学校の課題の掌編小説 pt,2
まにょ
Sincerely
太陽が猛威を振るう8月の初旬。
男子高校生と先生が机を境に座っている。
先生―――神崎葵は静かなる怒りを胸にたぎらせ、今にも爆発しそうである。一方男子高校生―――荒木廉太郎は口元に笑みを浮かべて余裕の表情.......であるが、内心は一刻もこの地獄のような時間を終わらせたかった。
机には『一学期を振り返って』と書かれた氏名荒木廉太郎の提出用紙が置かれていた。この状況を見るだけで惨状の原因は一目瞭然だろう。
一学期を振り返って 1年2組 荒木廉太郎
[『青春を謳歌する』とほざく者、また夢見描く者への教訓だ。
青春とは虚構であり、それであるが故に楽園である。
自らに降り注ぐ事象を肯定的に見据えて、自己と周囲を欺く。
どんなに楽だろうと、どんなに辛かろうと、それを〈思い出〉と偽り、勲章として刻むのだ。
思い出してみてくれ。周囲にいるクラスメイトと呼ばれる彼らは、無断欠席やいじめという恥ずべき行為をおおよそ見当違いな『若気の至り』と呼びはじめる。
期末考査で赤点を取ってしまえば、学校を勉強するだけの場所じゃないと自己肯定する。
彼らは青春の二文字の前では社会の一般常識ですら赤子をひねるようにいとも容易く捻じ曲げる。むしろ、嘘も秘密も罪科さえも青春への隠し味でしかないのだ。
そして、彼らはその隠し味に特別性を見出だす。
自分たちの隠し味は鮮やかに遍き輝く一部分に過ぎないが、他者の失敗は毒物であるかのように拒絶し青春であると断じて認めないのだ。それだけでなく、敗北者と決定付ける。
仮に常識に反する行為を勲章として扱うのであれば、一度高校生活に失敗したような我々も青春の中心にいなければおかしいではないか。
しかし、これを認める日は決して無いだろう。すべて彼らのご都合主義という楽園〈ディストピア〉でしかない。
ならばそれは偽証だ。彼らの欺きも至りも秘密も問いただし非難するべきだ。
彼らは虚実で固めたれた悪そのものだ。
つまり逆説的にクラスの末端にいる我々こそが本来の正義と呼べるだろう。
これを聞いても謳歌したいのなら良いだろう。
『勝手に爆発してろ』]
「なあ、荒木。私は一学期を振り返るために課題を出したんだ。なんだ、お前はこの数ヶ月の間、殺害計画でも練っていたのか?」
「いや、わらしの脳内の片隅にもそんな偏僻のことはな...なく、高校生活の湾曲へ反旗を翻したといいうか」
噛みまくりだった。男勝りというか本物の男じゃないかと思ってしまうほどの圧が目の前で立ち昇っているのだ。
「普通こういうのは芽生えた友情とか部活に勤しんだこととか明るい内容をかくもんじゃないのか」
「そうならそうと早く言ってくださいよ。それなら入学式当日から始まった百物語に匹敵する陰キャエピソードを書き連ねたのに。これは先生のミスですね」
荒木は立ち上がり、そそくさと教室をでようとする。
しかし、風の音と共にその動きはピタッと止まった。
それはおおよそ人とは思えない速さの腕が荒木の肩を掴んだからだ。
「まだ、話は終わってないぞ。そもそもお前に青春なんか求めちゃあいない。青春なんか〈私たち〉にとっては無縁なんだから」
「同類に怒りを込めてどうするんですか、モテませんy...........
「知ってるか?人って頸動脈を思いっきり叩けば死ぬらしいぞ」
神崎は荒木の首に腕をからめ、身体を寄せてくる。
可愛らしい同級生が優しく絡めるのならそれこそ青春のひとかけらとして刻むが、現実はなんとも悲惨でヘッドロックされている気分だった。
「ちょ....せんせ、タンマ」
「.......................」
「ギブ」
「....................」
「わかりましたわかりましたよ。先生は他の女が目劣りするくらいでアラサーと言ったらそこらの女から訝しげな顔されてしまう絶世の美女ですよ」
組み付かれた腕がほどかれていく。
「わかればよろしい」
「なんか話がずれてってません?」
「おーそうだったな」
コホンッと咳払いして一言。
「お前には青春が似合わない」
「物理的攻撃の次は精神面ですか、豆腐メンタルがそぼろと化しますよ」
瞬間、神崎は吹きながら笑いだした。
「す、まんすまん、言い方を間違えた。つまり、お前に青春を語るのはもったいないんだ。お前は女の汁を啜りたいから高校生になったのか。いやそれも確かにあるだろうさ。でも私が、いや君が求めているであろう言葉はそれじゃない」
「.........先生はなんだと思いますか?この数ヶ月俺の醜態を見て」
「さあな私は私で今をときめきたいんだ。ガキの乳繰り合いに構うほど猶予が.........あ、あーーーーーーーーー」
「先生、いつもの発作がでてますよ」
「あ、ああもう大丈夫、今朝の女性の未婚率問題のニュース思い出したら気分がよくなってきた」
神崎は荒木に向かって拳を握りしめガッツポーズをする。
もう、やだこの先生と荒木は呆れていた。
「提出は夏休み明けでいい。じっくりかんがえてきたまえ」
新たな提出用紙を渡してくる。
荒木はその紙をもらうと、「わかりました」と告げて今度こそ教室を出た。
「あーそうだ、最後に」
廊下へと数歩出たところで呼び止められる。
「この3年間が人生の山、頂点、全てなんて思うなよ。そんなことはない、断じてありえん。この世界はつねに0でできていて、必ず帳尻は合わせられる。でも、今しかできないこと、ここでしかできないことがある。一人ひとり時期と違いがあっても必ずあるんだ。それを忘れるな」
「誰の受け売りですか?」
「私のこの30年間の人生で編み出した自作の座右の銘だ」
「かっこいいすね」
そう言って再び廊下へと歩いていった。
太陽が暑さを忘れ始めた頃。
職員室に一人の高校生と一人の先生が向かい合っている。
「読んだぞ」
「どうでしたか、ポルナレフのようにありのまま起こったことを書きましたよ」
「ポルナレフは語っていただろ。しかもこんなの痴態をあんな工匠な漫画と一緒にすんな。まあ、内容は前よりは断然お前らしいがな」
「帳尻は合わせられるんでしょ」
「そうだったな」
1学期を振り返って 1年2組 荒木廉太郎
[日進月歩と言うがそれは真っ赤な嘘だ。
そこらへんのクラスメイトは青春を謳歌していると錯誤し、彼女、彼氏とまぐわいあう。
我々は妄想と夢を抱き、いつまでも引津っている。
まさに旧態依然。
嘘を嘘で固められた事実という鎖で縛り上げられている。いや、自ら縛っているのだ。
縛ってもらっている私は最強だ。
なぜなら孤高であるからだ。
孤高であることは強い。繋がりを持たないということは誰からも頼られなければ、困られることもない。繋がり、それは言い換えれば欠点にほかならない。かの最強の僧兵武蔵坊弁慶にも『弁慶の泣き所』と未だに語られている弱点があったからこそ敗れた。きっと彼らは弱点さえなければ歴史に勝利者として名を刻んだはずである。
したがって欠点のない、繋がりを持たない、停滞した今が心地よいのだ。
どうせ人生は始まりがあって終わりがあるのは当たり前で高校もそれと同じである。
私はこれからも『温故知新』をモットーに停滞し続けたい。
でも、やっぱり『リア充爆発しろ』]
学校の課題の掌編小説 pt,2 まにょ @chihiro_xyiyu
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