男子高校生、UFOを呼ぶ。

野原想

男子高校生、UFOを呼ぶ。

「雨の日ってさ、UFO呼びやすくなるらしいよ」

「まじ?何情報?」

課題を提出せずにテストも赤点な男子高校生二人の会話の始まりは大体こんなもの。居残り学習とは名ばかりで、ただノートに少しの落書きをしたところで一仕事終えた感だけ出しながら高貴な会話を嗜む。

「テレビ、いやラジオだったかな?隣のおばさん?斜向かいの家の権左衛門だったけ?」

「誰だよ権左衛門」

「犬、いや猫、あれ、トカゲだったっけ?」

「そんなことある?」

所謂梅雨という時期、教室の窓の外は白く見えるほど水が下へ下へと落ちていく。

雨音さえもBGMにした貴族のような会話に適切な間は必須だが、今日ばかりはそれを間とも捉えさせない雨が騒いでいた。

「とにかく帰りやってみようぜ」

「この雨の中?何を?」

「だからUFO、あれ、頭が尻尾のうさぎだっけ?」

「それやめて?あとそんなもん絶対呼ぶなよ」

男子高校生の放課後の会話に端から期待も何もあったもんじゃない。

あるのはほんの少しのUFOへの興味と暇つぶしの念だけ。


「よし、やるか」

多少雨を避けられる大きな木の下に胡坐をかいて座る男子高校生が二人。ペッタンコな鞄が尻の下に敷かれている。居残り学習なるのを自己判断で離脱したことに関しては説明するまでもないと思うので省こう。

「てか呼び方知ってるの?」

「知らん」

「え?急に暇になったじゃん」

ザー、と雨粒と地面のぶつかる音だけが聞こえる。

「でも、雨の日は軌道が増えるとかなんとか言ってた気がする」

思い出した様子なわけでもなくただぼんやりとそう話す。

「斜向かいの権左衛門が?」

「呼び出し信号が雨粒の落下線を伝って行く的な?そういうことか?だろうな」

「無視やめて?あと俺がいる時の自己完結も控えて?」

「へぇ〜」

「相槌のタイミングじゃ無くない?」

高貴な間である。

「…よし、やるか」

「一コマめに戻ってるんだけど」

「そもそも専用の呼び出し呪文コール暗号みたいのがあんのかな?」

「後半一つに絞るのめんどくさくなっただろ、どれでもいいんだよ」

二人とも、鞄の中のスマートフォンや学校に無許可で持ってきているゲーム機などに触れることもなくこの話題で話を続けていることを褒めるべきなのだろうか。

「なんかもっと適当な感じにしてほしいよな」

「たとえば?」

「グループLINEで声かけたら2FOくらいは暇、みたいな」

「LINE交換してグループ作るのが手間なんだろ、てか2FOて」

「それはUFO側から誰かが幹事やってくれれば良くね?」

「なんの打ち上げの話してんの?」

外野が『漫才コンビを組んだらいいのでは?』と言いたくなるような息の合い方。

このままいけばボケとツッコミの役割で悩む手間も省ける二人だ。

「でもあれだよな、雨の日は呼びやすいなら梅雨は雨と同じくらいUFO降って来てないとおかしくね?」

「おかしくはないんじゃない?てかそれ墜落してるよな?修理費かかるじゃん」

「そもそも日本円は使えなくない?」

「賢いな」

「だろ」

二人ともボケになってしまった場合はどうするのだろうか。

「ソノバアイハ、ワレワレガ、ツッコミヲ、」

「え」

「は、まじ?」

まだ呼んでもいない宇宙人が、すでにUFOから降りて話しかけてくる展開など、誰が想像できただろうか。あと作者の状況説明文に返事してきてて怖い。

「ツッコミやってくれんのかよ〜助かるわ〜」

「そっち!?いや、この場合そもそも半角カタコトのこいつの話の内容に返事をするという選択肢は通常の人間の脳みそにはないからこのツッコミもおかしい気はするけどな!?」

彼は頭の回転が早い様なので実は勉強できそうだな、とか思い始めている。

「細かいこと気にすんなって、もう喋りすぎて何言ってっかわかんねぇよ」

「ワカンネェヨ」

「何一つ細かくねぇから!」

「ネェカラ」

「急にツッコミのキレ増したな」

「マシタナ」

「それやめろよ!」

この二人と、宇宙人である可能性が極めて高い半角カタカナのこいつが漫才トリオを結成する未来は果たしてやってくるのか。梅雨の可能性は無限大。


「アメイッパイ、グループライン、ショウシュウ、ミタイナモン」

「まじで?」

「ウソ」

「はい、かいさーん!」

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男子高校生、UFOを呼ぶ。 野原想 @soragatogitai

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