第37話 【野球の精度が上がっていく感激】
真は11月の「甲子園大会」に向けて、子どもたちには実践練習を増やし試合感覚をつけさせながら、土日には南部最大の都市ハッジャイへ移動して、ソンクラー大学構内での野球指導を続けていた。
ここのメンバーは真と同じ歳のウィラーをリーダーに、野球好きのメンバーが集ってきたので、子どもたちの俊敏な動きには叶わないものの、真面目に練習を継続してきた。心根のいい人たちとの野球の練習後の「ボンカウ」という名のレストランで、生演奏を聴きながら酒と食事を楽しむ時間は、真にとって心からリフレッシュできるとてもいい時間であった。
タイの人たちと外食に行くと、目上の人が全ての代金を一人で支払う。この気前のよさがかっこよく、日本のような割り勘による清算はみたことがない。週末の金曜日に体育学校の副校長がよく一緒に飲みに連れていってくれたが、真は一度も払ったことがなかった。
ハッジャイに通った理由は、子どもたちの試合相手を確保することも考えてのことであった。タイのメジャースポーツはサッカー、野球はマイナースポーツであり、競技者が少ない現状で試合に向けてコンディションを整えて行くには、試合相手を育成することも含まれるのである。
子どもたちの野球技術は確実に上がってきた。真が細かいことを言わなくてもコーチのポーンが代弁してくれるようになったことも大きい。最終的には、試合に向けてサインプレーなど細かい戦略を少しずつ確認していった。
攻撃の時のランエンドヒットやダブルスティールを何度もやらせた。ただバントはあまり教えなかったが、ランナーが2、3塁の時のツーランスクイズは成功するまで何回もやらせた。基本的にはストライクを強く打つ、そして次の塁を狙う、これ以外に大切な戦略はないことを強く伝えていたからである。
守備については、ランナー2塁の時の牽制球タッグアウトの練習を複数回やらせた。2塁手がおとりになってショートがベースに入ることとその逆パターンの2種類。セカンドかショートが一発で入るパターンの4種類を練習させた。
この時大切なことは、ピッチャーがセットポジションに入る前に、シュートのサインをチラッと見るだけでうなずきもせず何もないように相手に思わせ、安心させて、大きなリードを取らせること、そして、ピッチャーはキャッチャーだけを見ていて、キャッチャーのサインから一発でランナーを刺すことだ。
この戦法は次の大会では1回のみ、一番アウトが欲しい時に使い、相手の戦意を失わせて、勝利を完全なものにすることができるものであることを確認した。おそらく日本人学校との決勝戦ではないかと呟いて見せると、子どもたちは目を輝かせながら、真の説明を聞いていた。
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