悪夢の証明 (カクヨムweb小説短編賞2022参加作品)

霧野

悪夢


 悪夢について語ろうと思う。


 例えば「悪夢のような〇〇」みたいな比喩表現ではなく、眠っている時にみる正真正銘の「悪夢」について。


 私の場合、悪夢のパターンはほぼ二通りと言っていい。

 一つは大きな建物の中で迷うもの。ターミナル駅の使われなくなった旧ホームからどうしても抜け出せなかったり、校舎の中で目的の部屋に辿り着けなかったり、煌びやかな照明の下で素敵な商品がひしめいている無人のデパートで迷子になっていたり。怖くはないけど、不安と焦燥感を抱えて彷徨い続ける夢。

 もう一つは、空を飛ぶ乗り物の墜落から始まる。旅客機やヘリコプター、UFOなんかが墜落するのを目撃するんだ。そう、あくまでも目撃するのであって、自分が被害に遭うわけじゃない。それも、わりと近場で起きていることなのに爆発音も爆風も無く、ただ静かにその現場を見つめているんだ。自宅の裏手の公園に落ちた飛行機を部屋の窓から眺めていたり、海に落ちたUFOをリゾートホテルのベランダから眺めていたり、といった調子で。

 ただね、乗り物の墜落はこの後に続く悪夢の序章でしかない。そこから、宇宙人や地底人が攻めてきたり荒波や怪物に飲み込まれていく人々を為す術もなく眺めていたり……とにかく、事態がとんでもなく悪い方向へ流れていくのを予感しながら、それをただ眺めている。そんな悪夢。


 でもね。

 我ながらちゃっかりしてるなぁと思うんだけど、それらの悪夢の中で、なぜだか私自身は絶対に被害に巻き込まれることは無いんだ。根が楽観的なのかもしれない。


 そのくせ、夢の中で死んだことならあるんだよ。なんと、二度も。

 あれは、なんて事のない日常の延長みたいな夢だった。どっかの薄暗い部屋の中で、突然後ろから銃で撃たれたんだ。胸に、ドン! って衝撃を感じたよ。で、私は撃たれた直後に幽霊になって、撃たれる直前の自分の行動を見ていた。幽霊になった私が、何故か自分が撃たれる場面を見ているわけ。変な話だけど、まぁ夢だからね。で、当然犯人も見えるんだけど、後ろ姿で誰だかわからない。

 そういえば、その時も私はただ見ているだけだったな。自分自身のことなのに、怒りも悲しみもなくただ眺めているだけ。

 別の時にはトラックに撥ねられて死んだ。普通に道を歩いていて、あっと思った時にはトラックが目の前にいてね。「あ、死んだ」って思った瞬間に暗転ブラックアウトしてそのまま……終わり。


 もしかしたら私は、本当はあの時死んだんじゃないかと思うんだ。だって、あまりにもリアルだった。死んだ、って感じが。本当はあの事故で死んでいて……もしくはトラック事故は夢ならではの何かのメタファーで……例えば心不全とかさ。夢の中で視界が真っ暗になった時に身体は死んでしまって、今は意識だけが残って延々とリアルな夢をみつづけている。

 そうじゃないと証明することって、できるんだろうか。私は今、ちゃんと生きているのかな。普段みる夢もリアルで五感もちゃんと揃ってるもんだから、どうも自信がなくてね。

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