第2話「めちゃくちゃスゴい女子ッ!?」
「岐阜にいた頃、『テレビが通販ばっかりだな』って感じたことはある?」
黒藤さんの口から飛び出た言葉に、俺は戸惑った。
しかし、「岐阜県のテレビには通販番組ばかりのチャンネルがある。」これは紛れもない事実だ。
「あ、ああ…」
俺はそうとしか答えられなかった。
回りくどい話になるが、この国のテレビは大きく2つに分かれる。「受信料を払って見るタイプ」つまりNHKと、そうじゃないタイプだ。そのうち「受信料を必要としないタイプのテレビ」は民間放送…略して「民放」と呼ばれる。
しかもその民放も大きく2つに分かれる。「東京のテレビ局を中心としたネットワークに入っているところ」と、「どこのネットワークにも入っていないところ」、つまり「独立局」だ。そこまでは俺も社会の授業で習ったことがある。
「やっぱり…!そうだよね!通販ばっかりだと飽きちゃうよね…!」
「まあ…一日中ずっとじゃないけどね…」
彼女の目は輝いているように見えた。そこから俺は、話が長くなりそうだということを察した。
「とりあえず黒藤さん… 別の場所で続きを…」
ゼミ室を出ても黒藤さんの話は止まることがない。その彼女の口から飛び出したことはというと…
「夜はテレビ東京系の番組を同時放送している。」
「…ものの野球やサッカーの中継、ときには通販のスペシャル番組で放送が飛ばされることもある。」
「ぎふチャンには放送権がないスポーツ中継が入ったせいで、急に番組が変わったこともある。」
全部合っている。
俺のいた岐阜県はというと、名古屋に本社を置いていて、東京を中心としたネットワークに入っているテレビ局が4つと、「ぎふチャン」という岐阜県内だけで映る小さなテレビ局が1つがある。そのぎふチャンはというと、夜に愛知県だけでしか映らない「テレビ愛知」というテレビ局が入っている、テレビ東京系のものを中心としたバラエティーやらニュースやらがそれなりに流れる他は、朝から夕方にかけてはほとんどテレビショッピングの番組ばかり。あまりテレビについて意識したことがない俺が分かっていることはそれくらいだ。
「あー。たしかに急に番組が変わってビックリしたことあったよ。」
黒藤さんはこんな話も繰り出してきた。
「後さ、卓球かなんかの中継が大きく長引いて、次の番組が始まるまでずっと岐阜県内のお祭りや風景の映像だけが流れたこともあったよね。覚えてる?」
「うん。そういやそんなこともあったわ…」
たしかに覚えている。今から何年か前の話になるが、テレビ愛知では放送されるがぎふチャンでは放送されないスポーツ中継が2時間近く長引いた結果、ぎふチャンではその間ずっと揖斐川など県内の様々なところの風景やお祭りの映像が夜の11時から夜中の1時くらいまでノンストップで放送されていたことがあった。母さんが11時からやっているニュース番組を見ようとしていたがなかなか番組が始まらずに戸惑っていたのもうっすらと覚えている。
しかし黒藤さんは東京出身。そこまで知っているということは岐阜に親戚がいるのだろうか?俺はそうとしか思えなかった。
「黒藤さんって、岐阜に親戚とかがいるの?」
しかし、彼女の答えは予想と反したものだった。
「ううん。親戚もみんな関東だよ。」
俺は絶句した。
「えっ?」
続けて黒藤さんはこう言った。
「実は私、地方のテレビ局とか好きなんだ!」
世の中いろんな趣味の人がいる。例えば俺はリズムゲームと深夜のラジオが好きだ。でも「地方のテレビ局それ自体が好き」という人は、俺は会ったことも聞いたこともない。
凄い趣味を持つ人と出会ってしまった。俺はそうとしか感じられなかった。
「よろしくね!斎藤君!」
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