SAVE.305:乙女ゲーム世界のセーブ&ロード⑤


 ――さぁ、茶番の幕開けだ。


 何度も何度も繰り返した、物語の始まりを。


 まだ誰も見た事のない、幸せな結末に向けて。




「残念だよ、シャロン=アズールライト……まさか君が、このような事を」


 薄暗い地下室に、苦笑いを浮かべるルーク殿下とダンテ、いったい何が始まったのかと首をかしげるミリア。


「今ここに宣言しよう。俺、アキト=E=ヴァーミリオンは」


 あきれた顔で両手を広げる悪役令嬢、もといシャロン=アズールライト。


「『蒼の聖女』、シャロン=アズールライトとの婚約を……破棄する!」


 そして俺は――悪役令嬢の義理の弟で、またある時は一国の王子でもあった俺は――。






 そこにいた仲間たちに、盛大なため息をつかれていた。


「確かにこれは演技が下手ね……」


 相も変わらず眉間に皺を寄せながら、シャロンは――姉貴は素直な感想を漏らした。


「まぁそれはいいわよ別に。私もあなたの事は手のかかる弟としか思っていないのだから」

「ひっでぇなぁ」

「あら、事実でしょ?」


 肩を竦めて姉貴は笑う。きっと俺はこの人に、ずっと頭が上がらないのだろう。


「ルーク殿下」

「なんだい?」

「俺はあなたに助けられて、時には傷つけて……次こそは、力になれるよう頑張りますよ」

「何を言うんだい、いつだって救われたのは僕のほうだよ?」


 そんな風に笑ってくれる事が、どれだけ俺が嬉しいのか。いつの日か伝えられる事を夢見て。


「なぁ、アキト、オレは? オレには何か無いのか?」

「ダンテは」


 相変わらずのダンテの顔を見ると、思わず肩の力が抜ける。そんな風に思える友人がいることを、心の底から喜びながら。


「ま、次もよろしく」

「軽いんだよ、オレの扱い!」


 その気軽さを、いつまでも互いに持てる事を切に願う。


「ミリア」

「はい、兄さん」


 思えばミリアとは、いつも違った関係だった。友人だったり、嫌っていたり、家族だったり。過去のせいで、冷たくしていた時もあったけれど。


「俺はさ、良い兄貴じゃなかったけれど……けれど、助けるよ。今度こそ、大切な家族の事を」


 もう迷わない、疑わない。自分自身を、彼女を大切だと思った瞬間を。


「期待してますよ」


 それから、もう一人。


「最後に」


 名前は呼ばない。それを呼んで良いのは、記憶の中にいる彼なのだから。


「え、あたし? まだ何かあったっけ?」


 謝罪の言葉は受取拒否で、感謝の言葉はもう伝えたから。


 だから、祈ろう。


「……必要だといいな。今日までの事が、今までの事が、全部」


 時間とか空間とか、そういう物を全部突き抜ける何かがあるって夢物語を。


「また二人が出会うために、さ」

「うん」


 彼女は頷く。見回せば、笑って送り出してくれる仲間達の顔があった。


「じゃあ、行ってくるわ」


 だから、行こうか。




「彼女を迎えに、さ」




 ――願う。


 強く、強く。


 彼女との出会いに向かって、時間場所も飛び越えて。




 もう一度始めよう。


 出会いと別れを何度も何度も繰り返した先にある。




 俺と、彼女が主人公の。






『ロードしますか?』






 物語の幕を開けに。





▶SAVE.000:きっと全てが始まる場所で

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