SAVE.005:アキト√②

 ――痛いんだな、これ。


 背中に刺さったナイフが、灼けるように熱い。鍛えていた自信はあったが、どうやら鋼鉄の刃には敵わないようだ。


 ミリアの寝顔をそっと撫でる。怪我はない事に安堵しながら、ゆっくりと体を起こす。


「アキト、なんで」


 泣きそうな彼女の声が聞こえる。


「なんでって、そりゃあ」


 軽口を叩ける余裕はない。致命傷だ、もう長くはないだろう。


「見たくないだろ……お前が」


 だから、素直な言葉だけを。




「クリスが、人を殺すところなんて」




 見たくないんだ。


 ミリアを失う事よりも、ずっと。


「……楽しかったなぁ、毎日」


 最悪な日々だった。


「姉貴がやらかして、家もどんどんおかしくなって、散々だったけど」


 アズールライトの家名は地に落ちて、居場所を失い家を出て、後ろ指を刺され続けて。


「だって」


 それでも、俺が学園に通い続けたのは。




「クリスがいたから」




 君がいたから。


 その隣にいたかったから。俺は。


「君が――」




 君のことが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る