ドキドキ放課後冒険物語!
「そういう訳で、わたしと邑楽くんのドキドキ! 放課後冒険物語スタートー!」
「だから、しねぇよ。何だその視聴率が全く取れなさそうな企画は。ちゃんと家に帰らせてくれ」
「え? それじゃあ、わたしのお家に来る……?」
「何が『それじゃあ』なんだ!? 意味不明な接続をするのはやめろ!」
少しだけフラフラとしたものの、奇跡的に二人乗りを成功させた僕たちは、そのまま緩やかに帰宅路を走っていた。
学校の放課後という時間は少しだけ特別な時間で、学生以外の人間を見かける比率が多少ながらも下がり、学生を見かける比率が跳ね上がる、夕方少し前である。
これでもう少し日が沈めば、仕事を終えたサラリーマンだったり、買い物へと向かったりする人の比率が増える。
昼と夜の境目にある夕方よりも、もっと短い限定的な、けれども特別すぎる訳じゃない時間。
そういう目で見た時、僕は結構そんな時間が好きだった。
すれ違う度に、信じられないものを見たかのような目で、他校の生徒にガン見されることがなければ、きっと今日もそう思っていたことだろう。
ただでさえ人目を惹く神騙と、如何にも人好きしなさそうな僕のコンビなのだから、その気持ちが分からなくもないんだけどな。
気分はあまり良くない──というか、どういうベクトルの視線だとしても、基本的に見られることが嫌いなのでどうしようもなかった。
「でも、真っ直ぐお家に帰ったりはしないんでしょ?」
「まあ、そのつもりではあったが……何で何も言ってないのに分かるんだよ」
「だってわたし、邑楽くんの奥さんだもん」
「へいへい……それで、どこに行く? 僕は大体、ファミレスくらいにしか行かないんだけど」
他には気が向けばカラオケか、あるいはぼんやりと、あてどなく自転車を転がすくらいである。
学生が一人、放課後に長時間、暇を潰す為に行ける場所なんて限られてるからな。
ゲーセンは嫌いではないがお金を使い過ぎてしまうし、ショッピングモールはウィンドウショッピングを楽しむ能力を持って生まれてこなかったせいか、そこまで楽しめない。
本屋は好きだが、あんまり長いこと立ち読みするのは個人的に好ましくなかった。
ただ、神騙は言葉通り住んでいる世界というか、過ごしている環境が違う。
僕が全く知らない、暇を潰せる場所を知っているかもしれなかった。
神騙は、のんびりとペダルを漕ぐ僕にしっかり抱き着きながら、「そうだなぁ」と言葉を零す。
「わたしは一人だと、図書館に行くことが多いかなあ。読書に勉強に休憩、何でも出来るじゃない?」
「あー、図書館か。でも、ちょっと遠くないか? 少なくとも、歩きで行く気にはならないだろ」
「? ああ、うん、大きい方はそうだね。でも、小さいけどこの街にもあるんだよ?」
「へぇ、そりゃ知らなかったな」
放課後散策によって、この辺はかなり行き尽くしたつもりだったんだけどな。
流石に地元民(多分)には勝てないか。
「それじゃあ、目的地は図書館にしよっか……って言いたいところなんだけど、今日は休館日だからなあ。そうだ! 代わりに行って欲しいところがあるんだけど、大丈夫?」
「あんまり遠くならなきゃ、どこでも良い。後はアレだ、陽キャ陽キャしてる特殊なところじゃなかったらな」
「陽キャ陽キャって……わたしをどういう目で見てるのよ、邑楽くんは……」
そりゃもう言葉通り、陽キャを体現したかのような人間であると思っているのだが、言葉にしたら人為的な不幸が降りかかって来そうなのでやめておいた。
ハハッと濁した笑いを作っておく。僕の腰を締め付ける力が、心なしか増した気がした。
「まったくもう、きみって人は……えへへ、そういうところも好きなんだけどね」
「えぇ……趣味の悪いやつだな」
「自分でそういうこと言うんだ!?」
「当たり前だろ、僕は基本的に僕のことは全肯定だが、完璧だと思っている訳じゃない」
だいたい、陰キャ陽キャなんて俗っぽい区別の言葉を使っている時点で、それは分かることだろう。
本当に気にしないで生きているのであれば、普通使うことはない。つまりはそういうことである。
まあ、だからと言って、変わろうとは思っていないところがミソなんだけどな。
少なくとも僕は、今の僕をそれなりに気に入っていた。
何だかもう、好意をストレートにバシバシぶつけられるのも、感覚が麻痺してきて流せるようになってきてるとことか、超気に入ってるからな。
我ながら、流石の順応力だ……と感嘆の息を漏らしてしまうほどである。
「それで、行きたい場所ってのは?」
「うん、それなんだけど……邑楽くん、今日手持ちある?」
「おっとカツアゲか? おいおい、僕は即座に泣いて許しを請う程度には、その類の脅しには弱いからやめておけ」
「そんな訳ないでしょ!?」
ただ、無いよりは有った方が楽しめる場所ってだけです! と神騙に、力一杯抱きしめられる僕だった。
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