マッチングアプリで大好きだった親友と再会した。
竜田優乃
プロローグ
人でごった返す札幌駅南口。
冬は極寒の北海道だが、夏は30℃を越える日もあり、この日も真夏日だった。
少し厚着の服にし過ぎた事を後悔しながらも、建物の中に避難し俺は柱の後ろに回り、影になっている場所にもたれかかる。
隣には誰かとやりとりをしているのかスマホをいじっている大学生らしき女性がいた。
白で統一された服装で、ポロネックのカジュアルワンピースでスカートを留めるリボンを腰よりも上で縛っているためウエストが整っているように見える。
腕には白色の腕時計をしていて、スマホと逆の手には小さなピクニックバックを持っており可愛らしさが増している。
清楚系の女性は、スマホから目を離すと周りをジロジロと伺い始めた。
そして、目の前からストリート系のファッションをした金髪の男が来た。
『アイブルのななえさんですか?』
『アイブルのかなとさんですか?』
口を揃え、互いに同じ『アイブル』という名前をだした。
アイブルというのは今もっとも流行っているマッチングアプリの名で、リリースから僅か一カ月で500組のカップルを誕生させたという実績を持つアプリだ。
最近ではテレビや動画配信サイトの広告でも流れるようになり、目につく機会は多くなった。
先ほどの二人は少し話をしてから、建物の奥へと消えて行った。
隣で話している時は最初だからかぎこちなさが目に付いたが、それでも二人で歩き始める頃には打ち解けたのか最初のぎこちなさは無くなっていた。
俺はマッチングアプリについてはかなり否定派の人間だった。
男女問わずトラブルに巻き込まれる事も増え、男性ならば一時の迷いで体を交え、その後襲われたと言われて金銭を要求されたり、女性ならばその逆で、力に抗えずに諦めて体を差し出すなんて事もあり、世に出てないだけでそのような事案は数えきれないほどある。
マッチングアプリでの交流なので、事件に逢ってからではもう遅いのだ。
交流した時に聞いていた名前などの相手の情報が全て噓である可能性はあるし、事件に逢って相手にメッセージを飛ばしてもブロックされていて泣き寝入り、なんてことはザラにあると聞いた。
その他にも、売れないホストやキャバ嬢が客集めの為にマッチングアプリを使用し、マッチした相手の懐に上手く付け込んでそのまま貢がせるという事案も実際にあるらしい。
だから俺はマッチングアプリは否定派だったのだが、アイブルは現在キャンペーンをやっているらしく、一回もアプリを入れた事が無い人にアプリをダウンロードさせ、招待コードという物を打ち込むとコードを打ってもらった人とアプリを入れた人の月額費が一カ月分無料になるという。
そして俺は友達に入れるように頼まれ、せっかく無料になったのにそのまま使わずに消すのはもったいないというケチな性格のせいで使わざるを得ず、現在一人の女性を待っているという状況だ。
マッチングアプリ、案外使ってみると俺の運が良かっただけなのかもしれないが、相手の女性と話してみるともの凄く気の合う女性で、話していると凄く楽しかった。
そして、俺の中では彼女にしたいという欲はあるが今の心情だと趣味を共通できる友達が出来たという感覚だった。
会うのは今日が初めてだが、それでも抵抗などは感じずに楽しみという感情が強く、集合時間よりも早く来てしまった。
しかし集合時間が徐々に迫り、楽しみという感情は次第に緊張という感情に乗っ取られ、一分、また一分と時間が迫る度、緊張が膨らむ。
気合の入れた服装、変な風に見られないだろうか、髪型はちゃんと整っているだろうか、服に目立つゴミなど付いていないだろうか、と急に自分の外見を気にし始め、スマホの内カメで一枚自撮りをした。
ぎこちない笑顔が映り、それを見て本当に大丈夫だろうかと心配になってしまう。
そして、そうこうしている内にスマホにアイブルの『メッセージが届きました』という通知が来た。
開いてみると相手の女性からで『暑いので駅の中に避難してきました、南口なんですけど中に居ますか?』と来た。
俺は柱から離れ、相手の女性を探す。
しかし俺が駅の中に入った時と比べ、入り口付近には涼む人が増えていて相手の女性がどこにいるかが分からない。
自分の特徴を伝えるメッセージを送り、相手からも自分の特徴が送られてくる。
『すみません、中に居るんですけど見つけられなくて。自分水色のシャツで白のズボン履いてます』
『私、ウルフでクリーム色っぽいワンピース着てるんですけど分かりますか?』
しかしその特徴に該当する人が見つからず、なにかメッセージが来ていないかとスマホに目を向けた時だった。
後ろから肩を叩かれる感触がして、振り返ると特徴に一致する女性が後ろに居た。
「アイブルのあやです。初めまして」
丁寧に頭を下げ、外見からは似つかない口調で挨拶をする彼女。
ウルフヘアでインナーカラーを入れているのかクリーム色の髪の毛がうっすらと見えている。
耳にはイヤーカフかは分からないがピアスのような物をしている。
ヤバい女子を引いてしまったのかと思いつつ俺は名乗る。
「えっと初めまして、アイブルのななこと
緊張からか目を瞑ってしまい、それが恥ずかしくなり逃げるように頭を下げる。
彼女のからの返答が怖くてなぜか頭を上げる事ができない。
しかし、彼女からの返答に俺は驚かされる事となる。
「え、なせくんなの?」
なせくんという言葉に反応し、俺は反射的に顔を上げた。
顔を上げた先には、歓喜からかは分からないが口元を手で押さえ涙目になった彼女の顔があった。
「え、どうしたんですか……?」
「え、いやその、私の事覚えてない?
川村彩音、それは俺の高校での親友であり高校時代、勇逸恋をした相手の名前だった。
「うそ……だろ……」
今日初めて会うはずの女性は、高校で誰よりも多く一緒に時を過ごして来た女性だった。
運命とは誰が決めたかは分からないが、道筋通り進み、その運命を変えることは出来ない。
しかし今、その運命の道筋が書き替えられたのかもしれない。
「久しぶり、だね」
「そう、だな」
俺はこの日、疎遠になっていた一番の親友と再会した。
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