思われている。

 大河内ミサ(鈴木美香、高校卒業2年目):ヘルツレコード所属・溝口エイジェンシーのロック系のアニソン歌手で、野性味がある超美人かつスタイルも良く歌も上手い。力持ちで負けず嫌いであるが、高校までは引きこもりだったため内気である。性格が正反対の明日夏と仲が良い。

 星野なおみ(岩田尚美、中学2年生):ヘルツレコード所属・パラダイス興行の3人組アイドルユニット『トリプレット』のリーダー。兄を守るため小さい時から武道を習っており運動神経が良い。頭が良く国際政治に興味があり、ミリオタの面がある。

 湘南(岩田誠、大学2年生):岩田尚美の兄、神田明日夏のファンである。2名からなる地下アイドルユニット『ユナイテッドアローズ』の音楽の世話をしている。大岡山工業大学では情報工学系に所属している。明日夏は誠をマー君と呼ぶ。

 平田悟(30歳):パラダイス興行社長。イケメンで誠実な性格をしている。

 橘久美(30歳):パラダイス興行のボイストレーナーであり唯一の正社員である。姉御タイプの性格をしている。

 南由香(山田由香、高校卒業1年目):『トリプレット』でダンスセンター、活発な性格で、高校生のときにダンス部先輩だった豊という彼氏がいる。

 柴田亜美(佐藤亜美、高校2年生):『トリプレット』のボーカルセンター。ショタ好きのオタクで、『ユナイテッドアローズ』関係者からはミーアと呼ばれ、仲もいい。

 アキ(有森杏子、高校2年生):地下アイドルユニット『ユナイテッドアローズ』のリーダー、アニメオタク。初めは誠やパスカルを利用しようと近づいてきたが、いっしょに活動しているうちに人を思いやる心を持ち始めている。

 ユミ(堀田美咲、小学5年生):『ユナイテッドアローズ』のメンバー。コッコからは、魔性の女子小学生と呼ばれている。岩田誠の妹の岩田尚美はユミが兄の誠を利用しようとしていると思い、ユミのことを嫌っている。

 マリ(堀田真理子、31歳):ユミの母親。『ユナイテッドアローズ』のメンバーのボイストレーナーをしている。

 パスカル(小沢健一、20台後半):公務員であるが、アキに担がれてボランティアで『ユナイテッドアローズ』のプロデューサーをしている。

 ラッキー(豊田功、30台中盤):アニソン歌手のDD(誰でも大好き)であるが、『ユナイテッドアローズ』を個人事業主として経営管理の面から支えている。

 コッコ(小林晴海、大学3年生):大岡山工業大学では融合理工学系に所属している。絵師、BL漫画を描いてコミケなどで販売している。芸術のためになら人間性を犠牲にすることを厭わない性格をしている。


 さて、本編でも書かれている話から、この物語を始めることにする。


 週末に明日夏とミサが出演するハワイでのライブが開催される週の水曜日、誠と尚美は購入した防犯・防災グッズを家の車に載せて、国道232号線を辻堂の自宅に向かっていた。

「お兄ちゃん、ハワイで着る前後セラミックプレート入りの防弾チョッキと耐火服は買えたけど、ハワイではあまり無理はしないでね。」

「まあ、防弾チョッキは念のためという感じだよ。」

「防災グッズも、これだけ買っておけば、かなりの災害があっても大丈夫だね。」

「うちの場所は、海抜が低くて海から遠くないから、津波の時にゴムボートだけだと心配と言えば心配だけど。」

「逃げられるようなら、高いところに逃げる方が無難か。」

「そう思う。その時に防寒グッズが役に立つとは思う。」

「あれ、お兄ちゃん、何か急に霧が出てきたね。」

「そうだよね。晴れていたのに不思議だ。それもどんどん濃くなってきている。・・・・ちょっと危険だから車を止めるね。」

誠はハザードランプを点灯させ、車を左の路肩に寄せ停車した。

「霧が晴れるまで待たないといけなさそう。」

「分かっている。お茶でも飲む?」

「そうするか。」

誠と尚美がお茶を飲んでいると、霧はさらに濃くなって、あたりが全く見えなくなってきた。

「霧が晴れるまで仕方がないね。」

「うん。」

その時、誰もいないはずの後席から声がした。

「マー君、尚ちゃん。」

二人が後ろを振り返ると、女神の恰好をした明日夏がいた。

「明日夏さん!?えっ、何で急に。まさか何かの事故で死んだとかじゃないですよね。」

「私は神田明日夏の幽霊ではない。脚もあるだろう。私は全能の女神ドゥマン・エテである。」

「フランス語で明日・夏ですが。」

「マー君、神田明日夏は死んだ後に、全ての平行世界、全ての時空に広がる全能の女神になったんだよ。」

「全知全能ではないんですか。もしかすると、全知になるのは頑張っても無理だったんですか?」

「頑張ってもって何だ。頑張ってもってとは。別に何も頑張っていない。」

「確かに頑張る性格ではないです。それで、女神になったのは、インキュベーションを専門とする宇宙人と、何か悪い契約でもしたんですか。」

「特に契約はしていないが。なぜかそうなった。」

「まだ分からないことも多いのですが、とりあえず全能の女神ドゥマン・エテさんが僕たちに何のご用なんですか?」

「とある平行世界のプラト王国が魔界の生き物に攻め滅ぼされそうになっている。それを助けて欲しい。」

「女神さんが自分で救えばいいんじゃないですか。」

「それは禁止されている。」

「禁止って、それは自分で決めたルールなんじゃないですか。」

「何でそう思う。」

「何によって禁止されているか言わないからです。」

「マー君は、相変わらず賢いな。」

「それで退屈しのぎに、僕たちが助けるところを見物しようと考えているのでしょうね。」

「なぜ分かる。」

「明日夏さんが女神になったらそう考えそうだからです。」

「その通りだ。永遠の命がどれほど退屈か、マー君も神になってみたら分かる。」

「そうかもしれませんが。」

「しかしマー君、プラト王国の人間もマー君や尚ちゃんと同じように感じたり悲しんだりする人間であることは変わりない。その人達が魔界の生き物にひどく苦しめられている。マー君はそれを助けないと言うのか。」

「たくさんの人が亡くなっていたりしているのですか。」

「その通りだ。それにたくさんの人間の女性が魔物に凌辱されている。」

「全能の神様には、そういうことをするのを悔い改めて欲しいところですが、人間もサバンナの肉食動物が草食動物を捕らえて食べていても止めないですし、見物したりもしますから、神様にとっては人間の耐えられない苦しみも、そんな感じなんですか。」

「まあ、いちいち干渉するのも面倒くさいし。」

「面倒くさいんですね。分かりました。仕方がありませんから僕は行きますが、妹はやめておいてもらえますか。」

「お兄ちゃん、私も行くよ。お兄ちゃん一人だと心配だし。」

「最初に二人に言っておくが、向こうの世界での死は、この世界での死につながる。」

「そうなら、やっぱり尚は残って。」

「ううん。それなら絶対残れない。」

「尚は言い出すと聞かないけど。それで向こうの世界に行くにあたって、僕たちに何か特典はあるんですか?」

「尚ちゃんは妖精になって空を飛べる。さらに、全ての関節にマグネティックコーティングを施す。理論上は無限大の速さで体を動かすことができる。」

「うちの妹は、ロボットだったんですか。」

「機動戦士はロボットではない。」

「それはそうですが。」

「マー君も妖精になって、ロケットパンチを装備する。」

「ロケットパンチって、最近の人は知らないんじゃないですか?」

「今でもネタでたまに出てくるだろう。だがマー君に装備するのは、単なるロケットパンチじゃない、有線式で動きを制御することが可能だ。」

「なるほど。」

「さらに、秘密の呪文を唱えると、もっと強くなる。」

「何ですか、秘密の呪文って。」

「それは秘密です。」

「秘密って。」

「自分で思いつく必要がある。」

「そうなんですね。分かりました。」

「諦めがいいな。」

「それを思いつくところを見ることも、ドゥマン・エテさんの楽しみの一つなんだと思ったからです。」

「その通りだ。それではプラト王国を救ってくれ。頼んだぞ。」

「了解です。性格が明日夏さんのままの女神様なら、何を言っても無駄ですから。」

「良くわかっている。」

辺りが一瞬明るくなり、その光が消えると誠と尚の車は森の中だった。


 二人は車の中から辺りを見回す。

「お兄ちゃん、急に森の中になった。多分、異世界に転移したみたい。」

「そうだと思う。幅はあるけど路面は土だ。蹄と車輪の跡があるから馬車が通る道なんだと思う。とりあえず、僕が周辺を警戒しているから服を耐火服に着替えて、防弾チョッキとヘルメットを被って。パラボラマイクを貸してくれる?」

