第2章 銘と名の調べ5
「うわ……、段ボールの山だな」
各自に与えられた寮の自室に入ると、そこにはいくつかの段ボールが置かれていた。
本来であればすぐにでも開封しなければならないが、当然そんな気力は残っていない。
「疲れたから……荷ほどきは明日にしよう」
入学式はなかったものの、初日早々の特訓やホームルームの内容、目黒先生の言葉を思い出すと、疲労感がよりいっそう重く感じてしまう。
それでも、こうして一人になれる時間が与えられるのは有り難かった。
時計を見ると、時刻は既に明け方近く。
昼夜逆転の生活がこれから始まるのかと、改めて実感する。
ぼふっとベッドの上に横になると、早々に眠気が襲ってくる。
【これ、れんよ。しっかり布団の中に入らんか】
すると、ズルリと影の中からリツが這い出てくるのが気配で分かった。
「わかって、る……よ。でも、もう限界……」
モゾモゾと中途半端に毛布を身体にかける。
それを見かねてか、影の中からリツが出てくると毛布を引っ張っては全身にかけてくれた。
【まったく。仕方のない仔じゃ……】
フワリと、頭に柔らかい何かが触れる。
目を開かなくても、それがリツの尻尾だと解った。
いつもそうだ。
僕の友達は、優しくていつもこうして傍にいてくれる。
実の両親よりも、ずっと――……。
「リツ……、ありがと……」
それだけ呟くと、僕は微睡みの海の中へと沈んでいった。
† † †
その部屋は、すべての窓が閉め切られ漆黒のカーテンによって完全に遮光されていた。
昼間だといういうのに、一片の明かりも感じられない。
一寸先も見えない暗い闇。
襲い来る圧迫感もモノともせず、俺はその空間の中央に佇んでいた。
「入学早々、随分と手荒い歓迎をしたそうね」
不意に、空間内に声が響いた。
しゃがれた女性の声に、内心小言を言われる覚悟を持っていた俺ははっきりと思っていたことを口にした。
「なにか問題でも? 無駄な行事に時間を割くほど、非効率的なことはない」
己の行った行動に問題などない、と悪びれることもなく言葉を吐き捨てる。
「我々には一分一秒たりとも無駄にできない理由がある。近年〝開花〟が遅れていることについては、貴女も承知の上でしょう」
「そうですね……。けれど、もう少しやり方があったのではないかしら」
「人間なんぞ、極限状態に追い込まれた時の行動が何よりも経験になる。同時に其奴がどんな奴なのか、本性だって浮き彫りになるもんです」
上っ面の関係など不要だ。
そうでなければ、いくら〝才〟があろうとも宝の持ち腐れ。
〝禍津者〟と対峙していくことは厳しいだろう。
〝
「だから、俺は――……」
闇雲に生徒を死地へ放り込むことは本意ではない。
だからと言って甘やかすつもりも毛頭ない。
黒いヴェールのその先にいる人物に向け、強い言葉をぶつける。
「俺は俺なりのやり方でやらせて貰う」
「…………」
「それがアイツらの未来に繋がるなら、憎まれたって構いやしない」
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