第46話、屋上の戦い2
プフ・ケケンがドアを開けると、男が腹ばいになって寝ころんでいた。もちろん狙撃銃を持っている。とりあえず、いきなり殺されることはなさそうだ。プフ・ケケンは少し安堵した。
どうやって攻めるか。狙撃手との距離はおよそ五メートル、この距離なら、走って即席突撃棒を打ち込めば何とかなる距離だ。その前に狙撃銃に撃たれる可能性があるが、それはそれで良い。狙撃銃を持っている相手に相打ちなら上等だ。問題は他の武器だ。拳銃を持っていた場合、狙撃手に近づく前に撃ち殺される可能性が高い。一発ぐらい当たっても当たり所がよければ、すぐには死なないが、二発三発と当たれば、動けなくなる可能性が格段に上がる。銃の弾をよけるなんて芸当は、自分にはできない。
どうしようかな。そういやこいつ、さっきからあんまり動いてないよな、こっちのこと気づいてるはずだよな。まさか気づいてないはず無いよな。腹ばいに背を向けているが、全身の筋肉がこちらに向かっている。気づいているならなぜ攻撃してこない。迷っているのだろうか、それとも拳銃を持っていないのか。だとしたら何とかなるかも知れない。狙撃銃を撃たせれば、銃声に回りの人間が気がつくかも知れない、一石二鳥だ。そう考え、プフ・ケケンは狙撃手の男に声をかけることにした。
「武器、持ってるんだろ」
開戦の合図だ。
城守は、投げ矢を二本つかみ、後ろを振り向き投げた。「おっ」プフ・ケケンは、一本をのけぞり、避け、もう一本は即席突撃棒で払った。これって、ただの投げ矢じゃないよな。城守はすでに立ち上がっている。右手に片刃のナイフ、左手に投げ矢を二本持っている。
棒、先端を尖らせ槍にしているのか。そいつでさっきの投げ矢を防いだ。何者だ。城守は二投目を投じた。まずは一本、真っ直ぐプフ・ケケンの頭を狙い、少し遅れてもう一本足下を狙う。
プフ・ケケンは体をひねるようにして、両方よけた。毒物が塗っているとしたら、当たった瞬間、突撃するしか選択肢はないな。プフ・ケケンはそう結論づけた。
強い。この距離でよけられるのか。プフ・ケケンの強さを認識した城守は、殺害方法を変えることにした。湾曲した片刃のナイフを口にくわえ、投げナイフで牽制しながら、胸ポケットを探り、ケースを取り出した。中には致死性の毒が塗ってある投げナイフが三本入っている。ケースのスイッチを押すと、ナイフの柄が三本出てきた。
あっ、あれまずい。城守が出した新しい武器に、プフ・ケケンは強い危機感を感じた。さっきのやつより強力な毒が塗ってあるに違いない。距離をとるのも選択肢の一つだ。ある程度距離があれば、投げてくる武器を、すべて打ち落とす自信がプフ・ケケンにはある。屋上の入り口のドアを盾にする方法もある。狙撃を防ぐことができればいい。なにも倒す必要はない。どうしようか。
逃げられては困る。屋上に狙撃犯がいるなどと騒がれると、暗殺はまず無理だ。城守は焦った。致死性の投げナイフは三本。この男相手に、この距離で、当てる自信はない。拳銃を出すか。いや、拳銃を出せば、この男は必ず逃げる。逃げた男をすぐ始末できなければ、狙撃は無理だ。多少の犠牲を払っても、近づかなければならない。城守は湾曲したナイフを口にくわえたまま、右手に致死性の毒が塗ってある投げナイフ、左手にしびれ薬入りの投げ矢を二本持った。
城守がナイフを口にくわえ、両手に飛び道具を持っているのを見て、おっ、やる気満々じゃん。背を見せたら、逆に恐いね。拳銃も持っていないのかも知れない。そういうことなら、受けて立つぜ。プフ・ケケンはそう考えなおした。
二人は同時に飛び出した。