「分かった。」

誠が双眼鏡とパラボラマイクで周辺の警戒を始め、尚美が着替え始めた。

「あれっ、背中に羽が生えている。」

「ドゥマン・エテさんが、尚は飛べると言っていたから、そうなるかもしれない。後で羽が外へ出るように服を加工する必要がありそうだから、飛ぶのは後にしよう。」

「そうする。」

少しして尚美が着替え終わる。

「お兄ちゃん、着替え終わったから、交代。」

「かなり遠くからだけど、男性の悲鳴が聞こえた。気を付けて。」

「分かった。警戒は怠らない。」

誠も着替え終わる。

「尚、どう?」

「今のところは、異常はなさそうだった。」

「そうか。悲鳴もかなり遠かったから、僕は車の外に出てみる。念のため尚も棒状のスタンガンを装着して。」

「分かった。でも私も外に出る。車の中が安全とも限らないし。」

「それもそうか。それじゃあ一緒に車の外に出てみよう。」

「うん。」

二人が車を降りて、再度、周辺を警戒する。

「魔物とかはいなさそう。」

「僕の方も確認できない。僕はとりあえず悲鳴がした方へ行ってみる。」

尚美は「私なら悲鳴がした反対方向へ行くけど、お兄ちゃんなら仕方がないか。」と思いながら同意した。

「分かった。私も行く。その前にロケットパンチを試してみて。」

「ロケットパンチって本当なのかな。普通の手にしか見えないけど。」

「ドゥマン・エテさんが明日夏先輩と同じ性格なら、こういうことで嘘はつかないと思うよ。」

「それもそうだね。やってみるか。」

誠が腕が飛び出すように念じながら、

「ロケットパンチ!」

と叫ぶと、腕の肘より先の部分がロケット噴射と飛び出した。腕は線でつながっていて誠が念じたとおりにコントロールすることができた。

「どうやってロケット推進ができるんだろう。無茶苦茶だな。」

「お兄ちゃんが狙った方向にパンチすることはできる。」

「それじゃあ、あの枝を狙ってみよう。」

腕が枝をかすめて飛んで行った。

「難しいけど、練習すれば大丈夫そうだ。」

「それで、腕は戻せる。」

誠が腕が戻るように念じると腕が戻ってきて、腕の肘より元の部分と結合した。

「どう。」

「何とかなりそうだけど、原理がよく分からない。」

「明日夏先輩が作った世界だから仕方がないかもしれない。」

「2次元の世界を3次元化した感じだ。これなら尚も飛べそうだね。」

「うん、それは少し楽しみかもしれない。」

「それじゃあ、悲鳴がした方へ車でゆっくり進んでみるよ。」

「分かった。」

二人が車に乗り込んだ。そして、尚美が周辺を警戒し、誠は時々車を停車させながら、ゆっくりと車を進めた。双眼鏡を見ていた尚が静かに言う。

「止まって。」

「どうした。」

「前からオーク。」

「本当に!?」

「本当。オークが1匹と、見ずらいけど、そのオークの後ろに腕を引っ張られている女の人がいて、こっちに歩いてきている。」

「後ろの人は人間?」

「下を向いていて良く分からないけど、人に近いことは確かだと思う。でも、お兄ちゃん、もしその女の人を助けたいなら、絶対に先制攻撃をかけた方がいい。」

「そうだね。尚の言うことは分かる。」

誠は車を左に寄せて止め、二人は警戒しながら自動車を出て、木の幹に隠れて、オークと女性の様子を探っていた。

「二人が知り合いということは?」

「0%とは言わないけど。でも、女性の服が少し破れているし、怖いから付いて行っているようにしか見えない。」

「分かった。安全のためにも、非致死的な攻撃で先制する。」

「どうやってやるつもり?」

「車に気を取られているスキにロケットパンチを使ってみる。」

「それなら、顎の先を全力で狙って。あのオークに変な情けは掛けないように。そして、ロケットパンチを放ってオークが倒れたら、急いで車を出すための準備をして。」

「ここから離脱するためだね。了解。尚はどうするの?」

「木の上にいる。」

「うん、それが安全だね。」

「あと、私がお兄ちゃんの周りも監視しているけど、お兄ちゃんもオークだけに気を取られないように。」

「分かっている」


 尚美がトランクから刃がケースに入ったセラミック製の包丁を2本取り出しし、ガムテープで自分の左右の太ももの外側に止め、自動車の牽引用ワイヤーと紐を肩にかけて木に上った。誠も身を隠せる位置についた。誠が後ろを見回しても不審な生物はいないようだった。誠は少しでもパンチの威力が強くなるように両手に石を握った。木の上の妹が、時々オークまでの距離を手で合図をして誠に知らせた。やがて、オークの足音が聞こえてきた。誠が木の幹に隠れながら見ていると、女性は黙ってオークの後ろを歩いていた。誠の頭にミサが中年の男の手に引かれている様子が思い浮かんだ。誠は「何だろうと?」思いながらも目の前のことに集中した。


 オークが自動車の前に来た。尚は身を隔しながらも、誠に待てのサインを送っていた。

「尚はオークの注意を自分にひきつけるつもりかもしれない。でも、ここからじゃ止めることもできない。」

オークが女性に尋ねた。

「何だ、変わった形の荷車だな。おい鈴木の娘、これはお前の街の物か?」

女性は下を向いたまま首を横に振った。

「下を向いたままじゃあ見えないだろう。」

オークは女性の両手を片手で持ち上げて、女性の顔を自分の顔に寄せた。

「本当に奇麗な顔をしているな。お前、状況が分かっているのか?お前をこのまま俺たちの村に連れて帰ったら、お前はゾロモン将軍の部下たちにもて遊ばれ、八つ裂きにされるだけなんだぞ。それはお前の街に帰っても同じだ。もうすぐ街のやつらと一緒に殺されるだけだ。やつらは俺たちと違って人間を皆殺にしようとしている。やたら強いが、頭がいかれているんだ。お前の街の守護神の橘だってゾロモン将軍には勝てない。なあ、俺はあいつらほど酷くはない。俺の言うことを聞いて俺の妻になった方が何不自由なく、天寿を全うできるんだぞ。」

女性は横を向いたまま何も言わなかった。

「嘘は言わない。実を言うと、俺はずっとお前のことを狙っていたんだ。だから、ゾロモン将軍の部下たちも知らない俺たちの秘密の洞穴にかくまってやるよ。そうすればお前だけは殺されないで済む。」

オークが敗れかけた女性の服を剥ぐ。

「奇麗な体に奇麗な肌だな。おれはついているぜ。」

オークが道の脇の草むらに女性を降ろし、そのまま押し倒して女性の上で四つん這いになり、手で体をまさぐる。女性は涙を流しながらも黙っていた。

「そうそう、お前はただただじっとしていればいいんだ。家事は子分にやらせる。食事も人間用のものを用意してやる。お前は俺の最高のお人形として大切にしてやる。へへへへへ。」

オークの全神経が女性に向いた時、尚美がオークの目の前に飛び降りた。オークが驚いて尚美を見上げると、尚美がオークの顎を指さした。オークが叫ぶ。

「何だお前!」

尚美の行動を見た誠が腕を上げ、見上げたために狙いやすくなったオークの顎に向けて、叫ぶ。

「左ロケットパンチ!・・・・・・右ロケットパンチ!」

左のロケットパンチが顎に、右のロケットパンチが頬に当たり、オークは気絶して横に倒れた。尚美が叫ぶ。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんは、女の人を車に連れて行って。そして、車の発進の準備を!」

「分かった。尚は?」

「オークを見てからすぐ行く。」

誠が女性に駆け寄り話しかける。

「立って下さい!」

女性が動かなかったので、誠は破れた服を掛けて女性の手を引いて立たせた。誠は顔を見て少し驚いたが、また話しかける。

「あの自動車、馬車まで動いて下さい!」

予想した通り女性は動かなかったので、誠が女性の背中を押して車の方へ移動した。女性は押されるまま歩いて車まで到達した。誠が後部座席の車の扉を開けて女性の方を見て話しかける。

「乗って下さい。」

女性は、一瞬不安そうな顔をしたが、覚悟を決めたような顔をして車の席に座った。誠は扉を閉め、荷物室から自分の防寒着を取り出し女性に渡して、運転席に向かいエンジンをかけた。女性は変わった馬車と思って中を見ていた。誠は車の窓を開けてまだオークの方にいる尚美に向かって叫んだ。

「尚、早く乗って!」

尚美は冷静に答えた。

「お兄ちゃん、車をゆっくり出して。」

「そんなことより、早く乗っ・・・・」

誠が良く見ると、ワイヤーロープの一端が木に止めてあり、オークの首を1周巻いて、その輪を通した後、車につながれていた。そして、オークの手が後ろ手に縛ってあった。

「尚・・・?」

「今の二人の話だと、これまでは人間と共存していたのかもしれないけど、もうこいつらが人間の味方になることはないだろうから。」

誠は瞬間ためらったが、ゾロモンという魔物と一緒に村に攻めてくることは間違いない、そうしたらこの大きさだから被害が大きくなると思って答えた。

「分かった。」

誠が車を出すとオークの首が締り、少しして目を覚まし少し体をバタバタさせたが動かなくなった。尚が包丁を構えて心音を聞いて心臓が停止していることを確認し、目を見て瞳孔が開いていることを確認して時計を見た。3分ほどしてから兄に言う。

「もう緩めて大丈夫。後片付けをするからちょっと待ってて。」

尚はワイヤーロープの後片付けをした後、もう一度心音と瞳孔を確認してから車に乗り込んだ。


 尚美がワイヤーロープの後片付けをしている間、誠は車から降りて、尚美の様子を見ながらうつむいて座っている女性に話しかけていた。

「僕は岩田誠と言います。あの、お嬢さんをお住いの村までお連れします。」

「違います。村ではなくてテームの街です。」

女性が少しだけ強く否定したので、誠が言い直した。

「大変申し訳ありません。テームの街までお連れします。」

「もしかすると、誠さんはこのあたりのことを知らないんですね。」

「はい、初めてです。」

「失礼な言い方をして申し訳ありませんでした。助けて頂いて有難うございました。」

「失礼なことを伺いますが、もしかして、お嬢さんのお名前は鈴木美香とか大河内ミサと言うのではないですか。」

女性が驚いたように答える。

「はい、鈴木美香が本名で、大河内ミサが溝口社長が主催するギルドのレストランで歌を歌うときの名前です。でも、どうしてそれを?」

「風の噂で、このあたりに美人で歌がとても上手な女性がいると聞いたからです。」

「そうですか、有難うございます。でも、本名までご存じなのは?」

「それは企業秘密です。」

「何か特別なご職業のようですね。分かりました。」

「それで、先ほど男性の悲鳴が聞こえたのですが?」

ミサの顔色が急に青くなった。

「そうです。うちの使用人が私を逃がそうと、ゲグルル、あのオークの名前です、ゲグルルにこん棒でお腹を殴られて。もしかすると、死んでしまっているかもしれません。」

「分かりました。とりあえず助けに行きましょう。」

「有難うございます。場所はこの先です。」

車で少し進むと壊された馬車があり、そのそばに中年の男性が倒れていた。それを見たミサが車から出ようとして扉を押したが扉は開かなかった。

「その銀色のレバーを引いてから扉を押してください。」

「はい。」

ミサが扉を開けて男の方に駆け寄る。

「セバスチャン!」

「おじょ・・・・ごぶ・・・・・」

「セバスチャンさんでしょうか、まだ喋らないで下さい。テームの街までお連れします。」

「あり・・・・」

「打撲で内出血が酷いみたいですが、内臓破裂まではいっていなさそうです。」

「治るでしょうか?」

「街の治療の能力が分からないので、何とも言えません。」

「そうですか。うちの街には腕のいいヒーラーがいないので、王都に連れて行くしか。でも、王都は今大変なことになっているから連れて行くわけにもいかないし。」

「とりあえず、美香さん、セバスチャンさんを街まで運びましょう。申し訳ありませんが、セバスチャンさんの右肩を支えて頂けますか?」

「分かりました。私の力で足りるか分かりませんが、私の全力でやってみます。」

「いえ、あまり力を入れないでゆっくりやりましょう。」

「分かりました。」

二人でセバスチャンを持ち上げ、ミサの隣の座席をできるだけ倒してそこに坐らせた。馬車につながれた馬を見てミサに尋ねる?

「馬はどうします?」

「できれば連れて帰りたいですが。」

「僕たちは馬を扱ったことがないのですが、ここにつなげますか?」

「はい、それはやります。私もある程度乗馬はできます。でも、この馬車に馬が見えないのですが、どうやって動いているのですか?」

「ガソリンエンジンですが、たぶんここでは燃料、餌がありませんので、ずうっとは使えないと思います。でも街までお連れするのは、全く問題ないと思います。」

「ガリソンエジサン?よく分かりませんが、とりあえず馬をこの馬車につなぎます。」

「有難うございます。」

ミサが馬をつないで、3人が車に乗り込こんだ。

「街はこのまままっすぐ進んでいいんですか?」

「はい、ここから馬車で20分ぐらいの距離です。」

「分かりました。」

誠が車を発進させ、慎重に運転した。

「美香さん、それにしても、街からこんなに近いところまでオークが出るんですか?。」

「以前はそんなことはなかったです。父の知り合いの地主の人が、夜にオークが金も払わず家畜や村の小作人の娘を連れ去っていくと文句を言っていました。でも、街の人を襲ったりすることはなかったです。」

「あの、もしかすると、このあたりでは家畜の方が小作人の娘さんより価値があったりするのですか。」

「それはもちろんです。牛1頭分のお金で小作人の娘を2人ぐらい買うことができます。馬ならば5人でしょうか。」

「そうですか。」

「誠さんのところは違うんですか。」

「人間の売買は厳格に禁止されています。ですので人間に値段はありません。でも、美香さんは馬より価値があるということですね。」

「馬を残したということは、そうかもしれません。」

尚美が話に割り込む。

「お兄ちゃん、美香さんのせいじゃないから。こっちだって昔はそんなものだし、今でも世界にはそういう所があるかもしれない。」

実は誠は牛の方が人間より価値があり、それを自然に思っているミサに少し腹を立てていたが、尚美の言葉で我に返った。

「ごめん、尚のいう通りだ。美香さん、大変失礼なことを言ってしまい大変申し訳ありませんでした。」

「失礼なこと?そんなことは全然ありません。私とセバスチャンを助けて頂いて感謝しています。助けて頂けなければ、私はどうなっていたかと考えると、怖くて言葉が出ません。あの、そのお礼に何でもしますので、何でも言ってください。」

