第6話 トレタ!
勢いよく投げつけられた桶は、ザックバード公爵へ向かっていき取られた。片手で何事もないように桶をつかむザックバード公爵は冷静な名キャッチャーのようだった。
(そうだこの変態は戦争の英雄だ。)
本当に黙っていたらかなりの美男子だ。だけど、行動がおかしすぎる。今も私の体を舐めまわすようにねっとりと見てくる。
「とにかく、出て行ってください。女性の入浴中に入ってくるなんて信じられません。」
「恥ずかしがらなくていいよ。さっきまでしっかりと見てたから。高性能のカメラを設置しておいて良かったよ。」
「やっぱり、お前か!」
私は叫び、もう一つの桶に湯船のお湯を汲んで、ザックバード公爵へお湯を浴びさせた。
ザバアーーー。バーーーン。ピチャピチャ。
お湯はザックバード公爵の目の前で何かの膜に遮られるように、跳ね返り床に落ちる。
私は向きになって何度も何度もお湯を投げかけた。でも、目の前の変態は涼しい顔をして、私の胸をジーっと見ている。
(魔法?魔法なの?もう嫌。)
「この、変態残虐魔法使い。」
私は使用人をしていた時から身軽で体術には自信がある。小さい頃からお使いに出されて、スリから身を守るために、一通りの護身術を身に付けていた。混乱していた私はなぜか、変態魔法使いは体術に弱いと思い込んでしまった。
桶を捨てて、ザックバード公爵へ突進する。
腕を掴み、引き寄せてザックバード公爵の足を払おうとする。バランスさえ崩せば、締め上げる自信があった。
ええ、忘れていた。彼はただの変態じゃない。最年少で就任した王国最強の騎士団長だ。
掴んだ腕ごと持ち上げられ、抱きしめられる。
そのまま、腕を腰の下に回され抱き上げられた。
この姿勢は、いろいろ丸見えだ。私は驚き彼の手を離して、自分の胸を隠す。
「まさか、ソフィアから抱き着いてくるなんて、俺はうれしいよ。もう、抱きしめていいって事だよね。」
私は狼狽える。そんなつもりは全くない。
「ちが、ちがう。なんでレンズが、」
焦って上手く話せない。
「ソフィアは、学院で俺がトイレへ行く所を見てたよね。窓からのぞいていた事もあるだろう。そういえばあの時撮った写真はなにに使ったの?」
(バレてた。まさか、トイレまで付いていったのも?写真は確かに撮ったけど、全部お嬢様の報告書に使ったから、私は関係ないのに。)
「あれは、その、、、」
私は抱きしめられたまま顔を青ざめる。
「まさか、主人に渡したって事はないよね。」
(渡しました。一枚残らず、お嬢様に渡してます。)
私は肯定出来ず、首を横に振った。
「本当かな?俺はカメラの映像を俺以外に見せる事は絶対にないよ。ソフィアと同じように主人に渡してほしいなら考えるけど、ソフィアはどう思う?俺に見られるだけと、国王に見られるのどっちがいいかな?」
「公爵様が見るだけにしてください。でも、お願いだからカメラは外して。こんな状態なら気になって何もできないわ。」
おもわず涙を流す。おかしい。変態に逆らえないなんて、どうしてこうなった?
「そうだね。カメラだけは外してあげるよ。こうやってソフィアが俺に懐いてくれたわけだし。」
そう言うとザックバード公爵は裸の私を抱きしめ、頭を撫でてきた。
私を、浴槽の中につけ、ザックバード公爵は、例のカメラの前で腕を振り下ろす。
そこには何もなかったかのように浴室の壁が現れた。
「ソフィア。トイレと脱衣所のカメラも外しておくね。ゆっくり体を休めてね。」
見惚れるような笑顔で私に告げてザックバード公爵はドアから出て行った。
(脱衣所にもあったのかーい。変態。絶対変態。ううう、ジョンの小屋に帰りたいよ。)
私は、肩までお湯につかり、少しだけ出た涙を拭った。
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