第14話・スサナーガ族
どこまでも続く砂原、だが代わり映えのないものばかりではない。
「スススーサー!」
「スー! スサー!?」
だが、いつもお世話にと挨拶しようとした蛇はすぐに慌てた。
「あ! スサナール族!」
この当時、人間とそれ以外を区別する思想はなかった。よって、エヴァのこの発言は、今の我々が別人種を見たときの感覚に好奇心を追加したものに似ている。
「これ、すぐに近寄ったりしない! あいつに噛まれたら、死んじまうんだ!」
「うえ!?」
いきなり勢いを殺されてエヴァは変な声が出てしまった。もちろん蛇だって友情や愛情を感じたりする。むしろ、愛情に関しては結構深いのだ。蛇の子育てはかなり献身的である。
「よっ!」
「スースー!?」
ただ、この時代の蛇は言語力が高いが記憶力がよくない。“おっ! 主じゃん!”みたいな、軽いノリで
「スーサー!」
「ねえ、どんな話ししてるの?」
エヴァは訊ねた。
「いや、怖いわ……」
アダムはすっかり砂漠の生物に怯えていた。
蛇の頭はさほど大きくない。噛まれたところで、死なないだろうとアダムは思っていた。だが、噛まれたら死ぬと聞いては震え上がらずにいられなかったのである。
「そうだね、通訳しよう!」
『聞いてくれよ……うちの子がまた獲物をのどに詰まらせたんだ。だから大きいのはやめろって言ってるのに……』
この蛇は現在育児中の母親である。割と子煩悩で、事あるごとに育児の愚痴を素戔嗚に吐いていた。
『いや! 噛めよ!』
と、
『それ、ずっとどうやるのかわからないのよ……』
蛇が噛むと言ったら、獲物を仕留めるためである。噛んでちぎって食べるというのはよくわからない。
『うーん、そうなったらのどに詰まらせない方法がわからないなぁ。ところで、その子無事か?』
好意的な種族の子供、それは
『無事、吐き出したよ!』
ただ、この世界に敬語などという概念はどこにも存在しないが。それはそれで、フレンドリーで気兼ねがなかったのである。
『おぉ! 良かった! この調子でたっぷり増えろ!』
子蛇もすべてが大人になれるわけではない。大人にしてやりたいが、自然は厳しいのである。
『ありがと! 主もおっきくなれよ!』
蛇の母は基本的に肝っ玉母ちゃんである。
『いや、そろそろ遠慮したいんだが……。見ろこの体、うっかりお前たちを踏み潰したらどうする!?』
ただ、貢物を貰うなら、定期的に脱皮のフリをして大きくならなくてはいけない。
『砂に埋まって逃げればいい!』
ただ、蛇は言う。際限なく大きくなれと。
『やばい怪物になっちまうだろ!?』
神話に登場する蛇は、正体が
『あ、怪物って言えば、後ろのは何だ? 友達か? ここらへんの怖い奴らに似てるけど……』
『あ、そうそう。あいつらは、わけもなく追い回したりしないと思うぞ!』
と、
『んじゃ、私の友達も同然だな!』
と、そこまで言うと、蛇は先頭にいたエヴァに向かった。
「ま、先にスサ・ナーガと話したから大丈夫だね!」
エヴァはその時“待て”を言い渡された、イヌようだった。
そんな彼女に、
「じゃあ!」
それなら、もう我慢しないと、エヴァは身を低くした。
エヴァの友好関係を築く基本である。上から見下ろされるのが怖いのは、全生物共通なのだ。
「スースー!」
蛇は、その身をエヴァに軽く絡めた。
蛇のここが難しい。あんまり絡めすぎると、求愛になってしまう。
「エヴァ! それ以上は、ダメだ!」
その寸前に、
蛇の文化を
「あ、はーい……」
と、エヴァは蛇から手を離した。
「スースー!」
蛇の言葉の意味は、エヴァにはまだわからなかった。
「なんて?」
よって、
「よろしくって感じだね!」
こうして、エヴァと砂漠の蛇たちの交流が始まった。
「エヴァ、よく平気だね……」
いつ殺されるかわからない相手と触れ合える、エヴァが勇敢すぎるとアダムは思うのである。
「でも、最高の触り心地だよ!」
蛇というのは、本当に不思議な触り心地だった。
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