誠はミサに「そういう怖い気持ちは美香さんも小作人の娘も違いはない」と言いたかったが、「実は僕たちにもそういうことがあるのかもしれない。」と思い直して控えることにした。尚美がミサにお願いをする。

「美香先輩、とりあえず私たちがゲグルルにとどめを刺したことは、街の人には黙っていてくれますか。」

「尚美さん、分かりました。オークたちの仕返しがあると危険ですから、絶対に、たとえ親にも話しません。そうですね、オークは逃げて行ったと言います。」

「有難うございます。」

「美香さん、それで街まであとどれぐらいですか。」

「ここまでくれば、もうすぐです。」

森が開けてきて、森より前が見えるようになった。森の前は刈り取った後の畑で、たくさんのテントが立っていた。そして、その先に街が見えた。街と言っても一辺が200メートル位しかなく、高い石の城壁に囲まれているわけでもなかった。ただ、街は木の柵で囲われていて、4箇所の門から出入りするようになっていた。


 入口には門番が立っていたため、誠はその前で車を止めた。ミサが車の扉を開けて門番に挨拶をする。

「こんにちは。ご苦労様です。」

「これは鈴木家のお嬢様、もうお戻りですか。」

「それが、オークのゲグルルに襲われて、セバスチャンが大怪我をして、この方たちに助けて頂いたところです。」

門番が車の中を覗いた。

「セバスチャンさん!くそー、ゲグルルのやつ、魔王軍が現れてから調子に乗りやがって。噂によると、あいつらはこのあたりの村々を荒らしまわっているということです。分かりました、お嬢様、どうぞお通り下さい。」

「有難うございます。」

誠が車を発進させる。誠たちが行った後、門番が馬車について話す。

「それにしても、あの馬車、馬はどこにいるんだ?後ろの馬は引かれているだけみたいだし。」

「前の部分に、ロバが入っているんじゃないか。」

「ああ、なるほど。だからゆっくりなのか。でも、この国のものじゃなさそうだな。」

「乗っていた若い戦士の鎧もこの国のものじゃなさそうだし、そうだろうな。」


 ミサに案内されて街の中を車で進んで行った。途中、首を紐で繋がれた貧しそうな女性の列とすれ違った。誠と尚美は、その列を見ながらそれぞれ思いを馳せていた。

「街の中をこんなに大っぴらに。美香さんが言ったように、この世界ではまだ人身売買が完全に合法なんだな。」

「ふふふふふ。こっちの世界じゃ、ユミは奴隷なんじゃないか。いいきみ。」

街の中心部の近くでミサが車を止めるように言ったため、誠は車を止めた。その前がミサの家だった。それは街の中でもいかにも裕福そうな家だった。ミサが家の中に入って行き、少しすると複数の人が出てきた。

「娘が危ないところを助けて頂き、大変ありがとうございます。」

「いえ。それより、セバスチャンさんを見てあげて下さい。この街にはお医者さんとかヒーラーさんとかはいらっしゃるのですか?」

「はい、使いのものを行かせます。とりあえず、離れの部屋に運ぼうと思います。」

「担架はありますか?」

「担架?」

誠は担架を作れそうな棒があればと思ったが、木の長椅子が目に入った。

「それではあの長椅子に乗せて運びましょう。男性の方は手伝ってください。」

「承知しました。」

男4人でセバスチャンを長椅子を使ってベッドに運んだ。少ししてヒーラーがやって来て、ヒール術を施したが、セバスチャンは小康状態を保ったままだった。

 誠たちは鈴木家の客間に通されて、セバスチャンを治療している部屋からミサたちが戻って来るのを待っていた。

「それにしても、お兄ちゃん、美香先輩は元の世界の美香先輩とそっくりだね。」

「うん、ご両親もそっくりだった。ドゥマン・エテさんが作った世界なら、他にも元の世界と同じような人がいるかも。」

「うん、そういうことだよね。」

「セバスチャンさん、無事だといいけど。」

「麻酔もなさそうだし、手術とかはできなさそう。」

「麻酔ができたのは、1800年ごろだっけ。初めのころは麻酔事故も多かっただろうから、あっても使わない方がいいかも。ケガをすると痛そうだ。」

「そうすると、回復はヒーラーが頼りか。」

「この世界なら、腕のいいヒーラーがいれば医術より完璧に治りそうだから、いいのかもしれないけど。」

「それはお兄ちゃんの言う通り。」

「美香さんの話では、王都にはいても、この街にはいないということだった。」

「魔王軍と戦うなら、ヒーラーを何とかした方がよさそう。」

「そうだね。」

その時、ミサと両親が部屋に入ってきた。

「誠さん、尚美さん、お待たせいたしました。」

「セバスチャンさんの様子はいかがですか?」

「誠さんと尚美さんのおかげで、一命は取り留めていますが、予断は許さない状況です。」

「美香さんは、セバスチャンさんとは長いのですか?」

「はい、私は生まれた時から世話をしてもらっていました。それがあんなことになってしまって。」

ミサの父親が話を始める。

「誠さん、尚美さん、この度は娘の危ないところを救っていただき有難うございました。お二人をお客人として迎えますので、是非、我が家でごゆっくりしてって下さい。」

「有難うございます。」

「見たところ外国の方のようですが、この国にはどのような目的でいらしたのでしょうか?いえ、怪しんでいるわけではなくて、この国は魔王軍との戦争が始まっている状況なのにと思いまして。」

「この国の人間に加勢するようにと言う指示でやって来ました。」

「人間?とすると、誠さんたちは人間ではないのですか?」

「はい、一応、妖精ということになっています。」

「尚美さんが妖精というのは、そういう気もしますが。」

「妖精はいろいろな形がありまして、私たちの世界にはムーミンと言うカバと間違えられる森の妖精もいます。」

「ははははは。カバに間違えられる妖精ですか。この街にも、確か妖精さんが2人ほどいらっしゃると思います。二人とも若い女性です。」

尚美が尋ねる。

「もしかすると、その2名は由香とか亜美という名前でしょうか?」

「由香様と亜美様をご存じなのですか。」

「私たちが名前を聞いて知っているだけですが、協力できればと思っています。」

「はい、『パラダイス団』と言う名前のパーティーに所属している2名の妖精さんです。『パラダイス団』は、この街の最強のパーティーで、剣士橘様の剣の実力は、この国では2番目と言われています。今回もこの街の皆が一番頼りにしています。」

「『パラダイス団』のリーダーは平田悟さんでしょうか。」

「その通りです。橘様の盾の役割をしていて、とても息の合ったコンビです。あと、『デスデーモンズ』というパーティーが悟様の指揮下に入っています。」

「有難うございます。魔王軍や現在の侵攻の状況を教えてもらえますでしょうか。」

「魔王軍は自らをエスディジーズ18と名乗っています。」

誠は「SDGsじゃないよな?何だろう。国連とは関係ないだろうし。女神ドゥマン・エテさんの趣味からすると、SDガンダムに関係するのか。」と思いながら聞いていた。

「エスディジーズ18には8人の魔物の将軍がいて、6人の将軍はそれぞれ約1万匹以上の魔物を引きつれています。」

「1万匹というと師団規模ということか。」

「残りの2人の将軍は単独あるいは少人数の部下しかいないそうです。」

「その二人は一人でも、非常に強力ということなんですね。」

「はい、一人は不死、一人は目を見ただけで石になってしまうと言われています。その他にも、魔王直属の炎竜や強力な魔物がいるとのことです。」

「有難うございます。」

「その6人の将軍のうち4人が王都を攻略していて、2人がそれ以外の地域を次々に侵略をしています。そして、とうとう北の街を侵略したゲグルル将軍の部下のピザムがこの街の近くにやってきているということです。北の街からの移動と侵略での疲れが取れたら、この街と周辺の侵略を始めるのではないかと噂されています。」

「4人の将軍が攻めている王都の方は大丈夫なのですが?」

「今のところは大丈夫のようです。王都には、この国最強の勇者パスカル」

「はい!?」「はい!?」

「あの?」

「すみません。続けて下さい。」

「勇者パスカル様が所属している『ユナイテッドアローズ』という王族直属のパーティーがいます。『ユナイテッドアローズ』には、勇者様を初めとして、妖精のアキ様、魔術師のコッコ様、楯のラッキー様がいらっしゃいます。それに王都には、戦士がどんな深手を負っても直してしまう最強のヒーラーのマリ女王様がいらっしゃいます。」

尚美が尋ねる?

「もしかして、ユミ王女とかいたりするのですか?徹王子とか。」

「はい、ユミ王女様は妖精として生まれてきて、王女様でいらっしゃるのに『ユナイテッドアローズ』のアキ様と協力して魔王軍を撃退するために頑張っておられます。」

「ユミ王女様!それなら帰るか。」

「尚!」

「分かってるって。お兄ちゃん、冗談だよ。最初はピザムの軍、次はゾロモンの軍とこの街で交戦することになりそうだから、まずその二つに勝たないとか。」

「それに勝ってから、王都を支援するということになるのかな。」

「私たちで、ゾロモンの軍に勝てるでしょうか?」

「敵は1万ですね。こちらは?」

「街の周辺からパーティが集まって来ていますので、街の男と合わせれば1000名ぐらいにはなるとは思いますが、『パラダイス団』以外、あまり有名なパーティはなく、どちらかと言うとみな逃げてきて集まってきたという感じです。」

「みなさん、もう逃げるところがないことは分かっているでしょうから、全力で戦うと思います。こちらが守備側ですので、陣地と戦術の工夫しだいでは何とかなると思います。」

「そう言ってもらえると安心します。」

「明日から街の調査活動を開始する予定ですが、僕たちはこちらのお金を持っていないため、お金を稼ぐ必要があります。申し訳ありませんが、仕事と住むところをご紹介頂けないでしょうか。」

「住むところは、うちの客間をお使いください。」

「それでは申し訳ないというか。でも、お言葉に甘えて、屋根裏部屋のようなものがあれば使わせて頂けると嬉しいです。」

「もちろん、それは構わないのですが。」

「誠さん、別に遠慮することはないよ。」

「屋根に太陽光発電パネルというか、太陽の力を受け取るものを置きたいので、屋根裏部屋の方が便利なんです。」

「太陽の力を受け取るのですか。それはすごそうですね。分かりました、ベッドがちょうど二つ置いてある部屋があるので、そこをお使いください。」

「有難うございます。」

「仕事に関しても、お金も生活費や武器を買う程度でしたら、娘をオークから助けて頂いたお礼として、こちらでご都合しますが。」

「この街の事情を知るためにも働きたいと思っています。僕はものを作ったり修理したりするところで働ければいいのですが。」

「この街は周辺の村の農産物の市場がある他に、鉄や木材、ガラスを加工して、王都に売ってお金を得ていましたので、職人の需要は多いと思います。知り合いの工場に聞いていみます。」

「有難うございます。尚はどうする?」

「うーん、2人の妖精と相談して、レストランで歌わせて頂けると嬉しいです。」

「分かりました。ギルドの溝口社長にお話ししてみましょう。」

「有難うございます。」

「困ったことがありましたら、何でもお申し付けください。その代わりと言っては何ですが、もしものときには、私たちのことは放っておいて構いませんが、娘だけは助かるようにお力添えねがえないでしょうか。今、娘が気を許しているのは『パラダイス団』の神田明日夏様だけなのですか、なんといいますか。」

