中二病は本物です!

夕日ゆうや

中二病じゃないぜ?

 熱い。

 熱い。

 包帯の下の黒龍がうごめく。

「ぐぁぁぁぁぁああああっ!」

 俺は意識を集中させて力を抑え込む。

 額に脂汗が浮かぶ。

「あー。また始まったよ。安西あんざいの中二病」

「ち、違う。俺は本物だ!」

「はいはい。そういう設定ね」

 教室の片隅で俺はうずく左腕をかばう。

「シロー。わたしのタロット占いでは、あなたは精霊を宿さない特別な人」

「ああ。だが、黒龍に愛されている」

「始まったよ。安西と北沢きたざわの夫婦コントが」

 周囲に呆れられているが、俺は本物だ。

 ただ北沢里桜りおはただの中二病らしい。

「黒龍、それはこの世の万物を消し去る力。あなたにはその力を使いこなせて?」

「使いこなせなければ、皆もろとも死ぬだけだ」

 悪魔の化身とも言われる黒龍。その龍の吐く焔はすべてを焼き尽くす。

 だが、里桜はなぜかこっちの世界を知っているかのような言葉だ。

 そして黒龍が目覚めかけているこのとき、魔界への扉が開くのだ。

 教室の前の扉。

 そこが魔界と接続された。

 俺は左腕をかばいながら、扉に向かう。

「行かないで」

 里桜は止める。

「いいんだ。この先、俺の名を皆忘れてしまうだろう。でも、君たちが生きていればそれでいい」

「そんなのはこのプリンセスが許しません。必ず無事で帰ってきてください」

「……分かったよ。アメリナ=フッド=レインライク」

「わたしの真名まなを! それを知っていながら、なぜ向かうのですか!」

「これでも俺は、強き者だからな」

 扉を開く。

 そこには邪に満ちた瘴気が溢れている。

「この世界の邪を打ち払う。また会おう。プリンセス」

「ま、待ちなさい!」

 里桜の声を背後に受けて、俺は扉を閉める。

 魔の世界に降り立った俺は黒龍を解放する。

 無限の焔。昏き焔。

 光さえも逃さない高密度な邪竜の焔。怨嗟。

 魔の世界を討ち滅ぼし、平穏なる日常を。

 俺はブラックナイトバーンス。

 日常を取り戻すための人類最高傑作。

「うぉおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」

 力を解放し、魔界を焼き尽くす。



 あれから二年が経った。

 平穏を取り戻した俺は目的を見失い、ふらふらと町中をあるく。

 と、露店でタロット占いをする女の子と出会う。

「そこのあなた。凶の運勢が出ています」

「……俺か?」

「はい。これからはわたしの傍にいるとよいでしょう」

 深々とかぶったフードを持ち上げると、そこには里桜がいた。

「ふ。ならプリンセスの力、魅せてもらう」

「いいでしょう」

 お互いに不適な笑みを浮かべて、俺は歩み寄る。

 一人くらい真実を知っている者がいるのは良いことなのかもしれない。

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