第23話、刑事、検事、記者

 刑事


 この国の教育は、小等教育が五年、中等教育が五年、高等教育が三年、大等教育が三年ある。ほとんどの子供は、五年間の小等教育しか受けていない。それすら受けていない子供も大勢いる。亡くなったメイドのカカ・ミは、中等教育まで受けていた。小等までは、それほど多くの学費がかからない。だが、中等以上になると、この国の漁師が負担できる額ではない。メイドのカカ・ミは、特優生だった。特優生制度は、成績優秀者が授業料免除が受けられる制度だ。それを使い、中等学校に入った。カカ・ミは中等学校においても、つねにトップクラスの成績を収めていた。当時担任だった教師に聞いたが、学力も十分あり、特優生制度を使い、高等、大等までいけた可能性があったかも知れないそうだ。父親が病に倒れ、進学は断念したそうだ。

 カカ・ミの中学生時代の同級生から話を聞くことができた。その中の一人が、カカ・ミが学校が終わった放課後、走って港に行っていた事を聞き出した。漁師の父や兄に会いに行っていたのではなく、外国船がくる貿易港に行っていたそうだ。カカ・ミの同級生の父親が、その港で働いていたらしく、何度か、カカ・ミを港で目撃したそうだ。カカ・ミは港で働いている若い男と楽しそうに話をしていたそうだ。


 コソ・ヒグは、港でカカ・ミとあっていた男を捜すことにした。港の管理事務所に頼み男の履歴書を見せてもらった。名前はドン・ミニ、港の荷持ちとして、十年ほど前に二年ほど働いていたそうだ。十年前というと、カカ・ミが港に来ていた時期と一致する。ドン・ミニはキキソ村出身、小等学校卒業後河川運搬局で働き、その後港の荷持ちになった。十年前、ドン・ミニと一緒に働いていた人間を紹介してもらい。何人か話を聞いた。まじめで、仕事熱心で仕事上のトラブルもなく、評判もよかった。カカ・ミにかんしては、仕事の休憩中にあっているところを何度か目撃されており、そのことを冷やかされたドン・ミニは、妹みたいなもんだよと、軽く否定したそうだ。やめた理由に関しては、書類的には一身上の都合とかかれており、仲間内では、友人の仕事を手伝うと言っていたようだ。その後の足取りはつかめていない。


 検事


 城の執事テケン・ホ・メリ・ホにつれられ、検事のニコテ・パパコは、城の中を、自殺したパン見習い職人が自殺した部屋や、包丁がおいてあった部屋、その職場、メイド、城の警備員など、様々な人や場所に案内された。

 ニコ・テ・パパコの頭には、すでに一枚の絵が見えていた。カカ・ミを殺したのは、自殺したパン職人だ。痴情のもつれか何かはわからないが、パン職人、フウ・グは、カカ・ミを殺した。それから、何らかの理由で、バラバラにした。この辺は全く理解できない。過去のバラバラ事件のことを考えると、運搬上の理由でバラバラにすることが多い。とにかく、バラバラにして、カカ・ミの兄の元へ、死体を運び。鶏肉を落として、殺されたと、適当な理由を言い、王の所為にした。当然パン職人に死亡給付金を出せるわけがない。

 王の所為にすれば、誰も文句は言えまい。このパン職人はそう考えた。ところがだ。意に反して、カカ・カは訴えた。そこで、もはやごまかせないと、考えたパン職人は、城の一室で自殺した。

 この絵はなかなかよく描けている。もちろん、これが事実とは限らない。いや、むしろ、これが事実とは、ニコ・テ・パパコは思っていない。作為すら感じている。だが、事実でなくても、ニコ・テ・パパコにとっては、どうでも良いことだ。この裁判で、王に勝つことはできない。訴訟人を納得させ、王に勝たず、王に認められ、国民にたたえられる。そのためには、落としどころがあればいい。すべての責任を押しつけられる人物、死人は理想的なスケープゴート、新たな真実、それを私が見つけるのだ。後は刑事が証言をして、第一検事局長と口裏を合わせればいい。その時に、いろいろと話し合えば良い。それですべて解決だ。

 ニコ・テ・パパコは、ほほえみを浮かべた。その様子を執事のテケン・ホ・メリ・ホは不思議そうに見つめた。


 記者

 

「なにやら、外国の会社の人を招いての食事会があったらしいですよ」 

 印刷所のツム・ホレンが言った。あれから新聞記者のヨン・ピキナはツム・ホレンとケリキ・サリルと何度か一緒に食事をし、裁判の話と城の細々とした情報を話し合っていた。

「それで、本当にあった話なんですかね」

 ヨン・ピキナは言った。例の鶏肉を落とした件である。

「ええ、それはあったみたいですよ。メイドの一人が客の前で皿の上の鶏肉を落としたって」

 ケリキ・サリルが少し色の濃いビールを飲み、揚げた皮付きのジャガイモをほおばった。

「そのメイドが、カカ・ミさんですか。でも、それで殺されるなんて、おかしいですよね」

「そりゃもう、おかしいですよ。でも、起こってしまったんですよ」

 ツム・ホレンは少し顔を背けた。酒の所為か顔が少し赤らんでいた。

「鶏肉を落としてお手討ちって、ねぇ。客の前だからといって、いくら何でも無いでしょう。その外国人ってどういう人だったんですか」

「機械関係の人だったみたいですよ。なにかの部品の会社の人らしいです」

「工場の誘致でもしていたんですかね。しかし、なぜ、お二人はそんなことを知っているんです」

 ヨン・ピキナは疑問に思った。

「まぁ、いろいろ城の方とは取引があるわけでしてね」

「そうそう、知り合いの知り合いとかね」

「そうですか」

 少し疑問を感じたが、この貴重な情報源を失うわけにはいかないので、その辺については深く聞かないことにした。

「肉切り包丁の件なんですが、パン職人の部屋から出たらしいですね」

 ヨン・ピキナは言った。

「それがまた不思議な話で、その部屋の主のパン職人が自殺しちゃったんですって、知ってました」

「そうらしいですね」

 ま、どうぞどうぞと、ケリキ・サリルはヨン・ピキナのグラスに酒を注いだ。三人は酒を飲みながら遅くまで話し込んだ。

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