「頼りにはならなそう。」

「はい。娘が神田様の話を楽しそうにするので、友達としてはとてもいいとおもうのですが、はい、娘を助けるという感じではありません。それに、こんなにすぐに娘が初対面の人に心を許すのは初めてです。」

「分かりました。美香さんは全力でお守りします。」

「有難うございます。」


 街からそれほど離れていない森の中のオークの村やその周辺に、北の街の攻略を終えたゾロモン将軍の部下であるピザムの部隊が終結を始めていた。そのため、元からいたオークたちは、家から追い出され、森の中の洞穴で生活していた。その日、夜になっても親分のゲグルルが帰ってこなかったため、ゲグルルの一の子分グアンの指示で何匹かのオークたちがゲグルルを探しに出た。3時間ぐらいして一匹のオークが帰って来た。

「グアン兄貴、大変です。親分の死体が道に放置されていました。でも、俺の力では運ぶことができなくて。」

「死体があったのは、どのあたりだ?」

「街に向かう道で、街まで1時間位のところです。」

「そうか。微妙な位置だな。あの辺で親分と互角に戦える人間は、パラダイス団の剣士の橘ぐらいだろうが。」

「俺もそう思うんですが、刀傷は全くなく、顔を殴られた後はありますが、最後は絞め殺されているようです。」

「絞め殺された。そんなことができるのは・・・・・。でも、いずれピザム様たちにも知れることになるから報告に行く必要はあるだろうな。」

「そうだとは思います。」

「それじゃあ、ピザム様のところに一緒に行くぞ。」

「ピザムは、気分を害したら仲間のオークでも容赦なく殺すという話ですから、兄貴だけで行ってきてください。」

「いや、何か聞かれたとき答えられないから、いっしょに来てくれ。あと、これからはお前もピザム様と呼ばないと。」

「兄貴もピザム様が怖いんですか。」

「ああ、怖い。今まではゲグルル親分がいたから良かったが、俺たちだけで何とかしないといけない。もし、やつ、ピザム様の怒りが俺たちに向いたら、俺たちだって皆殺しにしかねない。そん時はお前もいっしょだ。」

「やっぱり、そうなりますよね。兄貴、分かりました一緒に行きましょう。」


 ピザム達は地元のオークたちの村で、北の街を殲滅したときに捕まえた妖精たちの歌や踊りを見ながら、お酒を飲み騒いでいた。

「歌と踊りはもういい。レッド、こっちへ来てお酌しろ。」

「はい、ピザム様。」

ピザムが妖精のハートレッドの肩を抱いた。そして、ハートレッドがピザムにお酌をする。

「お前が注ぐ酒は・・・・・うまいぞ。」

「まあ、大きな声で。」

「本当にうまい。それに、俺は今までこんな可愛い女は見たことがない。」

「有難うございます。ピザム様のお役に立てて嬉しいです。もっともっと、ピザム様のお役に立ちたいです。」

「それじゃあ、明日の夜、こっそりとテームの街を偵察してこい。うちの飛竜を使うとやっぱり目立つからな。」

「かしこまりました。街の様子を調べて来ます。」

「上手くいったら、お前を一番の妻にしてやる。テームの街から奪ったものでお前に贅沢三昧させてやるからな。」

「嬉しい。ピザム様、大好きです。」

「お前の4人の仲間も、10番目ぐらいの妻にしてやるから安心しろ。」

「それはダメです。あいつらはピザム様には全くふさわしくありません。」

「何だ、焼きもちか。」

「はい、その通りでございます。ピザム様が可愛がるのは私だけじゃないといやです。」

「そうか、そうか。分かった。」

「あいつらは私の召使にして下さい。一生こき使ってやります。」

「いいのか。仲間だったのに。」

「もう、仲間でも何でもありません。私は世界一強いピザム様のものです。」

「良く分かっているじゃないか。この国を滅ぼし、そして世界の人間を皆殺しにした後は、俺がゾロモンを倒し、魔王を倒して、俺が新しい世界の魔王になる。」

「はい、ピザム様なら絶対にできます。二人で世界を支配しましょう。」

「二人で世界を支配か。ははははは。さすが北の街で一番美しいと言われただけのことはある。うっかりすると、俺がお前の尻に敷かれそうだ。しかし、お前がつぐ酒がうまい。」

「有難うございます。」

そのとき、グアンがピザムに声を掛けた。

「ピザム様。」

「何だ、こんな時に。」

「大変申し訳ありません。ご報告したいことがありまして。」

「大事な話か?」

「俺たちにとっては、大事な話です。」

「分かった。レッド、お前は下がってよい。」

「かしこまりました。」

レッドは下がって行った。途中、誰にも見られないところで、肩のにおいをかいだあと、手で肩を拭いていた。グアンとその子分はゲグルルの死をピザムに報告した。ピザムは「殴られた後、首を締められて殺されたということは、うちの部隊長連中と喧嘩でもしたのか。ゲグルルのやつは多少は強かったが、俺たちに協力的というわけではなかったから構わんが。しかし、内部のもめごとで、部隊に動揺が走ると面倒だ。」と考え、ピザムはグアンに指示をする。

「たぶん、ゲグルルは橘というやつにやられたんだろう。今は戦いの前だから、そういうことにしておく。それで、お前がこの辺りのオークを率いろ。俺の指揮下の部隊長にくわえてやる。この戦いで手柄を立てれば、テームの街の支配はお前たちに任せる。」

グアンは従うしかなかった。

「有難き幸せであります。仰せの通り、周辺のオークを率いて、ピザム様、ひいてはゾロモン閣下のお役に立ちます。」

「いい心がけだ。うちの部隊長たちとうまくやって行ければ、それだけで、お前たちの家族は食べ物に困らない安泰な生活ができるぞ。」

「はい、仰せの通りでございます。」

グアンたちは仲間のもとに戻って行った。

「兄貴、ピザムのやつ。」

「ピザム様だ。どこかで聞かれているかもしれないから、言葉使いに気を付けろ。」

「すみません。ピザム様、親分の死にあまり興味を持たないというか、もしかしたら、死んだことを知っていたんじゃないですか。」

「そんなことを大きな声で言うもんじゃない。ああ、俺たちを自分の部隊に組み入れるために、ピザム様の部隊長に殺させたのかもしれないな。あいつらが2~3いれば、ゲグルル親分を絞め殺すことも可能だろう。」

「さすが兄貴。でも、どうします。親分の仇を討ちますか。」

「俺たちの力じゃとても無理だ。敵うわけがない。」

「俺たちじゃ、ピザム様一人に全滅ですか。」

「それは、そうだろうな。」

「無念ですが、従うしかないですか。」

「そうするのが無難だ。」

グアンはこの辺りのオークのリーダーになれたことが少しうれしかったが、子分の方はピザムに対する不満でいっぱいだった。


 誠たちは、夕食を取った後、屋根裏部屋に案内され、執事に手伝ってもらって、車から荷物を運び入れた後、交代でお湯で体を拭いた。その後、白色発光ダイオードの懐中電灯はもって来ていたが、本を読むわけでもなく、電気を確保できるか分からないので、普通のランプで明かりを取っていた。

「お兄ちゃん、しばらくは体を拭くだけで、お風呂は入れそうもないね。」

「この時代だと仕方がない。これでも贅沢な方だ。火山のそばには温泉があったり、王宮には大きなお風呂があるかもしれないけど。」

「でも、お兄ちゃん、私たち、そういうお風呂に入れそうな気がする。」

「ドゥマン・エテさんの趣味?」

「そう。でも、なんか冒険が始まりそうで少しワクワクする。」

「こっちの世界で死ぬとどうなるか分からないからそんなことも言ってられない。」

「そうだけどね。」

「当面は、千人でどうやって1万の敵から街を守るか考えないと。鉄砲を持っている人がいないところを見ると火薬はなさそうだ。Wikepediaは全部ダウンロードしてあるけど、今から硝石を作る時間はないし。」

「火薬がないと基本は人力になるんだろうね。」

「そうなると思う。」


 誠と尚美が具体的な作戦について話していたが、遅くなってきたので、そろそろ寝ようとしたとき、ミサが部屋に入ってきた。

「美香さん、どうされたんですか?」

「昼のことを思い出すと怖くて寝付けなくて。あのオークたちとは仲が良かったという訳ではありませんでしたが、大きな争いはなかったのに。」

「人間の世界でも、百年以上もの間仲良くしていたのに、急に殺し合うこともあるのではないでしょうか。私たちの世界でも、ルアンダとかコソボという国や地域でそういうことが起きて、たくさんの人が亡くなりました。」

「その通りです。それほど中が悪くなかった地主や領主に対する小作人の一揆なんていうのもあります。あの、失礼かもしれませんが、誠、尚ちゃんと呼ばせて頂くわけにはいかないでしょうか?」

「はい、僕はそちらの方がしっくりきます。」

「私もです。」

「有難うございます。」

「地主と小作人たちとの対立の件で、一番の心配なことは、人間全体が協力して魔王軍と対することができるかどうかです。」

「人間同士が協力しないで反発しあう心配ですか?」

「その通りです。」

「お兄ちゃん、元の世界だって、鉄砲とかが発明されて、子供のころから訓練しなくても戦力化できるようになったから、全員で戦う方が有利になって、奴隷制や封建制みたいなものがなくなっていったんだと思うよ。」

「国民国家の誕生か。」

「その通り。今回は魔王軍が人間を皆殺しにすると言っているから、みんながそれを実感できれば人間同志は協力するようになると思うけど。」

「そうすると、訓練されていない人間の戦力化が問題になるということだね。」

「うん、その通り。」

「訓練されてないなら、できるだけ飛び道具を使う方向かな。」

「それと兵站の輸送を担当してもらうとかかな。」

「兵站の確保は大規模戦争では重要だからか。」

「その通り。それを具体的にどうするかはお兄ちゃんに任せる。」

「それなら、明日、街にどんなものがあるか見て回らないとか。」

「うん、私も戦力になりそうな人の見当をつけておく。」

「そうだね。あの、美香さん、明日、申し訳ありませんが、妹と僕を連れて街の中を案内して頂けませんか。溝口ギルドにも顔を出したいですし。」

「もちろん、喜んで。あそこのレストランの料理は、うちより美味しくて、この辺りでは一番だと思います。ご案内します。」

「有難うございます。ここの料理もとても美味しかったですので、楽しみです。・・・・あっ、ということは、尚があのオークのとどめを刺すのにワイヤーロープを使ったのは、この付近のオークと魔王軍を分裂させるためだったの?」

「うん、人間がオークを絞め殺すことはできないと思うだろうから。でも、地元のオークと魔王軍とではレベルが違いすぎるみたいだから、地元のオークが離反したところで、どのぐらい有効かは分からないけど。」

