片想い中のツンデレ幼馴染がツンデレ通り越してヤンデレになった件
水野青空
全ての君が好き
「まなとくん…愛してるよ…?」
そうさっきから俺の部屋でつぶやき続けてるこいつは花見恵那。昔からの親友でいわゆる幼馴染ってやつなんだけど、実はずっと前から好きだった、でも気持ちを伝えられていない。体育祭の時に告白しようって決めて家に帰って、部屋の扉を開けた瞬間これだよ。
にま〜と不気味な笑い、いやとても可愛らしい笑みを浮かべながらぶつぶつとつぶやき続けている。本当なら嬉しいんだけど、なんか、怖い!!
本当の恵那はなんていうか、ツンデレのデレの確率がめっちゃ低いバージョンだ。それなのになぜ愛してるなんで言ってくるのだろうか。
「えっと、恵那…?だよな」
「そうに決まってるじゃん、まなとくんおかえり〜」
バンッ!!と言葉を聞いた瞬間扉を閉める。なんだよ…あれ……可愛すぎだろ!!夫婦になった気分だ、今すぐにでも告白してぇ、好きって叫びてぇ。
一旦深呼吸し、一息つく。そしてもう一度扉を開ける。
「おい恵那急にどうしたんだよ?」
「なんもないよ〜」
「友達になんか言われたか?」
「……ナンモナイデス」
図星のようだ、何を吹き込まれたんだろうか。
「まぁ、とりあえず今日は帰れ、もう遅いし」
「わかったよ〜まなとくんばいばいっ!」
扉を通り抜けようとしたその時。ポケットの中になにか重みのあるものが入った。なんだ?と恵那が見えなくなったことを確認し、取り出す。
「こ、これは……」
それは小さなリモコンのような形をしている多分盗聴器らしきものだった。おい、これは流石に犯罪になるぞ……でもそれだけ俺のことが好きってことなんだな。
俺はそっと自分のポケットへと戻した。
♢♢♢
「さあ!体育祭当日になりました!最初の種目はリレーです!」
そのアナウンスが聞こえると同時に、わー!!とみんなの大声がグラウンド中に駆け巡った。
今は真夏、セミがみんみんと泣きわめく中、この学校全員半袖短パンに帽子という、小学生のような格好をしていた。俺はまさかのじゃんけんに負けて準備係をやっているため、屋根の下でみんなを見届けている。すると一人の男がこちらに話しかけてきた。
「ようまなと」
「隼人たちは来るなもっと熱くなる」
「うわひどいなーそう思うよね美咲ちゃん?」
「そうだね!ひどいよまなとくん!」
横からにょっと女の子が飛び出てきた。こんな真夏の中熱々の夫婦トークを披露してる典型的なバカップルのこいつらは俺の友達の矢駅隼人と菊池美咲だ。クラスのあだ名もただのバカップル、中高すべて同じクラスという強運の持ち主だ。
「あっちいけ準備があるんだよ」
「「はーい」」
帰ろうとする二人を見ながらあることを思い出す。
「美咲だけ待て」
「え?うち?」
「え?まなともしかして…」
「黙れ、聞きたいことがあるんだよ」
そう言うと渋々隼人だけ帰っていった。
「それでどうしたの?」
「お前もしかして恵那になんか言ったか?」
そうきくとギクリと肩を震わせた。
「おいなに吹き込んだ」
「吹き込んだって、人聞きの悪い!ちょっと闇のものを勧めただけだよ」
「その言い方だと逮捕されるぞ、盗聴器は誰のだ?」
「盗聴器…?それは知らないかな」
「はぁ、とりあえずお前が犯人だな?」
「他にもいるもん」
「まぁいい、そろそろ種目が始まるから戻れ」
「はーい」
全く、でも他にもいるんだよな。一体誰なんだ?
「リレーが始まろうとしています!」
パンッ!とリレーの始まりを知らせる音がした瞬間隼人が先頭を突っ走る。元々隼人はサッカーをやっていたため、とても早い。
リレーを見ていると頬の横に何かが近づいてくる。それに気づいたときにはもう遅かった。
ぴとっ
「うぉ!」
頬に冷たい物が当たった。振り返るとさっき話題に出ていた、恵那がいた。
「ふふっ、まなとくんかわい」
そう脳内に置き換わる。だが現実は冷たかった。
「まなとく〜ん、私特性のプロテインだよ〜飲んでね〜?」
「お、おう」
なんというか、圧がすごい。眼力が半端ない。でもめっちゃ可愛い。
「私優しいよね?」
「ああ、そうだな」
「ふふふ、ありがとう」
可愛いな、さっきのお返しにこいつにもやるか。悪巧みをし、恵那の頬へプロテインを当てる。
「ひゃっ!?」
ビクッと勢いよく飛び上がる。そしてむぅと頬を膨らませる様子を見て、前のツンデレ時の恵那に戻ったように感じた。だがそれに気づいたのか、冷たい表情へと戻る。
「まなとくんはもっと優しいよ?いつものまなとくんに戻ろうね?」
「は、はい」
なんか本当に圧がすごいな、なんていうか迫力がある。
「じゃあまなとくん頑張ってね?確か最後の借り物競争だよね?」
「ああ、そうだな」
そう言うと恵那が戻っていく。軽く手を振り、リレーを見ようと戻ると、もうすでに終わっていた。
喉乾いたな、そう思いさっきもらったプロテインを開ける。すると中には何故か髪が入っていた。3本だけ、ここまで来ると本格的に恐怖を感じてしまう。そっとプロテインを閉じ、応援に徹した。
「さぁ!最後は借り物競争です!」
視界がそう言う。はぁめんどくさい、緊張しすぎて足が震えるじゃねえかよ。足元に目を移すと小刻みに震えているのが見える。
「さあ皆さん良いですか?よーいどん!」
タッタッタッと指示が書いている紙へと移動する。足は元々平均以上よりは早かったので、早く紙を取ることに成功した。
「えっと、指示は。」
”好きな人”
よし好きな人だな。
……え?
