どうかAI裁判官を呼んでやってください

ちびまるフォイ

正しい判断↔納得できる判断

「できた……! ついにできたぞ!!」


長年の苦労のかいあって、AI裁判官が完成した。


過去の数億もの判決例を照合し、

過去の傾向や判決傾向を分析して正しいジャッジを下してくれる。


「試しにちょっと動かしてみよう」


AI裁判官を早速動かす。

昔の裁判の内容を分析させてみる。


『判決チュウ……無罪!!』


AI裁判官のヘルメットから「無罪」のプラカードが立ち上がった。


「おおお! 正解だ! これはいいぞ!」


その後も、何度も何度も過去の裁判記録を試したが

AI裁判官の判断はすべて正しいものをジャッジしてくれた。


正解率100%。


判決は公平かつ正確。

そして感情を廃した完璧なる判決。


「きっとこれで未来の裁判は変わるぞ!!」


明日にでもお披露目しようかと思った矢先。

いきなり玄関のドアがぶち破られて機動隊がやってきた。


「動くな!! 現行犯で逮捕する!!」


「え、えええ!?」


弁解の余地なく手錠をつけられて刑務所へと送られた。

所長には納得できないと徹底的に反論する。


「どうして俺が逮捕されなくちゃいけないんですか!」


「お前、まだそんなことを言ってるのか。自分の胸に聞いてみろ」


「それでわからないから聞いてるんです!」


「お前はAI裁判官を開発しただろう。それが罪だ」


「はぁ!? なんでそれが罪になるんですか!!

 裁判の時間を大幅に短縮できて、

 公平な判断ができるAI裁判官のなにが悪いんですか!」


「それが問題なんだよ。AIに人間の人生を判断させるなど……ありえん」


「AI裁判官の正答率を知らないくせに!

 間違いを起こす人間に判断される方が危なっかしいだろ!」


「とにかく、お前のような反社会活動を見過ごすわけにはいかん!」


反論むなしく独房へと蹴り入れられた。


「いいか。お前の裁判は1週間後に行われる。お前には弁護士を呼ぶ権利が……」


「お願いです! その裁判はAI裁判官にしてください!」


AI裁判官であれば、この根拠なき逮捕の違法性を証明してくれる。

公平で正しい判断を感情に左右されずに判断してくれるはず。


「お願いです! AI裁判官を!!」


「ダメに決まってるだろう!

 AI裁判官に自分を有利に判定してくれるように

 小細工をしているかもしれないからな」


「そんなことするわけないでしょう!?」


「悪人はいつもそう言う」


自分の願いは聞き入れてもらえなかった。


誰かを有利に判断するようなプログラムなんか入れてしまえば、

公平さを基本とするAI裁判官そのものの正解率に悪影響がある。


「有利に判断するなんて……ありえないのに……」




1週間後、人間の裁判官による裁判が実施された。


「ふむ。なるほど……検察側の意見はもっともだ。

 よって被告を死刑とする」


「ちょ、ちょっとまってくださいよ! おかしいでしょう!?」


「被告! 静かに!! 被告の行ったことは

 AI管理によるディストピア化を進める非常に危険な行為である」


「AI裁判官の価値もわかってないくせに!!」


「被告! 勝手な発言はするな!!」


第一審はあっさり有罪となってしまった。

もちろん、判決は不服として控訴を行った。


「こんなこと……AI裁判官だったら起きないのに……」


「落ち着いてください。まだ第二審がありますから」


面会室のガラス越しに弁護士はどこか不安げだった。


「弁護士さん、教えてください。

 俺のやったことは本当に危険な行為なんですか……?」


「それは……」


「俺はただ、違法で根拠のない理由で

 人が裁かれて人生をふいにするのを避けたいだけなんです!」


「……わかっています。ただ、それを面白くないと思う人もいるのでしょう」


「……どういうことですか?」


「裁判は裁判所だけで行われるものではない、ということです」


「……?」


「ワイロや情報操作などを行うことで、

 裁判の結果を思うように動かす"テクニック"はあるものです」


「それじゃ、そのテクニックがAI裁判官では使えなくなるから……」


「導入されれば困る人がいるのでしょう。

 そして、そういった人たちが幅をきかせて

 あなたを有罪にしようとしているのです」


「ひどすぎる……」


「とにかく、私もできる限りのことはします」


「でも、そんな風に裏で手を回されていたんじゃ

 あなたがいくら弁護したって結果はわかりきってるじゃないですか」


「他にも弁護士の努力することはありますから……」



数日後に実施された第二審。

前回よりも作戦を練り、あらゆる反論をしたが。


「以上により、被告の申し立てを却下する。

 判決は依然としてかわらず有罪の死刑」


結果はまるで最初から決められていたように変わらなかった。


「納得できない! あんたら頭おかしいんじゃないのか!?」


「被告! 裁判所を侮辱する発言ですよ!!」


「ああ侮辱してやるとも!!

