第27話  【ソウルで韓国と対戦したタイチーム】


 飛行機に乗って安定飛行になると、子どもたちは徐々に騒がしくなってきた。立ち歩く者もおり、とにかくガヤガヤとうるさかったが、初めての海外への飛行機での移動の者がほとんどだったこともあり、真はしばらく選手たちの様子を見守っているうちに久しぶりに口にしたワインであっという間に酔いがまわり、長い合宿の疲れからか寝てしまった。

 起きるとすぐに朝食が出る時間で、急いで食べ終わると朝7時にソウルに到着した。空港からは韓国のスタッフに案内されてバスに乗り込みホテルに向かった。バスの中でも、選手たちには少し浮かれた雰囲気があったので、静かにするように言おうか迷ったが、初めての海外なら無理もないと静観していた。

 昼食をとった後、前日練習の時間が割り当てられたので、ユニフォームに着替えてバスに乗り込んだ。トンデムンスタジアムの練習場で、ウォーミングアップ、走塁練習、キャッチボール、バッティング練習を行った。明日の先発はペーンである。2番手トン、3番手オーンと発表して明日の心の準備をさせておいた。

 先発のペーンを中心に、ニヤニヤと笑いを浮かべながら、浮かれた雰囲気が続いていたので、真は戦う集団とはかけ離れた彼らに危うさを感じとった。夕食が終わっても浮かれて遊んでいる選手が多かったので、真は選手たちを集めて話をした。

 「明日、球場に行って開会式直後の第1試合、強豪韓国との対戦だ。今、調子にのって浮かれている奴は、明日、間違いなく試合を壊すだろう。そうならず100%の力を出すためにも早く寝るように」とだけ伝え先発メンバーを発表した。ピッチャーは予定どおりペーンである。彼は「オレは絶対に緊張なんてしないよ」と言い、ずいぶんと遅くまではしゃいでいたようである。

 そしていよいよ迎えた本番の日、開会式と第1試合当日の朝、食事をすませてバスに乗り込んだ。選手たちは昨日の様子とは別人のように違っていた。球場に到着すると誰もしゃべらなくなり、しんと静まり返ってしまった。緊張はしないと豪語していたペーンをはじめ、選手のほとんどは明らかに顔面蒼白になっていた。

 大きなスタジアムには、開会式に集まったたくさんの観客や地元韓国の応援団、メジャーリーグのスカウトをはじめ、報道関係者も含め内野席はほぼ満席だった。すっかり静まり返ったわがタイチームの選手たちは、その異様な雰囲気に包まれたまま試合に突入していくことになるのであった。真はベンチ前で「相手がどうであれ自分たちの元気な野球をやろう」と声をかけて試合にのぞんだのである。

 大人と子供のような実力の開きがあることをずっと伝えてきたが、アウェーでの物凄い応援にも圧倒され、韓国チームの長い攻撃が続く。特別ルールナインバッター(最大9人までの攻撃)で終わる。それ以上の打者には移らない。一方、タイチームはきっちりと3人で終わる。

 相手投手のストレートのスピードは、130キロ以上は優に出ていたのではないだろうか。堂々とした態度、球のスピードともに申し分なく、ほれぼれとさせるような見事なピッチングである。全員バットにかすりもせずに三振になって帰ってくるだけである。

 終わってみると3回コールドゲーム、18対0、参考記録ながらノーヒット、ノーランに抑え込まれたのである。手も足も出ないとはこういうことを言うのであろうか。負けることは仕方がないが、選手たちは合宿の成果も出せず自分たちらしさを全く発揮できなかったことが、真は悔しくてたまらなかったのである。

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