短編

谷合一基生

第1話 虫を嫌う君に引く僕

 プライドなんかないよ、僕の人生には。ただ未来を予見しようとせず、目の前のことに対応しているだけだ。自分の身なりとか名誉とか、周りの人間が自分をどう見ているかなんて考える暇がないというか余裕がないというか。だから虫を見た時もその虫が自分にちょっとした害を与えることなんて思いつきもしなかった。虫が嫌いな人は心の根本に自分の体が侵されるという恐怖があるんだと思う。君をを虫好きだと仮定すると、やっぱり恥ずかしさがある。自分が虫好きだというマイノリティ。僕ならばそれに一種の興奮と幸福を覚えるのだろうけど、君にとっては恐怖の対象でしかない。僕にはマイノリティは無意識のうちに淘汰されるという強迫が初めて生まれた。そんなことは初めてだ。考えたこともなかった。だから僕は君を殺したんだ。僕が君に殺される前に。まぁ言い訳をしても無駄だろうけど。床の上の大人しい君には。

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