 お堅い言葉でどんなに取りつくろっても

 あんたらはなにも考えちゃいない!」


「被告を連れ出せ!」


「あんたらは何億通りもの過去判決を見たのか!?

 あらゆる分析パターンで裁判を判定したのか!?

 それもできてないくせに、AI裁判官を否定するんじゃねぇ!!」


そのまま結論は変わらないまま、裁判所の外へと放り出された。


「ちくしょう……なんでみんな人間が一番正しいと思い込むんだ……」


その後も、もちろん上告をして最後の最高裁判所までもつれ込んだ。


どういうわけかメディアはこの内容を報道せず、

自分の味方になってくれる人は誰もいない。


ただワガママな男が自分の罪を認めたくないと、

何度も何度も裁判を行っているようにしか見えない状態。


弁護士と面会室で最後の作戦会議を行った。


「まずいことになりました」


弁護士の話し始めから、この後の展開もよくないと察する。


「第二審でのあなたの行動は非常によくなかったです」


「……納得できるわけない、あんな判決」


「しかし最高裁では、もうあなたは発言できなくなります」


「ただメチャクチャな判決を聞くしかないってことですか?」


「……ひらたくいえばそうです」


「弁護士さん、あんたこそ何やってるんだ。

 裁判の前日にも来なかったじゃないか。

 あんたの弁護がダメだからこんな状態になってるんじゃないのか!?」


「手は尽くしています……」


「それが甘いっていうんだよ! なんの手を尽くしてるんだ!」


「今はまだ……。あなたに伝えたことで、他の人にバレることもある」


「隠し事してて次の裁判勝てるのかよ!?」


作戦会議のはずだったのに、最後はケンカ別れのようになってしまった。

なにも信頼できない状態のまま最後の裁判へと向かう。



そして、第三審がはじまった。



検察側はもう勝利を確信しているようで、

スマホでゲームをはじめたりしている。


「裁判官が入ります!」


裁判所の扉が開く。

黒い服を来た裁判官を見て「あっ」と声が出た。


「あれは……AI裁判官……!?」


最後の裁判官がAI裁判官だとわかるや検察側も慌て始めている。


『裁判ヲ始メマス』


最後の裁判がはじまった。

弁護士は聞こえないような声でささやいた。


(間に合ってよかったです)


これまで弁護士が不在がちだった理由がわかった。

AI裁判官を呼ぶために根回ししてくれていたのだろう。


AI裁判官が入ったことで、

これまでのメチャクチャな裁判から様子が変わった。


『ソノ発言ニハ根拠ガアリマセン』


『過去ノ判決例デ、オヨソ98%ガ、コノヨウニ判断シテイマス』


『同様ノ過去事例ト、本例ハ合致シマセン。ナノデ、ソノ証言ハ信用デキマセン』


検察がこしらえたあらゆる証拠や証人どもを、

AI裁判官の高速判断でバッサリと切り捨てていく。


勝利を疑っていなかったのもあり

検察は詰められるほどに、しどろもどろになって勝手に自滅した。


「やりましたね!」

「ああ、ありがとう!」


AI裁判官は公平で平等で正確に裁判を進めていく。

裁判は誰が見ても明らかなほど一方的に進んだ。


『過去、79億5926万8206件カラ判断シ、本件ハ無罪デス』


AI裁判官は無罪というカードを上げた。

俺は弁護士と手を取り合った。


「や、やったぁ!!」


ほっと安心したときだった。

裁判員たちがなにやら話し始めた。


「でも、やっぱり機械に判断させるのって怖いよね」

「よくわからないけど、このAIは正しくないんじゃない?」

「そうよね。だって第1審、第2審まで有罪だったのよ」

「ねえ、みんな。このAIが正しいかどうかを私達人間で判断しない?」

「そうだよ。人間を裁くのは感情のある人間でなくっちゃ」

「それじゃ多数決を取りましょう。それが公平よ」

「いっせーの、で反対の人は手をあげてね」



「 せーのっ 」



裁判員による反対多数により、

特に理由はないが、AIの判断は無効となった。

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