第34話 【野球はフェアプレーの精神が魂】

 野球に必要な基本動作を身につけることを重点に、基本の反復練習を中心にした内容をポーンと2人3脚で練習を積み重ねてきた。明らかに動きもよくなってきていることから、実践的なことを入れた練習を増やしていった。バッティング練習も真とポーンがピッチャーになり、2チームに分けて試合形式をやらせてみた。

 様々な経験を通して身につけた子どもたちの技術の目覚ましい向上は、真を心から感動させるものであった。実践的な練習の中で、基本練習では経験できないさまざまなケースが出てきた。ある時、ショートゴロを打った打球を処理している選手と2塁ランナーが接触した。幸い怪我はなく双方とも何もなかったようにプレーを続けた。

 真はプレーを中断して全員を集めて今のプレーを振り返った。結果的にランナーに接触されたショートは、少し体勢を崩したが踏ん張って1塁へ送球した。しかし、打者ランナーはショートの送球が遅くなったためにセーフになった。ここでプレーを止め、このケースはどうなるか選手たちに聞いてみた。

 1年生のジャックが答えた。ショートが走塁妨害でランナーに進塁権を与えられ得点、1塁ランナーは2塁からスタートする。するとキャプテンのヌが答えた。ランナーは守備妨害で2塁ランナーはアウトになる。メーオはどちらも故意ではないし、大きな変化はない中でプレーは成立したので、このまま試合続行と3つの答えが出てきた。

 真は、答えてくれた3人にお礼を言った後、説明をした。「まずスポーツ全般に言えることだが「フェアプレー」の精神が最も大切であることを何度も強調してきた。野球のルールもこの精神に則って作られている。

 守備妨害は「インターフェア」妨害行為の1つ。守備側、攻撃側、審判、観客に起こりうるもので、この場合は、どちらの側が優先されると思うかを基準に考えるとわかりやすい。どっちだと思うかな」と真は子どもたちに問いかけてみた。

 ボーンが「ショートは打球に集中しているから、ランナーが避けなければならないじゃないかな」と考えながら答えてくれた。「その通りだ(トゥグトロン=タイ語で「正解」の意味)」と真はボーンの説明に拍手をしながら笑顔で答えた。

 ランナーは周りを見渡す余裕がある。だからランナーは守備の人を優先させなければならず、体の接触を回避する義務があるのだ。結論を言えば、基本的に今の場合、ランナーはショートのプレーを邪魔したというペナルティが与えられアウトになる」

 「試合中はアンパイアーは一番権力があり、アンパイアーの見方、裁量があるので解釈は幾つかあるのかもしれないが、「フェアプレー」の精神から考えれば自ずと結果は見えてくる」タイ語での説明にどこまで伝わったかは不安があるが、1つ1つ初めてケースを確認しながら進めていった。

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