「戦いは1パーセントの戦力差で決まることもあるから。」

「うん、お兄ちゃんが言うの通り。だからできる限りのことはしておかないと。」

「分かった。それじゃあ、明日もあるからもう寝ようか。朝のうちに、屋根に太陽光パネルも設置したいし。」

「了解。私も自分の飛行性能を試しておきたい。」

「美香さん、この村を守るために、僕たちも全力を尽くします。ですので、美香さんも明日のために寝て下さい。」

「有難うございます。はい、そうさせてもらいます。」

そう言うと、ミサは誠のベットに横になった。

「えーと。」

「誠の隣で寝かせて下さい。その方が安心して眠れそうな気がします。」

「こちらではそう言うのが普通なんですか?」

「はい、ベットの数が少ない時はベッドをシェアするのは普通です。」

「あの、女性同士、妹の隣で寝るのはどうでしょうか。はっきり言うと、妹は女性と言っても僕より強いです。」

「ううん、誠の方がいいです。」

「えーと。男性といっしょに寝て、ご両親は大丈夫ですか。」

「隣で寝るだけですから大丈夫です。」

「お兄ちゃん、仕方がないから、私もお兄ちゃんの隣で寝るよ。」

「尚、一つのベッドに3人で寝るの?」

「その通り。それなら、みんな安心でしょう。」

「尚ちゃんの言う通り。」

「うーん。」

「お兄ちゃん、郷に入れば郷に従えだよ。」

「分かったよ。」

3人は誠を中心にしてベットに横たわった。

「大丈夫ですか?二人とも端の方で、少し狭くないですか?」

「私は大丈夫。でも、明日もう少し大きなベットに代えてもらうね。」

「美香先輩、あまり大きくしすぎないようにして下さい。」

「その方が近くにいられるから?さすが尚ちゃん。分かった。」

ランプの明かりを消すと、間もなく二人は寝付いたが、両側から挟まれて微動だにできない誠はなかなか寝付けなかった。それで、とりあえず街を防衛する方法について考えていた。

「戦場をこちらで設定できることが今回の戦いで有利なところだけど、山に築城している時間はなさそうだ。この平地に陣地を構築するならやはり星形だよな。でも、石壁を組み上げている時間はないし。あとは飛び道具の準備、街や村の身分が分裂している中で総動員体制がとれるだろうか。」

あれこれ考えているうちに誠も眠りについた。


 翌朝、最初に起きたのは尚美だった。

「あれ、お兄ちゃん。そうか、昨日から異世界に来ているんだっけ。こんないいことでもないと、やってられないよね。まだ、寝ていよう。」

尚美は誠にくっついた。

「それにしても、こっちの世界の美香先輩も、お兄ちゃんに一目ぼれみたいで、お兄ちゃんの良さが一目でわかるって、直観がするどい人なのか。」

しばらくして、誠が目を覚ました。両側を見て状況を思い出した。

「そうだった。異世界にやって来たんだ。とりあえず太陽光パネルを設置して、バッテリーを充電しないと。」

誠が起き上がると、二人も起き上がった。

「美香さん、お早うございます。尚、お早う。」

「誠、尚、お早う。おかげ様でぐっすり眠ることができました。」

「美香先輩、お早うございます。お兄ちゃん、お早う。」

「とりあえず、太陽光パネルを屋根に設置しようと思う。屋根には天井の窓から直接上がれそうだから便利だ。」

「でもお兄ちゃん、落ちないように、気を付けてね。」

「了解。命綱を付けるから安心して。」

「私もお手伝いします。」

「美香さん、危ないですし、一人でも大丈夫です。」

「私も命綱を付けますから大丈夫です。これでも力には自信があるんです。それに、今まで屋根に上がったことがないので、上がってみたいし。」

「それでは命綱を付けて上がってみましょう。」

「分かりました。」

二人が屋根に上がった。街の中心に大きな宗教施設とその塔が見えたが、それ以外ではこの屋根の上は街で一番高い所にあり、街や街の周辺を見通すことができた。

「綺麗。うちにこんな綺麗な景色が見えるところがあったんだ。」

「街と自然が綺麗です。川が流れているんですね。」

「はい、相模川という、このあたりでは一番大きな川です。」

「その名前は、本当ですか?」

「どうしました?」

「もう少し、この世界らしい名前かと思いました。僕たちの家のそばを流れている川と同じ名前で驚きました。」

「そうなんですね。奇遇です。でも嬉しいです。」

「川幅いっぱいに水が流れていて、水の量が豊富なんですね。」

「ここから川を見たことはありませんが、普段より水が多い気がします。」

「そうですか。洪水が起きたりすることとかあるんですか?」

「時々川の水があふれて、この辺り一帯が水浸しになることがあります。でも、あの川があるので作物が取れ、街での飲み水が困らないんだと思います。」

「恵みの水を運んでくれているんですね。」

「はい、その通りです。」

その時、少し上の方から尚美が二人を呼んだ。

「美香先輩、お兄ちゃん!」

「尚、どう。自由に飛べる?」

「見てて!」

尚美が空中戦を意識して、自由に飛び回ってみた後、誠のところに戻って来た。

「うん、すごく自由に飛べる。」

「それは良かった。」

「でも、防弾チョッキを着るのは無理かな。」

「結構速く飛べそうだから、偵察を主任務として、戦闘が始まったら遠く離れているというのがいいと思う。」

「それはそうかもしれない。」

もちろん、尚美は「当たらなければ、どうということはない」と考え、誠を守るために戦闘に加わるつもりでいたが、とりあえず誠を安心させるためにそう答えた。

「でも、尚、すごいな。私も空を自由に飛んでみたいな。」

「美香先輩、自由にとはいかないかもしれませんが、仲間ができたら引っ張り上げてみます。」

「尚、有難う。」

「それでは僕たちは、太陽光パネルを設置してしまいましょうか。」

「分かりました。お手伝いします。」

「お兄ちゃん、私も手伝うよ。」

「尚は飛ぶ練習をしておいて。もし、頼みたいことがあったら呼ぶから。」

「分かった。」

 誠とミサが太陽光パネルの設置と配線をしている間、尚美はループ、エンロン・ロール、シャンデル、インメルマンターン、スライスバック、スプリットS、デンロール、ハイヨーヨー、ローヨーヨー、バレルロール、シーザス、木の葉落としなどの各種の空中機動を試した。誠たちが太陽光パネルの設置を終えて、充電池を内蔵したポータブルバッテリー装置に接続して、充電できることを確かめていると、尚美が戻ってきた。

「お兄ちゃん、どう?」

「充電できている。美香さんが手伝ってくれたので、思ったより早く終わったよ。」

「美香先輩有難うございます。」

「お安い御用です。この後は、溝口ギルドに寄ってから、『パラダイス団』のところへ行けばいいんですね。」

「はい、お願いします。その後、川の方にも行ってみます。」

「分かりました。ご案内します。」

3人は少し遅い朝食をとった後、溝口ギルドへ向かった


 ミサ、誠、尚美が溝口ギルドに到着し、店の中に入ると、店の左側のレストランで何組かの冒険者のパーティーが朝食を取っていた。奥の冒険者用のカウンターでは、溝口ギルドの実務を担当している溝口マネージャーが書類を見ながら座っていた。ミサが溝口マネージャーに挨拶をする。

「溝口マネージャー、お早うございます。」

「あら、ミサちゃん、お早う。今日は早いわね。歌うのは夕方からだから、何か他の用?」

「はい、今日はこの二人の兄弟を溝口マネージャーにご紹介するために、来ました。」

「もしかして、二人は昨日、ゲグルルを追い払ったという外国の妖精さん?」

「はい、おっしゃる通りです。」

「そう。でも、ミサちゃん、昨日は大変だったんだってね。」

「誠も尚の二人が撃退してくれたので大丈夫です。」

誠と尚美がとても驚いた顔をしているので、尋ねる。

「どうしたの、二人とも溝口マネージャーを見て、すごく驚いているようだけど?」

二人とも溝口マネージャーが22歳ぐらいの、いわゆるすごくいい女になっているので驚いていたのである。

「私がすごい美人だからかな。」

「いえ。あっ、いえではありません。僕たちの国によく似ている方がいるので驚いただけです。溝口マネージャー、はじめまして。岩田誠と言います。よろしくお願いします。」

「はじめまして。岩田尚美と言います。よろしくお願いします。」

「お二人とも、初めまして。私と似ている人か。会ってみたいわね。」

「僕たちの国に来れば合うことはできますが、とても遠いです。」

「そう。それは残念ね。」

「誠、その人も美人なの?」

「そうだと思いますが、お歳は40歳を越えていると思います。」

少し安心した感じでミサが話を続ける。

「そうなのね。それで溝口マネージャー、二人とも魔王軍と戦うためにこの国に来てくれたんです。父が戦いが始まるまでも面倒を見ると言っているんですが、二人が街の様子を知るためにも働きたいというので、何か仕事があるかなと思いまして。」

「鈴木のお父さんが保証してくれるなら安心ね。妹さんの方は、今まで見たこともないような可愛いらしい妖精さんだから、どう、うちで歌ったり踊ったりしてみない?」

「あそこのステージでですか?」

「ここは夜になると、レストランというより冒険者が騒ぐ飲み屋かな。うちにはもっといいレストランもあるから、尚美ちゃんはそっちの方が合っていると思うわよ。」

「美香先輩が歌っているところは、レストランの方ですね。」

「うん。本当はこっちでも歌ってみたいんだけど、父が許してくれないから。」

「ミサちゃんがセクシーな格好で歌ってくれれば、それだけでお客がたくさん入ると思うんだけど、うちの父もミサちゃんには無理をさせるなと言っているから。」

「溝口マネージャー、ごめんなさい。セクシーな格好はやっぱり無理だと思います。」

「分かってるって。でも、好きな男ができたら、セクシーな服を貸してあげるわよ。ミサちゃんならそれで相手はイチコロよ。」

「有難うございます。そういう時にはお借りしたいと思います。」

「はい、いつでもどうぞ。私もミサちゃんのそういう格好、楽しみだから。それで尚美ちゃんはどうする?」

「はい、この街の『パラダイス団』に二人の妖精がいると聞きましたので、できれば協力して、3人のユニットで歌やダンスをしてみたいと思います。」

「そうね。でも、亜美ちゃんはともかく、由香ちゃんはどうかな?」

「きっとダンスが非常に上手だと思います。」

「そうか。身のこなしは軽そうだけど?知り合いなの?」

「そういうわけではないのですが、噂は聞いています。」

「妖精同士、情報があるのね。それじゃあ、話がまとまったら私に見せてみて。悪いようにはしないから。」

「はい、お願いします。」

「お兄さんの方は?ゲグルルを追っ払ったということは、本当は強いんだろうけど、あまり強そうに見えないわね。」

「あの時は怖くてよく覚えていないのですが、誠の左右のパンチでゲグルルをのしてしまいました。」

「それはすごいわね。」

「いえ、相手が油断しているスキを突いただけです。」

「それでもすごいと思うわよ。誠は平和な時は、いろいろなものを作るのが得意なので、そういう仕事があればということです。」

「そういえば、今、近くの川の水かさが増しているという話で、男手が欲しいということだったから、川の方に行ってみるといいかもしれない。」

「有難うございます。はい、これから3人で『パラダイス団』に寄った後、川の方に行ってみます。」

「『パラダイス団』は街の西の森の近くで訓練していると思うから、そっちに行けば会えると思う。」

「溝口マネージャーさん、有難うございます。溝口社長によろしくお伝えください。それでは失礼します。」

「失礼します。」「失礼します。」


 3人は街の中を通って西の森の方に向かった。

「ここは色々な工場がある街なんですね。」

「はい、この街の住人は、この周辺の農産物を集めて王都に運んだり、色々なものを作って王都で売って収入を得ている人が多いです。」

「だから栄えているんですね。」

「はい。あそこは、小麦を入れる袋を作っているところ、あそこは木を加工しているところ、こっちは鏡を作っているところです。」

「すごいです。ところで一つ伺いたいのですが、『パラダイス団』の、神田明日夏さんは何をされているのですか?」

「剣士です。明日夏は私が友達と呼べるたった一人の人です。久美先輩、歌もお上手なので私は橘さんを久美先輩とお呼びしているのですが、いつも久美先輩に剣術をしごかれていて、大変大変と言っています。誠は明日夏を知っているんですか?」