城守は、左手の二本のしびれ薬が塗られた投げ矢をプフ・ケケン向かって投げた。二本とも胴体を狙った。左胸と右腹、プフ・ケケンは、両方とも即席突撃棒の先端を軽く動かし、はじき飛ばす。距離が縮まる。プフ・ケケンは城守めがけ、即席突撃棒を突き出す。城守は口にくわえたナイフを左手に持ちかえ、それを迎え撃つ。城守は右手に持った致死性の毒が塗られた投げナイフをプフ・ケケンめがけ投げようとする。プフ・ケケンは、察し、城守の右手めがけ、即席突撃棒をたたき込む。城守、手首を丸めそれを避ける。
城守は防戦しながら、即席突撃棒をナイフで削るように、防いだ。即席突撃棒の耐久力は徐々に落ちていく。
もし本物の突撃棒なら、ナイフごと打ち殺している。プフ・ケケンは歯がみした。白兵戦の実力なら、プフ・ケケンの方が圧倒的に上だ。だが、武器の性能が違う。ただモップを削っただけの棒では、殺傷能力が足りない。のどに突き刺すか、頭を強打するか、プフ・ケケンにはその二つしか選択肢はない。
城守はナイフで応戦しながら即席突撃棒を素手でつかむタイミングを計っていた。プフ・ケケンの突きは鋭い。油断をすると投げナイフを持っている右手を狙ってくる。城守は少し構えを変えた。致死性の毒が塗ってある投げナイフには一つ仕掛けがある。刃の根本にバネが仕掛けられており、バネの引き金を引いて放すと致死性の毒のついた刃先が、三メートルほど飛ぶ仕組みになっている。
城守が投げナイフを投げようと構えると、プフ・ケケンはそれめがけ、即席突撃棒をたたき込む。それを予期していた城守は、右手を後ろに下げ、即席突撃棒が空振りした瞬間、ナイフの仕掛けを作動させた。
右の脇腹に寒気を感じた。プフ・ケケンはわけもわからず、即席突撃棒を横に払い脇腹を守った。乾いた音とともに何かがはじけ飛ぶ。投げナイフ? いつ? いや、それの刃先だけだ。
避けた! 反射神経か勘なのか。くそ! 城守はバランスを崩しているプフ・ケケンに近づき、跳ね上げるように蹴りを放つ。蹴りは即席突撃棒に当たり、即席突撃棒はプフ・ケケンの手から離れて、転がり飛んだ。
しまった。武器が。プフ・ケケンはあわてて、ベルトに挟んでいた果物ナイフを出した。至近距離、こんな小さな刃でどうやって防ぐ。まずいまずいぞ!
城守は前傾姿勢で両手を背に隠した。
防げない。一本ならまだしも、投げナイフ二本、湾曲したナイフもある。それが両手、背に隠してあるため、どちらから来るのかもわからない。こんな小さな小刀一つでどうやって防ぐ。プフ・ケケンは体をひねった。
城守は両手同時にナイフを投げた。左手は湾曲したナイフを投げ、右手は、毒を塗った投げナイフを一本投げた。
プフ・ケケンは体をひねり尻ポケットに入った新聞紙を手に取り、何もない空間に叩き付けた。湾曲したナイフは新聞紙を突き抜け、プフ・ケケンの右腕をえぐった。投げナイフは、新聞に絡まり落ちた。
バカな! 城守は焦り残った一本だけ残った致死性の投げナイフをプフ・ケケンめがけ投げた。消えた。新聞紙の残骸を残し、城守の目からプフ・ケケンは消えた。影が迫る。プフ・ケケンは跳躍していた。高い。城守の頭の上まで飛び上がる。右手には小刀がある。防ぐ? 城守の手に武器はもうない。
プフ・ケケンは城守めがけ叩きこんだ。
城守はぐらりと揺れる。城守の頭部にプフ・ケケンの握り拳がたたき込まれていた。
寸断される意識の中、なぜ殺さない。城守は目で問うた。
「あんた、今、手に武器を持ってないだろ」
プフ・ケケンは答えた。
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