星に願いを~やさしい物語

おともミー@カエル

序章

第1話 龍騎士の始祖オリエ・ランドバルドの死

ガドル王国歴XXX年19日


 ガドル王城ハーキュレーズ王宮騎士団総長の居室にて。

 薄暗い室内で、ベットに横たわる老齢の女。

 60歳をとうに過ぎてもなお現役で。

 アルコイリス全土の中で最強の武人である、"龍騎士"の称号をもつ人物。

 だが、その顔には生気はなく。

 空色の瞳をぼんやりと空に漂わせていた。


 「御霊のかがやきが乏しい・・・」


 ジュノー神殿の神官長である、ボビー・ビルデバルデの声が室内に響く。


 「間もなく冥府ハーデスから、お導きがあるでしょう」


 それは、すなわち"死"を意味する。


 「・・・お母さん」


 ベットの傍らに跪き、ビビは母親である、オリエ・ランドバルドの手を握る。

 今朝になって、母親の容態が急変したことはすでに知らせていたが、姉のイゾルデも、兄のアレックスもまだ到着していない。この嵐の中、どこかで足止めを食らっているのだろうか?

 すぐに駆け付けられる城下に居を構えているビビとは違い、姉兄ともガドル川を渡すカイザルック皇帝橋の向こう、旧市街地に住んでいた。

 数日前から続く季節外れの嵐で、ガドル川の水位が急上昇したと報告が入り、普段は城に常駐している騎士団もその対応に駆り出され、時折強い風が窓枠をガタガタ揺らす音が室内に響く以外、城内はシンとしていて人影もまばらだ。



 「お願い、お母さん。あと少しで姉さんたちが来るから・・・それまで頑張って」

 歯をくいしばり、ビビは懇願する。握りしめた手は冷たく、指先を介して伝わる生命のオーラも薄い。不可能だとわかっていても、なんとか自身のオーラを移そうとするかのように、ビビは更に指先に力をこめた。


 「・・・ビビ」


 ぽん、と肩に手が置かれ顔をあげると、静かに自分を見下ろす青い目と合った。


 「ジェマ・・・隊、いえ総長・・・っ」


 ビビの上官でもある、ハーキュレーズ王宮騎士団第一騎士団隊長、ジェマ・ブラットレイ。

 母親であるオリエの無二の親友でもあった彼女は、数日前のオリエの騎士団退役と同時にそのあとを継ぎ、騎士団を統べる総長に任命されていた。


 ビビと目が合うと、ゆっくりうなずき、そっとオリエの横たわるベットへ浅く腰をかける。


 「オリエ、聞こえるか?」


 親友の呼びかけにも反応を返さない。その青白く痩せた頬を指先で撫でながら、ジェマは覗き込むように顔を近づけた。


 「お疲れ様、オリエ」


 そう囁くと、ふるり、とオリエのまつ毛が揺れる。


 「・・・まさか私よりお前が先に、ハーデスからお呼びがかかる、なんてな」


 ふっ、と唇に薄い笑みを浮かべ、そっと親友の額を撫でる。

 死ぬな、なんて言わない。もう充分戦って戦って苦しんできたから。これでやっと国の重圧から解放させてやれるのだと、安堵の方が大きい。大切な、大事な無二の親友。

 

 呟くジェマの声に、オリエの血の気のない薄い唇が、わずかに反応を返す。


 「会えるよ、ジェマ・・・」

 「オリエ?」

 

 「・・・次に会う時も・・・きっと、わたしたちは・・・」


 親友だ、


 それが、オリエ・ランドバルドの最後の言葉。

 そしてゆっくりとその瞼が落ちていく。


 「オリ・・・」


 「お母さん!」


 ビビの悲鳴が響いた。


 神官長の口から、死者を冥府へ送る祈りの言葉が紡がれる。

 ビビはオリエの手を握ったまま、首を振りうつむいた。ジェマもまた、拳をベットに沈め、耐え忍ぶように身を震わせる。


 GAME DETA【オリエ・ランドバルド】


 享年66歳。

 

 出身地は不明。18歳の時、9つあるアルコイリス大陸の南方に位置するガドル王国へ、旅人として入国。

 同年ガドル王国へ帰化後、類まれなる魔力を開花させ、ガドル王国武術組織のひとつである「カイザルック魔術師団」の師団長からスカウトを受けて、魔術師団の一員となる。

 20歳でガドル王国武術組織のひとつである「ハーキュレーズ王宮騎士団」のカリスト・サルティーヌと結婚後、一男二女をもうける。

 9年後に一度大陸全土で開催される「アコイリス杯トーナメント」を勝ち抜き、ガドル王国代表の勇者として頂点に立つ。続く大地の守護龍アナンタ・ドライグの試練を受け、これを制し、見事最強の「龍騎士」の称号を得る。

 その後はさらに高みを目指し、カイザルック魔術師団を円満退団後、「ハーキュレーズ王宮騎士団」へ入団。

 晩年は同じ王宮騎士団所属である夫とは、常に総長の座を争っていた。

 金の髪に空色の瞳。得意武器は、大地の守護龍アナンタ・ドライグから、眷属の証として賜った「龍騎士の銃」


 ガドル王国、そしてアルコイリス大陸の英雄。後に、「龍騎士の始祖」と呼ばれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る