第1話 後悔

 専門学校生活二度目の夏、世の中は夏休みムードとなり専門学生である俺も例外ではない。

 中学、高校と来て次に進学すると言ったら大学か専門学校。

 大学か専門学校、どちらかを卒業してしまえば、青春と言う物を味わう事は出来なくなり、待っているのは仕事漬けの毎日。

 そう考えると、青春をするラストチャンスと言っても過言ではない。

 

 そして青春と言っても、それはいくつのも物が詰まった物に過ぎず、細かく分けていけば人によって青春というものは全くの別物になる。

 友達との楽しい思い出が青春と言う人も居れば、クラス全体で協力して行った行事を青春と言う人もいる。

 しかし、青春とは何かと考えた時、真っ先に出てくるのはやはり『恋愛』ではないだろうか。

 そう断定できる証拠は無いが、青春=恋愛だという考えの人が大多数だと俺は思う。

 よくよく考えてみて欲しい。

 学校生活でしか味わえないイベント、学校祭、体育祭、修学旅行と上げだしたらキリが無いが、それと並行して『好きな人と一緒だったら……』という淡い妄想や期待を一度はしたことがあるはずだ。

 

 そして、彼女が一度も出来た事がない俺でも、良い夢を見させてもらったことがある。

 これが青春なんだと体感できた勇逸の出来事。

 

 当時、俺の通っていた高校は所謂、商業高校というもので科目ごとにクラスが分けられていて三年間を通してクラス変えは一度も無かった。

 そして俺のクラスの男女比は3:30という異例の数字。

 入学して早々、三年間このクラスでやっていくのかと俺は絶望したが、同じ中学の女子に頼らせてもらって女子の権力は強かったが、それでもクラスの中では真ん中ぐらいの位置に着くことができた。 

 

 クラスの女子と関わる事は増え、学校祭や宿泊研修、体育祭と俺は男子の長として上手くやっていた。

 しかし関りはは増える一方だったが、恋愛関係に発展することは無く、そうこうしている内に彼女も作れないまま一年が終わった。

 そして二年生となり、女子との関わり方だいぶ分かって来た頃。

 俺は一人の女子と仲良くなるキッカケが生まれた。

 

 その女子の名は川村彩音と言い、クラスは俺と同じ。

 顔やスタイルは突出して整っているという訳ではなかったが、クラスからの人気は高く、学級委員長を務めたり学校祭などの行事には進んで取り組みクラスを引っ張っていくし、困っている子が居たらなり振り構わず助けるというまさに、クラスのリーダー的存在だった。

 そんな人気者の彼女とどうして仲良くなったのか、それは高校生活二回目の学校祭で起きた。

 

 その日の俺は自分の仕事に取組み、自分のクラスの出し物が終わるとすぐに仕事に戻るというプログラムを組まれたロボットのような行動を取っていた。

 そして学校祭が終わり、帰る支度をして学校から出ようとしたところ誰かの泣き声が聞こえた。

 他のクラスの生徒も帰り始めていて、その話し声にどんどん泣き声は飲まれてやがて聞こえなくなってしまった。

 しかし、いくらロボットみたいな生活をしていた俺でも感情というものは存在していて、俺はどうしてもその泣き声の正体が気になった。


 そして俺はクラス発表のダンスの練習をしていた校舎裏のグラウンド前の芝生に向かおうとした。

 そして向かっている途中に弓道場があるのだが、またその近くの弓道場の倉庫の裏に人影が見えた。

 泣き声の正体だと思いそこに行くと、そこにはうずくまり、すすり泣いている彩音の姿があった。

 

 彩音は俺が来る前、クラスの女子にイジメられていた。

 水を浴びせられたり、殴る蹴るなどの暴行は無かったらしいがクラスのリーダー的存在の立ち位置に居た彩音を妬んだ二軍女子が、集団で彩音に対して嫌味を言い続けた。

 そして、彩音は耐える事が出来ずに壊れてしまい、それに焦った二軍女子はそそくさとその場を離れて、俺が来たという状況だった。


 俺が声を掛けるや否や、彩音は怒り、俺に暴言を浴びせ、彩音の精神状態は完全に崩壊していた。

 当時の俺はそんな事情を知らないから、只々優しい言葉を投げかける事しか出来なかったが、今となってはあれは彼女にとって毒だったのかもしれない。

 

 次第に俺は何を話せばいいのか分からず、只々立ち尽くすだけだったが彼女は次第に落ち着き、そして俺に抱き着いてまた泣いた。

 人に飢えていたのか、俺の優しさに縋ったのかは分からない。

 そして彩音が落ち着いてから先ほどのイジメの話を聞いて、そこから彩音とは話すようになった。

  

 席替えで席が隣になれば授業中でも二人で話をしていたり、遊んだりして注意されて、学校祭や体育祭では同じ班に所属してまた二人でふざけ合う。

 家に帰ったら毎日のように通話をしていたし、プライベートで遊ぶ事も何度もあった。


 そして次第に俺は、彩音の事を友達としての好きではなく人として好きになっていた。

 

 しかし彩音とは高校を卒業してからまるっきり遊ばなくなった。

 毎日のようにしていた通話も、あれだけ楽しかったプライベートでの遊びも、彼女との関係性も全て無くなった。

 専門学校に入学してからというものの、彼女から時々連絡はあった。 

 だが、俺がバイトを詰め込んでいたため予定が合わず、イメスタというSNSを見る限り向こうも忙しそうだったので俺から連絡することは無かった。

 そして気づけば彼女との接点は無くなっていて、今に至る。


 高校の時、告白しておけばこんな事にはならなかったのかもしれないが、俺は彩音との関係性が壊れるのが凄く怖かった。

 今のままでも十分満足している、そう思い続けた結果が自然消滅。

 今となっては若気の至りのようなものだが、後悔はしている。

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