椿屋敷

仁科佐和子

第1話 プロローグ

「ゴトリ」

 鈍い音に振り向けば、今日は人の左腕が落ちてきた。


 応接間に置かれたローテーブルの上に肩から切り離された人の腕が一本乗っているのは、なんともシュールな絵面だった。


 クリスタルガラスでできた灰皿に、未練がましく中指と薬指が引っかかっている。


 私はソファーを回り込んで、マネキンのように固く強張ったその腕を拾い上げた。


 大正時代に建てられたという年季の入った邸宅の薄暗い廊下を、ギシギシと音を立てながら進む。


 和洋折衷といえば聞こえのいい雑多な作りのこの家には、奥座敷から濡れ縁に出て降りられる中庭があった。


 私は草履の鼻緒を引っ掛けて飛び石を進む。


 苔むした庭には椿が植わっている。

 常緑の濃い葉の色が、冬枯れた庭に深い陰りを落とす。


 庭の最奥には一段と立派な椿の木があった。

 膨らみかけた蕾をたわわにつけたその古木の下には、これまでに集まった体の一部が並べてあった。私は拾ってきた左腕を、あるべき位置にそっと戻した。

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