ドクターのしゃぼん玉
たから聖
第1話 一人の人間として……
孤島に来てから…もう3年目になる。妻をガンで亡くしてから
俺はドクターとして、がむしゃらに働いてきた。
心が折れそうな時もあるし、
辛い時もあるさ。
だけど俺は考えたんだ。
そう。あの、おじいちゃんに逢うまでは……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『おおぉ〜い!!先生〜!』
『?!……あ。おじいちゃんこんにちわ。お加減どうですか?』
『いやぁ、孫がね?遊んでくれ、遊んでくれ!!ってせがむんだよ。先生に腰の手術してもらってから、すこぶる調子が良いよ。』
『ははは、そうですか、良かったです。何かあったら、いつでも来てください。』
『あ!!先生!!』
『??』
『実はさ。先生、俺ァ…もう歳なんだよな?孫に最後のプレゼントを贈りたいんだよ。』
『ほぅ、それは良いですね?一体、何をプレゼントされるのですか?』
『ハハハ。しゃぼん玉工場を作ろうって、考えてます。』
『おぉ、夢があって素晴らしいですね!!それはお孫さん、喜びますね!』
『そこでね?先生に手伝って欲しいんだ。』
『???』
『先生の診療所、大きな原っぱがあるだろう?海に続く……』
『そこから、一斉にしゃぼん玉を孫の為に飛ばして欲しいんじゃ。』
『分かりましたよ。他に手伝うことは??』
『いえいえ、これ以上迷惑かけらんねぇよ。また、先生。じゃ。』
『気を付けて。』
そっかァ…おじいちゃんも、もうセカンドライフ超えて
サードライフってところかな?
いつまでも夢があって
良いなぁ。そうだ!!夏祭りの夜なんて、どうだろう??
七夕だし、空は美しいし、お孫さん喜ぶぞ。ハハハ。俺のが
爺さんみたいだな?
さてさて、診察向かうか……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
孤島の天気は変わりやすい。
あんなに良い天気だったのにも、関わらず。夜には嵐が来た。
みんな避難している。
だが……いつものおじいちゃんが居なかった。
俺は不審に思いながらも、
おじいちゃんの工場へ電話を入れてみる…
案の定、孫の為にと
しゃぼん玉を美しく作ろうと
必死でおじいちゃんは、頑張っていた。
俺は、おじいちゃんの気持ちも分かるが、危ないから避難して
いらっしゃい!と強めに話したのだが、
おじいちゃんは、
『あと少し、あと少ししたら避難するから。』
そう言って電話は切れた。
待てども暮らせども、
おじいちゃんは来ない。流石に
心配になって、
俺は悪天候の中、おじいちゃんの工場へ走った。
酷い有様だった。
工場の屋根は飛ばされて
内部がむき出しになっていた。
俺は必死に、おじいちゃんを探すのだが、、、
裏庭を見に行くと、
おじいちゃんはケガをして血を流し、うずくまっていた。
『おじいちゃん!!!大丈夫か?!』
『……ッッ!せん、、、せ。』
『大変だ!!ひとまず見せて!!』
『ぐぁぁっ…。いた……い。』
おじいちゃんのケガは大きかった。とても避難場所まで運べない。
そして、おじいちゃんも危険な状態だ。
ここで手術するか?!
どうする?俺!!
風がドンドン強くなる。
だが……おじいちゃんは一刻を争う程の重傷だ!!
『爺さん!!手当だけするぞ?いいか?』
『……うっ、、。』
ほとんど意識が無かった。
だが……おじいちゃんは
あるものを握りしめていた。
とても、大事そうに……。
それは、この世のものでは無いというくらいに
美しく出来上がった第1号の
しゃぼん玉だった。
俺は泣いた。
爺さんの気持ちを思うと涙が止まらなかった。
そのうち、爺さんは息絶えた。
手当も虚しく、俺は空虚感に
爺さんを飛ばされない様に、
救急車を呼び、霊安室へと運んだ
嵐が去っていった。
爺さんの最後になったしゃぼん玉第1号は、孫の前で、
俺は風になびかせて吹いてみた。
しゃぼん玉は、
爺さんの生き様だった事を俺は
決して忘れる事は無いだろう。
完
ドクターのしゃぼん玉 たから聖 @08061012
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