「明日夏さんについても、話だけ聞いている感じです。」

「そうなんですね。」

「あの美香先輩、一つお尋ねしたいのですが、明日夏先輩は人間でしょうか?」

「はい、多分私と同じ普通の人間だと思います。でも、誠も尚も人間にしか見えないので、もしかすると違うかもしれません。溝口マネージャーが言ってましたが、尚ちゃんの場合は、妖精としてもすごく可愛いけれど。」

「ミサさんの場合は、見た目は普通の人間じゃなく女神様みたいな美しさですが、」

「まあ、誠ったら。」

「雰囲気は人間という感じがします。」

「うん、有難う。」

「逆に、明日夏さんは見た目は人間みたいですが、雰囲気は人間離れしているというか、女神様みたいではないですか?」

「一人だった私に話しかけてくれて、友達になってくれて、やっぱり女神さまのような雰囲気と言えばそうかもしれません。・・・・・あっ、明日夏があそこで練習しています。」

「僕には何も見えませんが。」

「お兄ちゃん、双眼鏡で見ると見えるよ。うん、間違いなく明日夏先輩だと思う。」

「尚、有難う。それじゃあ、美香さんについていこうか。」


 少し歩いて森の方に進んでいくと、明日夏の掛け声が聞こえ始め、枝に向かって剣を振り降ろしている姿が見えた。ミサが明日夏に挨拶する。

「明日夏、こんにちは。」

「ミサちゃん、こんにちは。橘さん、ミサちゃんが来たから少し休みましょうよ。」

「何、明日夏、今始めたばかりじゃない。でも美香が来たなら仕方がないか。それで、そのお二人さんは、もしかすると、ゲグルルを追い払ったという妖精さん?」

「その通りです。私をゲグルルから守ってくれました。」

「初めまして。岩田誠です。」

「初めまして。岩田尚美です。」

「というと、マー君と尚ちゃんだね。」

「明日夏、マー君って。」

「美香さん、そう呼んでもらっても大丈夫です。」

「まあ、それが明日夏らしいところだけど。」

「はい、そう思います。」

少し離れたところで4人の様子を見ていた『パラダイス団』の団長の平田悟がやってきて、誠と尚美に話しかける。

「誠君と尚ちゃんは、うわさによると魔王軍との戦いを手伝うために外国からやって来たということだけど。」

「はい、そのうわさの通りです。私たちの国の女神ドゥマン・エテさんに導かれて、この国にやって来ました。たぶん、魔王軍と互角にやりやえる戦力を持っているのがこの国ぐらいだからではないかと思っています。」

「それは有難い。二人も見た目はあまり強そうに見えないけれど、妖精さんだし、ゲグルルを撃退したなら、実力は折り紙付きだ。」

「実は僕たちは、こちらの世界に来るまでは普通の人間だったんです。この国で魔王軍と戦うように言った女神ドゥマン・エテさんが、魔王軍と対抗できるように僕たちを妖精に改造したんです。」

「なるほど、誠君たちの世界の女神様は、人間を絶滅から救うために、誠たちをこの国に遣わしたわけか。とても人間思いのやさしい女神様なんだね。」

「いえ、平田団長、ドゥマン・エテさんはこの国や私たちの国、ひいては人間を助けるためというより、自分が見て面白くするためだとは思います。」

「面白くするため?」

「団長、きっとマー君の女神様は永遠の命が退屈なんじゃないでしょうか。」

「明日夏ちゃんは退屈しのぎに魔王軍と人間を戦わせると言うことに共感できるの?」

「はい、なんとなく分かります。」

「明日夏さんが言う通り、ドゥマン・エテさんは永遠の命が退屈と言っていました。」

「ほら。」

「なるほど。」

「でも、逆に言えば、ドゥマン・エテさんが面白くなるようにしたということは、この国と魔王軍とは戦力的に互角なんだと思います。」

「僕たちにも勝つチャンスがあると。」

「はい、半分半分ぐらいなんじゃないでしょうか。」

「それは嬉しい話だね。『ユナイテッドアローズ』が頑張って、剣や弓の攻撃が効かないザンザバル将軍の王都への急襲はなんとかしのいだという話だけど、4将軍による攻撃が続いているし、魔王はまだ最強の炎竜や見ただけで砂岩になる目道砂は使っていない。だから、僕は結局はこちらが力負けするんじゃないかと思っていたから。」

「魔王は、なぜ炎竜を使わないのですか。」

「あまり知能がないらしくて、敵味方の区別なくやられてしまうからじゃないかな。でも、魔王軍が劣勢になれば使ってくると思う。だから、対策を考えないといけないんだけど、そんなものはないかもしれなくて。」

「分かりました。僕も考えてみます。」

「有難う。それで、誠君たちがここまで来たということは、私たちに何か用件があるんだと思うんだけど?」

「はい。まず、妹がこちらに所属している妖精の由香さんや亜美さんと連携して戦えないかと思いまして。」

「おう、いいぜ、俺の子分にしてやる。」

「由香先輩と亜美先輩は空中戦は得意ですか?」

「先輩か。いい響きだな。空中戦か、おう得意だぜ。魔王軍の騎竜部隊なんて、あっという間に片づけてやるぜ。」

「由香、騎竜部隊は数も多いし、王都でも殲滅できずにいるという話だから、あまり甘く見ない方がいいよ。」

「亜美は心配性だな。」

「とりあえず、どのぐらいの実力かお手合わせ願えますか?」

「訓練用の矢でも、当たると結構痛いぜ。」

「大丈夫です。」

「失神して落ちるなよ。お前は弓を持っていないようだが。」

「私はあまりユミが好きでないので、この柔らかい棒が短剣替わりということで。」

「短剣で戦うのか。妖精の武器は弓が相場だが、まあいい。」

「それでは、私が逃げるところから始めたいと思います。由香先輩と亜美先輩で追ってきてください。」

「すごい自信だな。でも面白いぜ。外国の妖精のレベルが分かる。亜美もいいな。」

「いいけど。」

「それでは行きます。」

尚美が飛び立つと、由香と亜美がそれを追いかけ始めた。尚美は二人の様子を見ながらつぶやく。

「二人なのに連携は全く取れていない。でも、由香先輩の速度はかなり速い。この速さを利用するのがいいと思うけれど、亜美先輩は直接ついてくのは難しそうだな。」

由香が訓練用の矢を放つ。尚美はそれを見ながら少しだけよけて矢をかわす。

「いい腕だ。それだけに予測しやすい。」

次は3発連射で矢が放たれた。尚美は良く見て3つともかわす。

「連射しても正確に撃てる。さすが由香先輩。こっちの世界でも運動神経はいいみたい。少し、機動運動をしてみるか。」

尚美が左右上下に旋回したり、速度を上げたり下げたりして飛んだり、地上すれすれを飛んでみた。亜美はついてこれなくなっていたが、由香はなんとかついてきていた。

「二人の実力はだいたい分かったかな。」

尚美が上に急上昇し急旋回して亜美の背中に坐った。

「亜美先輩、これで私の勝ちということでよろしいですか。」

「はい、ぜんぜん敵いませんので、それで構いません。」

「有難うございます。」

尚美が離れると亜美は悟のいる方に戻って行った。

「森の中を飛んでみよう。」

尚美は森の中で由香がついてこれるか試してみた。

「少し速度が落ちるけど、由香先輩、やっぱりすごい。」

尚美は森を出ると急上昇して葉の中に隠れた。それに気が付かなかった由香の背後を取って、追ってみた。由香が旋回や速度を変えて、何とか尚美を引き離そうとするが、尚美はピッタリと追随していた。尚美は、少し様子を見た後、距離を詰めて由香の背中に乗った。

「由香先輩、・・・・」

そう言いかけたときに、由香が訓練用の矢で尚美を突こうとしながら叫ぶ。

「俺に乗っていいのは豊だけだ!」

尚美は「向こうの由香先輩が大声でそれを言ったら大変なことになるな」と思いながら、由香の背に坐ったまま由香が後ろ手で突く矢をかわした。由香は尚美を降り落そうと、背面飛行をしながら地面に近づいた。

「由香先輩、それは危険です。」

尚美が注意したが、由香は引き起こしが間に合わなくて地面に衝突してしまった。尚美は地面と衝突する前に由香を全力で押し上げたが、衝突ギリギリのところで離脱した。悟、久美、誠が

「由香ちゃん。」「由香。」「由香さん。」

と叫びながら近寄った。

「いたたた。」

そう言いながら由香が立ち上がった。悟が尋ねる。

「由香ちゃん、大丈夫?」

由香が少し体を動かしながら言う。

「何とか大丈夫だ。あの子が最後に俺を押し上げてくれたんで助かった。大きな怪我はしていないと思う。」

「そう、良かった。」

「分かったよ。お前が俺たちのリーダーをやれ。俺が放った矢を見ながらかわしていた。尋常じゃない動体視力と反応速度を持っているし、判断力も俺より上だ。」

「私もその方がいいと思うけど、由香は大丈夫?」

「おう、おれの最大の目的は人間の豊を魔王軍から守ることだ。この子がリーダーになるのはそれに必要なことだ。」

「まあ、そうだね。」

「有難うございます。由香先輩と亜美先輩の能力を活かせるようにチームを作っていきたいと思います。」

「えーと、リーダー、由香、協力して魔王軍をやっつけよう。」

「こちらは飛べる妖精の数が少ないので、近接支援戦闘、航空阻止、戦略攻撃、防空、観測、偵察、空輸の全を私たちでやらなくてはいけないのですが、頑張って行きましょう。」

「リーダー、俺には何を言っているかわからないのだけど。」

「明日、説明します。」

「おう、頼んだ。」

「それと、由香先輩、亜美先輩、先ほど溝口ギルドに寄ったら、溝口マネージャーがレストランで何か出し物をやって欲しいと言われたので、妖精3人で歌って踊るショーをします、と答えました。息抜きだと思って、3人でその練習もしましょう。」

「歌が上手な亜美はいいだろうけど。俺は・・・」

「由香、由香のダンスを見たら、豊さんが惚れ直すんじゃないか。」

「そっ、そうか。」

「はい、私もそう思います。」

「まあ3人の親睦を深めるためにもいいかな。やってみようか。」

「はい、そのチーム名は『トリプレット』としたいと思います。3人で頑張りましょう。」

「話がまとまったようで良かった。でも、尚ちゃん、本当にすごい俊敏で的確な判断だったと思う。さすが、ゲグルルを倒した兄弟だと思った。」

「それはそうね。私も動きが目で追えないところもあった。頭も良さそうだし。3人でチームを組むといいと思う。」

「橘さん、それじゃあ俺と亜美の頭が悪いみたいじゃないですか。」

「由香、当たらずしも遠からずだよ。」

「まあ、そうか。」

「由香ちゃん、亜美ちゃん、それは違う。二人とも普通以上だよ。ただ、尚ちゃんは飛びぬけて機転がきくということなんだ。」

「団長、フォロー有難う。」

「それじゃあ、由香先輩、亜美先輩、今から歌とダンスの練習をしましょう。」

「よーし、やってみよう。」

「私は歌を歌うのが好きだから、ステージで歌うの、本当に楽しみ。」

3人が少し離れたところに行き、アイドルの歌やダンスの練習を始めた。悟が誠に尋ねる。

「誠君、いいユニットができたよ。有難う。でも、さっきの話だと、まだ何かあるような感じだったけど。」

「はい、美香さんに剣術を教えてあげて欲しいんです。」

「私が剣術を!?」

「はい、自分やこの国を守るために。」

「・・・・・・・」

「マー君、ミサちゃんに剣術って、やっぱり無理だと思うよ。」

「この枝も切れない明日夏が言ってもあまり説得力がないけど。」

「橘さん、酷い。」

「誠君は、ミサちゃんに剣術の才能があると思うんだね。」

「はい、この国を救えるかどうかは、美香さんの剣術にかかっているんじゃないかと。」

「誠、そう思ってくれるのは嬉しいけど、私の取柄は歌だけで、そんな剣術なんかできないんじゃないかと思う。」

「まあ、美香には美人でスタイルがいいという取り柄もあるけど、歌のパワーもすごいから。それじゃあ、美香、とりあえず、あの枝を切ってみようか。それを見て判断するわ。」

