青木春馬のダンジョン探索記

mazin

プロローグ 始まった夢


 これは、俺、青木春あおきはるま馬が小学3年生の時に起きた出来事だ。

 

  俺と仲のいい友達3人でいつものように探検やら、ふざけたことなど、しょうもないことばっかりやっていた。その一環で近くに見つけた洞窟に行こうと仲間の誰かが言った。俺たちは洞窟探検という、響きにワクワクが止まらず、次の日の放課後には軽い気持ちで洞窟に向かっていた。

  俺達が洞窟だと思っていた所は、実は『ダンジョン』と呼ばれる物だった。そう、この世界にはダンジョンと呼ばれる不思議な存在がある。そしてそれを探索し、生計をたたている人達を探索者と呼ぶ。だが、当然危険もある。その時は小さいこともあってか、ダンジョンという存在は知ってはいたが、テレビなどで見るだけで、危険など到底ないと思っていた。それもそのはずで、今も昔も変わらずテレビや雑誌でやっているダンジョン特集などは実力を持った探索者達が、安全なクラスのダンジョンに潜り、格下の敵をバッタバッタと薙ぎ倒すだけの紛い物だ。

  だが、それを真に受けていた俺達は出会ってしまった、ダンジョンに巣食う魔物、所謂『モンスター』と言うやつに。

  ファンタジー小説やゲームなどではスライムは、チュートリアルもいい所だが、この世界は現実で、最初から強い訳でもない少年が4人でかかっても倒せる相手では無いのだ、モンスターという生き物は。それが例え最弱のスライムだとしても。

  俺達は最初舐めていた、それ故に全員が死にかけた。1人は足が折られ、1人は頭にダメージを受け気絶、1番酷かったのは窒息死しかけたやつまでいた。そんな中俺は列の最後にいて、ダメージも受けていない状態でスライムと対峙した。勝てるわけが無い、なにせ同年代の男子3人を瞬殺したのだ。特に鍛えてる訳でもない、同じような少年が立ち向かったところで返り討ちに会い最悪死ぬだけ。

  そんな俺に残された方法は逃げるか、叫ぶかのどちらかだった。逃げれば友達は死ぬだろう。それを小さいながら予感できていた俺は、恐怖に竦む体を全力で奮い立たせ力の限り叫んだ。

 

  「誰かっ!誰か!僕たちを助けてください!!」

 

  何度も、何度も、喉が裂けようとも叫んだ、途中から血の味がしたがそんなことは気にしていられない。

  そんな行為をしてどれくらいの時間が経ったかは分からない、血の味がしたことだけは覚えているが、実際はそれより前に助けが来ていたかもしれない。ふと肩に手が置かれ、俺は叫ぶのを止めた。暖かかった、人の手だ……と思い顔を上げると、そこには高校生くらいの男女4人組がいて、それぞれ、俺の友達を担いだり、起こしたり、手当てをしたりしていた。

  そこで俺はようやく気づいた、助かったのだと。だが喋れずにいた、どれだけ叫んだのか、喋ろうとしても空気しか出てこなかった。そんな無意味に空気を出し入れする行為をしていると、リーダー格らしき男が話しかけてきた。

 

「おい、大丈夫か?怪我とかしてないか?」

 

  そいつは、小さい子と話すがの苦手だったのだろう、緊張しながらも、安否を確認してきた。

  俺は大丈夫という意味を伝えるためコクコクと頷いた。そうしているともう1人男がやってきて、今度は強い口調で俺に聞いた。

 

「なんでガキがこんな危ない所にいる?お前らは今死にかけたんだぞ?」

 

「…………」

 

  俺は未だに空気しか出すことができずにいた、するとまた1人、次は女の人がこちらに来た。

 

「怖がらせちゃってごめんね?でも、君達が危ない所にいたのは本当なんだよ、私達も偶然、君の叫び声が聞こえたから助けられたんだ」

 

  女の人は優しい口調で続けた。

 

「友達の手当てとかはもう大丈夫だから、事情を話してくれない?」

 

  喉を指さして、また空気を出し、喋れないことを伝えようした。すると最後の1人もこちらにやって来て、飲み物をくれた。ポーションというものだった。

 

「そいつはポーションってやつよ、喉壊れてるんでしょ、それくらいなら初級の物で治るから飲んで事情聞かせなさい」

 

  強い口調の人だったが、怖くはなかった。優しい声をしていたからだ、多分子供好きなんだろう。そして俺は、初級のポーションを飲んだ。すると傷が塞がっていくのが自分でもわかった。

 

「ぁ、あ、あの、すみませんでした」

 

 最初に出た言葉は謝罪だった。

 

「違ぇよガキ、こういう時はな、ありがとうございますって言うんだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「おう、それでいいんだ」

 

  強い口調で話しかけてきた男は意外にも優しかった、正直脳筋のヤベぇやつだと思っていた。

 

「それで、君達はなんでこんな所にいたのか、教えて貰ってもいいかな?」

 

  リーダーの男が聞いてきたので、俺もこれまでの行動を全て言った。動機とか蛇足になる事も言った、それでもずっと聞いてくれていた。

 

「そうか……普通の洞窟だと思って、スライムが出てきたと、そして舐めてかかって返り討ち、そんなとこか」

 

「はい、僕達は正直テレビとかでやってるのをみてダンジョンなんて、スライムなんて弱いものだと思ってました、その結果がコレです」

 

「あのな、あれは強い人達が弱いモンスターを倒して、見てる人を楽しませんエンターテインメントなんだ、真に受けちゃいけない」

 

 リーダーの男が続ける。

 

「俺達も最初はそう思って死にかけた、だからお前たちの気持ちもよく分かる」

 

  最後に〆るような雰囲気を出して

 

「ちゃんと、ダンジョンに行くなら中学生を卒業して、親に許可を貰ってから、だぞ」

 

「あんた、いいこと言おうとしたんだろうけど、全然言えてないからね」

 

「いいだろ!!ちっちゃい子の前でくらいカッコつけさせろ!!」

 

「お前にゃ早いよ」

 

 そう言って彼らは笑っていた。

 

「あの!」

 

「どうした?」

 

「お、お礼をしたいので、お名前を聞いてもいいですかっ?」

 

『ハハハハッ!』

 

「お前、ママに言われたことそのままやってるだろ?」

 

  強気そうな男に行動を見透かされていた。

 

「えっと、はい」

 

「いいんだよ、子供は守られるもんだ、そして、俺たち大人はそういう奴らを守るんだ。だから、どうしても気に病むってんなら、俺らの名前を学校で広めてくれ!『IVStarS』《フォースターズ》は俺達のヒーローだ、ってな!」

 

  俺達はそこから、その4人に家まで送ってもらい、別れを告げた。案の定親には怒られたが、俺はそんなこと微塵も気にしていなかった。もう俺の目、いや俺達の目にはあのヒーローを追いかけるべくキラキラとした夢が輝いていたからだ。

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