紙を二度見、三度見と何回もしてしまう。信じられない指示に目を疑うのも仕方がないだろう。
みんなが走っている中、俺は体が勝手に恵那を探していた。そしてクラスの集団の中にいる恵那を見つけ、本気で走る。
「恵那、来てくれ」
「え、ええ!?」
恵那の手を取り強引に引っ張っていく。恵那は戸惑いながらも着いてきてくれた、クラスの人達はヒューヒューと茶化してきている。
「ちょっと、どうしたの?私のこと好きになった?」
「……」
「お題ってなんだったの〜?」
「……まだ言えない」
少し小さな声でそう言うと恵那は少し不思議そうな顔をした。好きな人なんて言えるわけ無いだろ。
周りを見ると親を連れてきたり、水筒を持ってきたりと、俺以外は普通のお代なのだろうと少しお題を考えた人を恨んだ。だがもう手遅れなので、一生懸命ゴールまで走ることを心に決めた。
「「はぁ、はぁ」」
ふと横に目を向けると同じように走っているカップルらしき人達がいた。多分この人達と優勝争いをするんだろうな。そう思うと負けられない気がして、少しペースを上げた。
「ちょ、早くない?」
「すまん、ペース上げられるか?」
「まぁ、全然いいけど?」
いつの間にか恵那はヤンデレからツンデレに戻っているようだった、だがそんな事を気にする間もなく、ペースを上げ、どんどんと離していった。
「よし、勝てる」
ゴールまで残り二十五メートルといったところだろうか。最後まで気を抜かず、走り切ろうとしたその時。
ズテンッと何かが倒れた音がした。すぐに音がした方に目を向ける。
「恵那大丈夫か!?」
「うぅ、まなとくん〜痛いよぉ」
まずいな膝から血が出てる、このままだと勝てない。隣を見ると、心配そうな顔をしながら追い抜いていくカップルが見えた。
「恵那、ちょっと我慢してろ」
「うえ!?ちょ、なにしてんの!」
俺は恵那をお姫様抱っこをしながら走り始めた。するとグラウンド中が歓声に包まれた、さすがにこれは恥ずかしいが、勝つためにはしょうがない。
「まなとくんってたまに変なことするよね……」
「そんなことないだろ」
ラストスパートに差し掛かる中、さっき追い抜いたカップルと並んだ。
「ふふふ、流石に抜かれませんよ?」
「……」
カップルの言葉をフル無視し、さっそうと駆け抜けていく、だがカップルもそれに追いついてきた、本当に邪魔なやつらだ。
ラスト十m、カップルと再び並び本気で走る。
勝てる。勝てる。自分にそう言い聞かせ、本気で足で地面を蹴る。夏の暑さを忘れるくらいに夢中に駆け抜ける。
「ゴール!!」
司会の人がマイクで声を響かせた。一位でゴールしたことに達成感を覚え喜ぶんでいると、グラウンド中が拍手に包まれた。
「君、足早かったね」
「あ、ありがと…」
さっきまで争っていたカップルの彼氏が優しく微笑みながら言ってきた。
「さて!優勝者のお題を確認します!」
ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い、公開処刑ってこんな気持ちなんだなと謎の心境になった。司会者がお題の紙を見ると、びっくりしたような顔をした後に、にま〜と不気味な笑みを浮かべてきた。
「これって、本当なんですよね?」
「はい…」
「えっと、確認が終わりました!」
心臓の鼓動が鳴り止まない、振られるか、成功するか。恵那の方を見るとお題の内容にワクワクしているような表情を浮かべている。
「まなとさんのお題は!好きな人です!!」
一瞬シーンと声が収まる、最悪だな。そう思っていると一気に歓声に包まれる。周りからは告白を促される声が多数あった。
恵那の方を見ると顔を真っ赤にしながらうつむいている。恥ずかしさで心臓が潰れそうになりながらも覚悟を決める。
「恵那好きだ、付き合ってくれ」
「もう、遅いよばかずっと前から好きだったんだから」
そっと小さな声で恵那が言うと、頬にキスをしながら飛びついてきた。その瞬間世界に二人だけしかいないような、そんな感覚に陥った。そして僕は気絶した。
♢♢♢
目を開けると白い天井があった。異世界転生でもしたのか?と不思議に思い、「知らない天井……」と小さな声でベタなセリフを吐き捨てる。それがなんともおかしくて思わず笑ってしまった。