「久美先輩、有難うございます。でも、どうやって。」

「力まず、剣を高速に自分の右上から左下に振り降ろすことを考えて。そして、枝に当たった瞬間に剣を手前に引く感じ。」

「分かりました。誠ができるというので、全力でやってみます。」

「美香さん、体が柔らかいですので、少しだけ後ろにのけぞるような姿勢から初めて、ヤーと自分が出せる最も大きな声で掛け声をかけながら、振り降ろしてみましょう。」

「掛け声をかけた方がいいの?」

「はい、その方が集中できて力が入ると言われています。」

「分かりました。やってみます。」

ミサが木の前に移動した。

「ぼっちだったミサちゃんじゃ、無理だと思うけど。」

「明日夏、そういうことは言わないの。」

「僕は美香さんならばできると思います。」

「誠、有難う。」

「美香、それじゃあ準備して。」

「はい。」

美香が剣を振り上げ、少しのけぞる。

「それじゃあ、初めて!」

ミサが大声で「ヤー!」と言いながら、剣を振り下ろす。剣はまるで抵抗が何もないように振りぬかれたため、明日夏が久美に尋ねる。

「ミサちゃん、空振り?」

しかし、明日夏が久美を見ると、久美はすごく驚いた顔をしていた。その瞬間、切ろうとした枝が落ちた。そして、太さが1メートルはあろうかという木の幹が斜めに奇麗に切られて、木が倒れようとしていた。誠が倒れる方向を見ると尚美たちがダンスの練習をしていたため、大声で叫んだ。

「尚、そっちの方に木が倒れる!」

それを聞いて、倒れて来る木を見た尚が由香と亜美に注意する。

「美香先輩が剣で切った木が倒れて来るようですが、動かないでください。動かなければ大丈夫です。」

「おっ、おおおお!」「えっ、ええええ!」

木は尚美たちから5メートルぐらい前に倒れた。

「もう大丈夫ですので、練習を再開しましょう。」

「おっ、おう。」「はっ、はい。」

一方、誠たちの方では、明日夏が驚く。

「幹まで切れている。太さが1メートルはありそうなのに。」

「そうね。これだけ太いと私でも一太刀では切れないかもしれない。」

「誠君の見立てに間違いがないということだね。」

「そうだと思う。対ゾロモン戦の切り札になりそう。」

「まだ美香さんに切り合いは無理だと思います。少し卑怯ですが、相手が橘さんに集中しているときに後ろから切りつける方法がいいと思います。」

「僕もそう思う。相手は弱い人間も皆殺しにしているんだから、卑怯ということはない。」

「そうね。私もそう思う。美香、これから毎日剣術の訓練だけどいいわよね。ゾロモンを倒せないと、結局、街のみんなの命を救えない。」

「分かりました。できるだけやってみます。」

「少年の言う通り、美香はどこかに隠れていて、一太刀浴びせるだけでいいから。」

「それで誠君、申し訳ないが、その時はミサちゃんについていて、ミサちゃんに攻撃するタイミングを指示してくれないか。」

「分かりました。そうします。」

「誠、有難う。誠がそばにいてくれるなら心強い。」

「でも、これで少し希望が持ててきたわ。」

「はい、勝てる可能性は十分あると思います。ただ、向こうの通常の戦力がこちらの10倍程度ありますから、それを最初に削がないと、ゾロモンのところまでたどり着きません。」

「それは誠君のいう通りだ。もしかして、それについても考えはあるのかな?」

「はい、やはり街を中心に陣地を作り、それを攻撃させて、相手をだんだんと消耗させていくしかないと思います。」

「そうだろうね。初めは守備に徹するのがいいと思う。」

「悟は守るのが得意だからそう思うかもしれないけど。私は陣地の外に出て戦うわ。雑魚などいくらいても片づけてやる。そうしたら、ゾロモンも出てくる。」

「いえ、橘さんは陣地の中心にいてください。橘さんが外に出ている間に陣地がやられては街の人を守ることができません。中央にいて、防御を破られそうなところに団長といっしょに駆け付け、突破させない最後の予備戦力となってもらいます。」

「なるほど、誠君、それはいい考えだ。その方がゾロモンやその直属の部下と戦うための体力を温存できる。」

「その通りです。」

「何となくはわかるけど。」

「橘さんと美香さんは、この戦いの切り札です。」

「悟も言うなら分かったわ。とりあえず、少年の言われた通りにするわ。」

「有難うございます。」

誠は少し意気消沈して静かにしている明日夏に声をかける。

「明日夏さんは、ヒーラーが向いているんじゃないでしょうか。」

「そうそう、明日夏、私もそう思うわよ。明日夏を見ていると癒されるし。」

「橘さん、それは誉めているんですか?」

「うん、久美は誉めているんだと思うよ。」

「団長、有難うございます。」

「この街は腕のいいヒーラーがいないようですので、明日夏さんはこの街一番のヒーラーになれると思います。そうなれば、街のみなさんが助かると思います。」

「マー君がそこまで言うなら、やってみようかな。」

「はい、お願いします。由香さんは重傷ではありませんが、怪我をしていましたので試してみて下さい。」

「分かった。」

誠たちが尚美のところに向かった。

「由香さん、明日夏さんにヒーラーに転向をお願いしたのですが、由香さんのけがの治療で試してみても構わないでしょうか。」

「おう、この街、いいヒーラーがいないのが気になっていた。でも明日夏さんか。」

「何、由香ちゃん、私を信用しないの。」

「そういうわけではないです。悪くなることはないなら構わないです。」

「うーん、信用されていない。」

「とりあえず、やってみましょう。」

明日夏が患部の上に手を当てて、歌を歌う。由香が痛がる。

「痛たたた。なんか傷が悪くなってきた。」

「明日夏さん、とりあえず中止しましょう。でも、今歌った歌は何ですか?」

「マリ王女様がヒールの時に使う歌だけど。私に向いていることなんて、本当は何にもないんじゃないかな。」

「そんなことはありません。歌は今後、美香さんと練習するとして、ヒールをする別の方法を考えましょう。」

「分かったけど。とりあえず、どうするの?」

「まず、由香さんの体の中のとても小さい粒のようなものを感じることはできますか?」

「うん、たくさんの粒粒でできている。」

「その粒粒を細胞と言います。その細胞の真ん中あたりに糸のようなものが絡まっているのがわかりますか。」

「うん、分かる。48本ある。糸は4種類のものからできているみたい。」

「すごい、その通りです。その4種類のものを塩基と言います。塩基列を符号として読み取ってみてください。」

「塩基列スキャニング!」

「読み取れますか?」

「うん、大体わかった。」

「大体では困るんですが。」

「完全に分かった。」

「それは良かったです。その情報を使って何かを作っているのが分かりますか?」

「うん、3つを組に符号にして、物をつなげていっているみたい。」

「繋げられているものをアミノ酸。繋げてできたものをタンパク質と言います。」

「タンパク質ね。」

「それでは、タンパク質を作ってみて下さい。立体構造も同じにしなくてはいけません。」

「パーシング!タンパク質、合成!・・・・・できた。」

「タンパク質や糸をたくさん合成して、いろいろな粒粒の元となる粒粒である幹細胞を作ってみて下さい。」

「幹細胞、合成!・・・・・できた。」

「幹細胞をたくさん合成して、それぞれの役割を持った体細胞に分化させて下さい。」

「幹細胞、連続合成!体細胞へ分化!」

「怪我の周りの組織を参考にして、怪我の部分を正常な体の組織に再構成して下さい。」

「体組織を再構成!」

明日夏が息を切らしながら、由香の組織を再構成する。由香が驚いて言う。

「すごい、リーダーのお兄ちゃん、傷が治っている。」

「由香ちゃん、直したのは私だよ。」

「それはそうだけど。」

「これは明日夏さんの特殊能力がないとできないと思います。」

「なるほど、それは兄ちゃんの言う通りだな。」

「由香ちゃん、全身の傷を治してあげよう。」

「お願いします。」

「塩基列スキャニング!・・・・・パーシング、アミノ酸列合成、タンパク質立体構造再現、幹細胞連続合成、体細胞に分化、この過程を繰り返し、体組織を修復!」

「おー、傷が治った。」

「さすが私。」

「明日夏さん、後ほど僕のパソコンをお貸ししますので,ウィキペディアで人間の体について勉強しておいて下さい。」

「パソコン?ウィキペディア?」

「えーと,いろいろな情報が書かれているものです。」

「百科事典みたいなものだな。」

「はい,その通りです。」

ミサが明日夏に話しかける。

「明日夏すごい。あの、明日夏、お願いがあるんだけど。」

「うん、何も言わなくても分かっている。」

「有難う。」

明日夏がミサの両胸に両手を当てる。

「ちょっと、明日夏、何をやっているの?」

「えっ、ヒールの技術を応用して、もっと胸を大きくしてほしいということでしょう。」

「違う。胸はこれ以上大きくしなくていいから。今でも肩がこるし。」

「ふん、持てる者の余裕か。」

「そうじゃなくて、うちの執事が昨日、オークにこん棒で殴られて大怪我をしているの。命は取り留めているけど、この先、どうなるか分からない状態で。」

「あー、ゲグルルにやられたんだっけ。何だ、それを治して欲しいということね。」

「その通り。」

「それならお安い御用。今はミサちゃんの家?」

「うん、うちの部屋で寝ている。」

「分かった。その前に。」

明日夏が自分の胸に手を当てる。

「だめだ、自分の情報はめまぐるしく変わって読み取れない。」

「明日夏さん、たぶん読み取った情報が自分の体を変化させてしまうから、観測に正帰還がかかってしまって、情報が振動してしまうのかもしれません。」

「残念。仕方がないから、これからミサちゃんのうちに行って執事さんを治してみるよ。」

「明日夏、有難う。誠はどうするの?」

「川があふれそうということですから、そっちへ行ってみます。」

「短時間なら、僕の盾が役に立つかもしれないから僕も行くよ。久美はどうする?」

「私も行ってみる。」

「それなら、亜美、俺たちも行こうか。リーダーはどうする。」

「お兄ちゃん、私たちで役に立ちそうなことはある?」

「上空からの決壊しそうな場所の監視と、軽いものの空中輸送かな。」

「分かった。それじゃあ、由香先輩、亜美先輩、行きましょう。」

「有難う。」


 川に到着すると、悟が近くにいた街の市長に話しかける。

「市長さん、こんにちは。」

「ああ、平田さん、こんにちは。」

「水かさがかなり増しているようですね。普段はこれより2メートルは低いと思います。」

「平田さんの言う通りです。今朝から水かさがどんどん増していて。この相模川が氾濫すると街が水浸しになるだけでは済まなくて、この辺りの畑が全滅してしまいます。平田さんのシールドで何とかならないですか。」

