メランコリーソーダ

楠 悠未

眠れない夜はコスメを食べる

 夜鷹が奇声をあげながら部屋を縦横無尽に飛び回る。幼い頃に大人たちが植え付けた耳朶の腫瘍は共鳴し、灼熱感に悶える。


 バニラの香りのオードパルファムを一滴混ぜたホットミルクを飲む。これだけではどうせ眠れないとドレッサーに縋り付いた。目一杯くり出したマゼンタのリップを齧る。舌にまとわりつく安心感。胸椎の八番が「捨ててしまえばいいのに」と呟く。チークはスプーンで削って口に含む。少し噎せながらも広がる優しい甘さに夢中。腰椎の五番が「貪欲であれ」と笑う。ペンシルアイライナーをサクサク頬張ると、頚椎の二番が「美しい」と叫んだ。フェイスパウダーをまぶした筆を丸呑みにしたところで視界はぐらぐら揺れた。化粧水を一気にあおり、気持ちのいい酔いの中で、ルッキズムの呪いについてと議題をフローリングに書いたところで、力が抜け、腫瘍が派手に爆発。背骨は激しい音を立てて崩れ出す。効果は抜群だね。

 仙腸関節からは薔薇が勢いよく伸びて夜鷹の目を貫いた。どうせ君はまた生まれるのだろうけれど。おやすみ。

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