ふと隣を見ると椅子に座ったまま引きつった顔をしている美少女がいた。
「え、恵那!?なんでここに……」
「ああ、おはよう急に一人で呟いて笑ってたから悪魔に取り憑かれたのかと思っちゃった」
カーッと顔が赤くなっていくのを感じる、なんであんな変なことで笑ったんだろうか。
「そういえばなんで俺ここにいるの?」
「え?覚えてないの?」
はて、なんのことだろうか、大事なことを忘れている気がするが何かが全くわからない。俺が思い出そうとしていると、恵那が何故か顔を赤く染めていた。
「どうした?」
「ほんとに覚えてないの?ち、ちゅーのことも……」
「ちゅー?え、あ…」
うわああああ。なんで忘れてたんだよ、アホすぎるだろ。じわじわと恵那も俺も顔が赤く染まり、沈黙が続く。
「おっす」
バッと隼人が飛び出してきた、沈黙を破ってきてくれて本当にありがたい。
「よう隼人」
「やっほー隼人」
軽く隼人に挨拶をする。
「えっと邪魔だったか?」
「「邪魔じゃない!!」」
「そ、そうか」
照れ隠しで少し声を大きくして言う。
実は少し気になっていたことがあるので、隼人に問いかける。
「なぁ恵那になんか吹き込んだのってお前か?」
そう問いかけると、一瞬体が硬直する。なんで俺の周りの人は嘘をつくのが下手なんだろうか。
「やっぱりお前か」
「違うんだ、違くはないが話を聞いてくれ」
隼人が言うには、前から恵那に俺が好きにならないことを相談していたらしい、そこで美咲にヤンデレのことを教わったらしい。そこで恵那はヤンデレに目覚めた、そして隼人が盗聴器や髪のことを冗談交じりで教えたらしい、それを実践するとは思ってもいなかっただろうが恵那はそれを真に受けてしまったんだろう。
その話を一通り聞いていると、恵那がどんどん赤くなっていくのが見えた、可哀想に。
「そういうことか、わかったよ恵那もこいつの話を真に受けるなよ」
「はい…」
一通り話が終わったので一息つく。
「そういえばずっとここにいてもいいのか?」
「まぁ放課後だし」
「え!?もうそんな時間かよ」
「そりゃあな、明日学校来たら多分すごいことになるぞ」
「もう目に見えてるよ…」
クラスのみんなに囲まれる未来は簡単に想像できた、明日からは大変になるだろうな。
「てか本当にお前ら付き合うの?」
「「当たり前じゃん」」
「もう夫婦みたいだな」
総冗談っぽく言われ、少し照れ臭くなる。そういえばヤンデレは収まったのだろうか、また髪など入れられては困る、3本だけしか入れないけど。
「お前らもう一回告白しろよ、ちゃんとした形で」
「そ、そうだな」
そう言うと隼人は保健室から出ていき、ごゆっくりといたずらっぽく言ってきた。保健室の中はシーンとしていて、室内でも夏の暑さをしみじみと感じた。
「えっと、恵那、好きだ付き合ってくれ」
「も、もちろん」
「「……」」
少しの間沈黙が続く、やはりまだ照れくささが抜けない。恵那を見るとぽーっと顔が火照っている、多分俺も顔が赤いのだろう。
「まなと…」
「は、はい」
「ちゅーしよっか」
「え?あ、いいの?」
突然の思ってもいなかった言葉に思わず耳を疑ってしまう。
「いいに決まってるでしょ…だって付き合ってるんだし」
「そ、そうだな」
心の中が幸せな気持ちであふれる。世界に二人だけの感覚を思い出す。このまま時が止まればいいのにな、と夢のようなことを思ってしまうほどだ。
そっと恵那の顔に近づくと、恵那はゆっくりとまぶたを閉じ、顔を近づけてきた。ためらいながらも恵那の唇にそっとキスをした。一回目のキスよりももっと長く、本当に時が止まっているような感覚が頭に刻まれた。
そして数十秒キスをし、そっと顔を遠ざける。
「これからもよろしくね」
「う、うん」
「でもヤンデレにはならないでね」
「かまってくれなきゃなっちゃうかもよ?」
いたずら顔でそう言うと、ぎゅっとハグをしてくれた。
ヤンデレでも、ツンデレでもやっぱり恵那が好きだな。
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片想い中のツンデレ幼馴染がツンデレ通り越してヤンデレになった件 水野青空 @riiflos
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