「局所的で短時間ならばなんとかなるのですが。かなり広い範囲であふれるでしょうから、どこまでお役に立てるか。」

「そうですか。それでも、ご協力はお願いできますでしょうか。」

「それはもちろんです。そのためにやって来ました。しかし、雨も降っていないのに。」

「平田団長、それは上流の山の方で大雨が降ったからだと思います。その水が遅れてやってきているのだと思います。」

「誠君のいう通りだろうね。」

「平田さん、この青年は、新しい団員さん?」

「そうではなくて、外国から魔王軍と戦うためにこの国に来た妖精の岩田誠君と岩田尚美さんです。魔王軍から街を守るために協力してくれるそうです。」

「もしかして、ゲグルルを撃退して、鈴木さんの家のお嬢さんを助けた・・・。」

「あれは不意をつけたからですが。」

「そうだとしても、すごいことです。街の住人を救ってくれて有難うございます。特に彼女は村の人気者だったですので。」

「いえ、僕も助けることができて嬉しいです。」

「ははははは、それは彼女は美人だからですね。」

「それだけじゃなく、歌がすごく上手と言う話ですから。」

「その通り、その噂は外国まで届いているのですか?」

「はい、行商人から聞きました。」

「それは、嬉しい限りです。岩田さんたちは、魔王軍撃退に協力してくれるとのこと、活躍を期待しています。」

「できるだけ、ご期待に沿えるよう頑張ります。」

「それで誠君、誠君なら洪水を防ぐための良い方法を何か知っているんじゃないかと思ったんだけど。」

「そうなのですか?」

「はい、彼は知恵者でもありますから。」

「そうですか。何かいい知恵はありますか。」

「僕たちの国で洪水に対処する方法を使ってみようかと考えていたところです。」

「それはどんな方法ですか?」

「木の杭を打って、その前に土を詰めた袋を並べて臨時の堤防を作る方法です。」

「誠君、土を袋に入れる理由は?」

「袋に入れないと、積んだばかりの土はすぐに流されてしまいます。小麦を入れるための袋を作っている工場がありましたから、そこで調達するのがいいと思います。」

「木の杭はどうするつもり?。」

「あそこの街の境界を示す杭を抜いて使いましょう。男手はもっと必要だと思います。」

「岩田さん、分かりました。他に良い方法もなさそうですので、至急手配をします。一刻を争います。手紙を書きますので、平田団長、妖精さんたちに運ぶようにお願いできますか?」

「もちろんです。尚ちゃんは?」

「もちろん、私もお手伝いします。」

「有難うございます。」


 市長が手紙を書き、その手紙を尚美たちが溝口エイジェンシーや袋工場に運んだ。その後、溝口エイジェンシーが制作したチラシを街の外にいるパーティのテントに運ぶと、堤防の決壊の可能性が高いところに人や資材が集まってきた。

「現場の指揮を誠君に任せたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「ここだと僕しかできないようですので、分かりました。とりあえず、杭を抜いて、この場所に並べて打つ班と、袋に土を詰めて運んで詰める班に分けます。」

「分かりました。班分けの指示をお願いします。」

誠は「プロジェクト管理の講義をもっと勉強しておけば良かった。」と思いながら、一番力がありそうな人を杭を抜くのに、逆に力のなさそうな人を土のうを作るのに、馬を土のうを運搬するのに充てることにして、グループを分け、作業を開始した。連絡の仕事を終えて戻ってきた尚美が誠に尋ねる。

「お兄ちゃん、私たちは何をすればいい。土のうを作る?」

「・・・・・・・。」

誠が黙っていたので、尚美が尋ねる。

「何か危ないこと?」

「うん。」

「分かった。お兄ちゃん、いいよ、何でも言って。」

「まず、空中から魔王軍が攻めてこないか監視してほしい。」

「誠君、それは、この機に乗じて魔王軍が攻めてくるかもしれないということ?」

「はい、そういうことです。」

「そうだね。魔王軍の攻撃はもう少し先と思っていたけど、今の状況を知ったら、急襲してくるかもしれない。数が少なくても、今はこちらが対応できない。」

「団長のいう通りです。お兄ちゃん、ということは、私たちに本当の任務は、魔王軍の偵察部隊が来るようだったら撃退するということだよね。」

「撃退というより、他の場所に誘引してもかまわない。現在のここの様子を見せたくはないから。でも、尚、あまり無理はしなくていい。」

「分かった。由香先輩、亜美先輩、大丈夫ですか。私たちの任務はかなり重要です。魔王軍の偵察部隊にここを見られると、今夜にも攻撃してくる可能性があります。」

「おう、分かった。やらなきゃしょうがないな。」

「はい、私にも重要なことは分かりました。」

「監視は三方に別れてのそれぞれの単独行動になります。魔王軍の哨戒部隊を見つけ次第、私に連絡して下さい。」

「リーダー、連絡はどうやってやるんだ。」

「今、考えます。」

その時、誠が提案する。

「皆さん、この棒を使ってください。棒を軽く折ると、しばらくの間、棒がオレンジ色に明るく光ります。」

「光る魔法の棒か。」

「UOと言いますが、そんなところです。その棒を振って合図としてください。でもあまり無理はしないで下さい。」

「そんなこと言って、お兄ちゃん、魔王軍が攻めてきたらどうするんだ。」

「最終手段ですが、街のみなさんを上の階に避難させた上で、この堤防を決壊させます。そうすれば、魔王軍は最初の水の勢いで流されると思います。ただ、このあたりは水浸しになってしまいますから、なるべく取りたなくない手段ですが。」

「確かに、それはあまり取りたなくない手段だな。それじゃあやっぱり、偵察部隊を追い返すように頑張しかないな。」

「でも、無駄死になっても仕方がありませんので、引き際だけは気を付けて下さい。」

「お兄ちゃん、その辺りは任せて。」

「分かった。尚に任せる。」

「由香先輩、亜美先輩、追われたときは絶対にまっすぐ飛ばないように。左右に高速に動けば、遠くからの矢がこんなに小さな目標に当たることはありません。」

「岩田君、それではこちらは、洪水を起こさせたときの避難の準備を確認しておくよ。」

「はい、お願いします。」

尚美たちが少し相談した後、三方に別れて飛んで偵察を開始した。誠の方は、丸太の木杭を打ち、斜め下方向につっかえ棒を打ち、横方向にも丸太を渡し、その前に土嚢を積んで、臨時の堤防を構築して行った。水かさが増して、元の堤防の高さを超えて、土嚢でできた堤防に水がやってきたが水をせき止め、川の外に流れることはなかった。土嚢の堤防の構築は、元の堤防で2番目に低い場所に移っていた。しばらくすると、日が沈んだ。空が晴れ月が出ていたため月明かりに照らされる中、土嚢の堤防を構築する作業は続けられていた。尚たちは、三方に別れて監視をしていた。尚美は下の様子を見たり、着陸して地面に耳を当てたりしたが、魔王軍が動いている様子はなかった。

「とりあえず安心かな。月明かりで、飛んでくるものは見やすいし。」

そして、上昇して周りを見渡すと、月明かりで真っ暗ではない低い空に、オレンジ色に光る点が急に現れ、それが振られているのが分かった。尚美が叫ぶ。

「UO!」

尚美がとりあえず全速を出してUOが振られている先の方に飛んで行った。

「あっちは亜美先輩の方角か。ちゃんと川とは反対方向に逃げているようだけど。亜美先輩があの速さで逃げるということは、敵は飛んでいるのか。会敵までまだ20秒はかかる。亜美さん逃げ切って!」


 話は1分ほど戻る。移動しながら監視していた亜美が、月明かりの中、5つの何かが飛んでこちらに近づいてくるのを発見した。

「何かがこっちにくる!魔王軍?5つ見える。5体の飛竜じゃ撃退することはできないから、とりあえず隠れよう。」

亜美は低空に移動して、ホバリングしながら木の陰に隠れて様子を見ていた。

「あれは飛竜じゃない。もっと小さいし。魔王軍じゃないかも。」

そしてもっとよく見ると、それが見たことがある妖精たちだった。

「何だ、北の街の妖精さんたちだ。北の街が魔王軍にやられたという話だったから逃げてきたのかな。名前は何って言ったっけ。えーと、思い出せないけど。まあいいや。挨拶をすれば分かるかもしれない。」

亜美は木の陰から出て叫んだ。

「こんにちは。北の街の妖精さんだよね。大変だったね。私はテームの街の妖精で、柴田亜美と言います。こん・・・」

近寄って行くと、3人の妖精が亜美を見ながら弓をつがえているのが分かった。

「えっ、何で何で。とりあえず、逃げよう。」

亜美が急上昇すると、3本の矢が亜美がいたところを通って行った。

「危ない!あのみなさん、私はここからすぐ近くの街の妖精で、本名は佐藤亜美といいます。魔王軍じゃないから落ち着いて。」

しかし、3人がまた弓をつがえているので、この場を離れることにした。

「魔王軍じゃないのに。名前が分からないから怒っちゃったのかな。それとも魔王軍に操られているのかも。とにかくリーダーのいう通り、川とは反対側に行かなくちゃ。」

亜美は全速で川と反対方向に向かった。5人の妖精が追いかけてきた。

「どうしよう。とりあえず、この棒を折って振るんだった。」

亜美がUOを折ると、オレンジ色に光り始めた。

「すごく明るい。」

追ってきた妖精も驚いて一旦停止した。

「レッド、何、あれ?魔法の武器か?」(ハートブルーの発言)

「ブルー、魔法の何かだろうけど、仲間に連絡している合図だと思う。」(ハートレッドの発言)

「それじゃあ、申し訳ないけど。」(ハートブルーの発言)

「急いで片づけるしかない。」(ハートレッドの発言)

「ねえ、みんな、それしか方法はないの?同じ妖精なんだから話し合ってみない?」(ハートグリーンの発言)

「グリーン、私たちが生き残るためにはピザムに気に入られるしかないの。人間達じゃ魔王軍には敵わない。街でたくさんの人が殺されたのを見たでしょう。」(ハートレッドの発言)

「そうだけど。」(ハートグリーンの発言)

「仲間を呼んだみたいだから、今は急いであの妖精を片づけてピザムの命令通り、街の様子を報告しないと。」(ハートレッドの発言)

「それじゃあ、誰が一番最初に矢を当てられるか競争しようぜ。」(ハートイエローの発言)

「イエロー、そんなことはどうでもいい。とどめはちゃんと私がさす。」(ハートブラックの発言)

「みんな、私があの妖精の前を押さえるから、グリーンは右、ブルーは左、イエローは上、ブラックは下から追いかけて。」

4人が声をそろえて答える。

「レッド、了解!」


 5人の妖精が亜美を追いかけて、矢を放つが、亜美は自分の全速力で飛んで左右に動いて何とか矢が当たらないでいた。

「由香、リーダー、早く来て!」

ハートイエローがハートブルーに話しかける。

「えーい、ちょこちょこ動くから当たらない。」

「もっと距離を詰めないとだめだ。」

「ブルーの言う通りだ。よし距離を詰めるぞ。グリーンもついてこいよ。」

「はっ、はい。」

亜美が必死に逃げるが、後ろの3人の距離がだんだんと近づいてきた。亜美が後ろを振り返って確認した。

「もう、あんなに近い。」

亜美がそう思いながら前を向くと、亜美の正面で一人の妖精が矢をつがえて亜美を待ち構えていた。亜美は、「前に!しまった。」と思いながら減速した。それを見た亜美の正面のハードレッドが矢を放った。

「グリーンも打て。」

ハートブルーがそう叫ぶと、気が進まないハートグリーンを含めた3人が亜美に向かって矢を放った。亜美が下に逃げようと思ったが、下から剣を構えて亜美めがけて突進してくる妖精がいるのが見えたため、亜美は固まって動けなくなってしまった。

「もう、だめ。」

亜美は恐怖のあまり目を閉じた。亜美の瞼には、今日の昼間に3人で歌と踊りの練習をした場面が写っていた。

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