SAVE.205C’:May the road rise to meet you
彼の泣き顔が霞んだあたしの瞳に映った。
いつか言った、あたしが好きなのは君によく似たあの人だと。そしてこの世界で出会ったあの人は、本当に君によく似ていた。
恥ずかしがり屋な所が、たまに間の抜けた所が、時々格好つける所が、優しい所が。きっとあの人の中には、本当に君が居るのだろう。
瞼を下ろせば今日まで辿った道のりを思い出す。
記憶が無いと嘘をついた。怖かったんだ、本当のあたしを知られるのが。目を背けたかったんだ、彼女が、クリス=オブライエンが背負っていた重く苦しく長い過去から。
ずっと上手くやって来たって、本気でそう思っていたんだ。
仲良しの婚約者として彼を支えていくのが、自分がこの世界に来た意味だって信じて。
――だけどさ、違ったんだね。
あたしの役目は彼の恋人なんかじゃなかった。だって君はあたしの大好きな人じゃなくて、あたしは君の大好きな人じゃなかったから。
よく似た他人に面影だけを重ねて、お互いの都合の良いところだけを見つめて。
上手くいくわけなかったんだ。君を救おうと願ったって、あたしが出来る筈無かったんだ。
君を救えるのはたった一人、世界中どこを探してもあの子だけ。
終われない、終われないよこんな所で。
あたしは何にも出来なくって、君を悲しませただけなのに。こんな薄暗い場所が終わりだなんて、あたしは絶対に許せない。
もしも世界をやり直せるなら、今度こそ自分の役目を果たしてみせるんだ。
恨まれたって不格好だって、道化を演じてみせたって。
私の記憶を想いを知識を、全部使い切ったとしても。
あの子に再び出会う旅路の案内人を、今度こそやりきって見せるから。
ふと、頭には祖母が口にしていた、故郷の言葉を思い出す。もう瞼は開かなくて、唇なんて動かないけど。
これからの君の旅路に、幸多からん事を願って。
――いつだって道が君の前にありますように。
私が作って、みせるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます