アキバの探偵事務所には閑古鳥が鳴く
かざみ まゆみ
アキバの探偵事務所には閑古鳥が鳴く
第1話
「それって絶対に第六感だと思うの!!」
俺の眼前に愛くるしい顔を近づけながら、美少女が力説する。
サラサラと流れる漆黒のロングヘアが彼女の自慢だ。
「今どきの若い子は第六感なんて言わないんじゃないのかな? インスピレーションとかデジャヴとかの方がお洒落だと思うぞ」
俺は持っていたスポーツ新聞で
――まったく、この娘の好奇心の強さには負けるよ……。
「そういう言葉遊びはいいですから、
小夜子は俺がコンビニで買ってきたばかりのスポーツ新聞を奪うと、クシャクシャと丸めてソファーに投げ捨てた。
「あぁ、まだ全部読んでいないのに!」
俺は慌てて新聞を拾うと、そそくさと椅子まで戻ってきた。
――本当に親友ならそこまで困る前に相談してくれたんじゃないの?
俺は心の中でそう思ったが口には出さなかった。
この娘の機嫌を損ねたら一週間はカップラーメンだけの晩飯になってしまう。これは冗談ではなく実際に体験済みだ。
俺は椅子にもたれ掛かると、腕を高々と上げて大きく伸びをした。
「しょうがない。相談に乗るだけだぞ」
伸び放題になっていたパーマ頭を掻きむしると、俺は椅子から立ち上がった。
「やったぁ! じゃあ、すぐ楓に連絡するね!」
小夜子は小躍りしながらローデスクに置いてあったスマホを手に取ると、手早くメッセージを送り始めた。
――今の若い子ってホントにスマホの扱いが手慣れているよな。俺なんか新しい端末に買い換えるたびに四苦八苦してるってのに……。
俺が狭いキッチンからコーヒーを入れて戻ってくると、小夜子はまだスマホの画面をいじっている。
「それで相談料は貰えるのかな? 探偵助手の小夜子君」
「えーと、晩ごはんの食事代が無料になります」
小夜子はスマホから顔を上げようともせずに答えた。
俺は首を傾げる。
――それって普段と変わらないよな……?
小夜子はとある事件の後、我が探偵事務所の隣の空き部屋へと引っ越しをしてきた。それ以来、毎日の晩飯はこの事務所で二人分を作って食べるのが日課となっている。
「なぁ、それってタダ働き……?」
「楓から連絡きましたよ! いま大学にいるって。渋谷駅近くの喫茶店で待ち合わせにするね」
相変わらず小夜子はスマホから目を離さない。
――ちったぁ俺を見て話してくれてもいいのに。
俺は半ば諦めて出かける準備を始めた。
「また、大家の所でバイトをしなくちゃな……」
「ん? なにか言った?」
小夜子が髪をかき上げ、上機嫌な顔で俺の事を見る。楓の相談に乗れたことが相当に嬉しかったようだ。
この笑顔にヤラれた男達は数多くいることだろう。俺も親族でなければ鼻の下を伸ばしていたかも知れない。それぐらい魅力的な笑顔だ。
「なんでも無い。すぐ出発するんだろ?」
「うん。一時間後で約束したから、よろしくねっ!」
小夜子はスマホの画面を消すと、丁寧にバッグへとしまい込んだ。彼女のスマホは先日新機種に変わったばかりで、まだまだ大切に扱われている。
俺はまだ熱いコーヒーを胃の中へ流し込むと、薄手のトレンチコートを手にして事務所を出た。
先に部屋を出た小夜子の階段を降りる足音が聞こえる。
――今日は春の日差しが暖かい。そろそろ花粉の季節かな?
そんな事を考えながら、俺も古いビルの階段を降りて行った。
階段を降りると小夜子が待っていた。その隣には一人の老婆が……。しばらくは会いたくないと思っていたウチの大家だ。
「今日は同伴出社かい? パパ活探偵さんよ……」
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