第20話、刑事、部長に相談

「部長、城の方から何らかの圧力はかかっていませんか?」

 コソ・ヒグは署に帰って、部長に相談した。

「いや、何かあったのか?」

 コソ・ヒグは部長に、今までの捜査でわかったことを包み隠さず報告した。人使いはさておき、コソ・ヒグは部長のことを信頼している。

「情報機関か、ずいぶんやっかいな事件になってしまったな」

「ええ、正直、頭の整理が追いつきません」

「城の情報機関のことなら、私も聞いたことがある。去年の暮れだったかな、ブゾンの浜に、銀行員が水死体で打ち上げられたのを覚えているか?」

「ええ、うちの管轄じゃないですけど、事故だったと聞きました」

「うん、そうだ。これは噂なんだが、その銀行員、王の金に手を付けていたという噂がある」

「まさか、事故に見せかけ殺したと?」

「ああ、城守だっけ、城の情報機関が手を下したという噂もある」

「しかし、なぜそんな手の込んだことを、横領で訴えればいいじゃないですか? そうすれば合法的に死刑にできるでしょ」

 この国では、王の所有物を盗むと言うことは、額や物の大小にかかわらず、すべて死刑になる。

「ここからは私の憶測だが、まず、横領された金は、公にできないような金であった。裁判にかけることもできないため、殺した。そして、他の人間が同じようなことをさせないよう、見せしめのため、わざわざ死体を見つけさせ、噂を流した。王の金を横領して殺されたと」

「それは、手が込んでいるというか何というか」

 ぞっとする話だ。

「私の憶測だ。事実ではない。様々な可能性があるということだ」

 つまり、捜査されていないと言うことか。

「ですが、パン見習い職人とメイドの件はどうなるんでしょうか。二人が王様のカネを横領していたとは思えません。見せしめにする理由はありませんよ」

「パン見習い職人だが、本当に自殺ではないんだな」

「ええ、それは間違いなくそうです。殺されたという証拠はありませんが、しかし、情報機関が関わっているならいくらでも自殺に見せかけ殺すことができるでしょう」

「その理由は」

「おそらく、メイド殺害の犯人に仕立て上げるつもりなんでしょう」

「なぜ、城は、わざわざ、実家にバラバラの死体を届けたんだ」

「確かに変ですね。そもそも、ばらばらにするのがおかしいんですが、その遺体を届けるのはもっと変です。しかも説明付き、鶏肉を落として殺されたなんて、変なことを言って、しかも、死亡給付金は出ないなんて、わざわざ、城の関与がわかるように……」

 見せしめ。コソ・ヒグの脳裏に浮かんだ。そちらが本命か。メイドが何かをした、もしくは何かを知った。その見せしめに、殺し、バラバラにした。ところが薬が効きすぎた。カカ・ミの兄が王を訴えた。想定外の事態に、困ってしまった城は、犯人を作る必要性があった。それで、フウ・グは殺された。犯人として、カカ・ミ嬢を殺した犯人として、自殺に見せかけ殺された。

「何らかの目的があると思えてしまうよな。メイドの死もパン見習い職人の死も、なにかがあるかもしれない」

 部長はゆっくりとしゃべった。

「ひょっとして、俺はその中に、どっぷり、はまりこんでいるって事ですか?」

「それだけは憶測ではなく事実だ」

「部長、お願いがあるんですが」

「なんだ」

「部下を付けてもらえませんか。一人じゃ無理です」

 正直いって一人では心細すぎる。

「だめだ。人手が足りない」

 きっぱりと断った。


 これらの事件の裏に城守とか言う情報機関が関わっているとしたら、情報機関相手に、どうやって捜査したらいいのだろうか。しかも一人で、コソ・ヒグは途方に暮れた。

「いや」

 コソ・ヒグは一人思い出した。城の情報機関に接点を持っている可能性がある人間を、親戚の大叔父を。

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