第19話 【新天地での野球の普及活動を始動する】
2000年1月17日(月)、野球を普及したいという真の気持ちに応えてくれたナコンシータマラート県の体育学校に来て初の野球の練習がはじまった。校長が急遽、男子9名、女子8名を集めてくれたようだ。13歳と14歳の日本で言えば中学生である。
野球道具もトレーニング用具も足りていないので、真は市場から買ってきたロープを使って、SAQトレーニング(スピード感や俊敏性を養うもの)のラダーを手作りで作りあげた。
出来上がった頃、17名の生徒が集まって来たので、まずはランニングやダッシュ等のアップをやらせて、ボールの握り方、投げ方を教えた後さっそくキャッチボールをやらせてみた。全くの素人で、投げることもぎこちない動作であり、真はこれから大変に長い時間を費やすことを一瞬にして覚悟した。
投げるという基本動作は全くできないので、早朝のトレーニングでタオルをもってシャドースロー(タオルを握って投げる動作を行う)をやらせることにした。厳しい現実にも、真は根気強く彼らに野球のおもしろさを伝えることを深く決意したのである。
ここでもスパーンブリー体育学校と同様に、早朝のトレーニングをやっていたので、5時30分から3つのトレーニングプログラムを与えて取り組ませていった。放課後は16時20分から、練習を始めることを生徒たちと相談して決めた。
真が練習メニューのモデルにしたものは、日本の野球専門雑誌ベースボールクリニックから選んだ内容であった。野球に必要な動作から、実践を想定して考えられていた。これらのものは野球を知っている人からすれば納得のいくものであるが、野球自体を全く知らない彼らにとっては、辛さや厳しさが先行したかもしれない。
徐々に、練習に来ない者、遅れて参加する者が増えていくのである。それでも真は辛抱強く、忍耐力をもって練習を重ねていった。できるだけ楽しく取り組めるようにアレンジして練習に工夫を加えた。
しかし、簡単に練習に遅れる意識の低さに怒りは増していった。子供たちには、練習に遅れて参加するとその分やらなければならないことが少なくなって、結果的に野球の上達が遠のき、自分が損をしてしまうことを辛抱強く伝えていった。
子供たちは疲れている様子も見られたので、彼らの学校生活を知ってみたいと思い、日中、彼らの学校にお邪魔させてもらうことにした。タイ語の勉強を深めたいという気持ちもあったので校長先生にお願いしたところ、日中生徒たちが通っている町の学校に連絡をとってくれ、真の授業への参加を認めてもらい、いくつかのクラスを見学させてもらった。
中学2年生のタイ語のクラスでは、働くことについて、具体的な職業からどのような技術をもった人材が必要かを考えさせていた。何人かの生徒は積極的に手を挙げて発言していた。
数日、朝から学校に通わせてもらっていたが、タイ語を学べる機会を与えてもらえなかったので、こちらから何か授業中に話をさせてほしいと頼んでみた。手始めに社会科の授業で、日本のことについて話をさせてくれるように頼むと、その日の授業ですぐに話をさせてくれた。
これで味を占めたのか、他の教科の先生からもお願いされて、日本の教育とタイの教育の違い、日本の高校生や職業等について話をさせてもらった。タイ語の勉強をしたいという気持ちで学校に顔を出していたのだが、日本人が授業で話をしてくれるので、引っ張りだこになってしまったのかもしれない。
もちろん日本では高校の教員である真にとっては、話をすることは苦手ではないことであるが、タイ語はまだ小学校低学年レベル程度と考えれば、満足のいくような内容からは程遠いものだったと思う。
タイ語も学べないのであれば、学校に顔を出すこともやめようと思い、校長先生に相談したところ、音楽の先生がタイの伝統楽器を教えてくれるがどうだと新たな提案をしてくれた。「キン」という楽器は、日本の琴のように絃から音が出るものであるが、2本のしなる棒で叩いて音を出し、何とも言えない音色を奏でる。 以前、スパーンブリーの屋台で「小堀」を知っているかと聞かれたことから知った映画「クー・カム」に出ていた恋人のアンスマリンが弾いていた姿があまりに美しく魅力的で、いつか習ってみたいと憧れてあたので、夢中になって練習をさせてもらった。
何とも言えない音色が真の心をとらえたのだ。好奇心が旺盛な真は、見知らぬ土地へきて、思いもかけずに憧れていた「キン」の弾き方を教えてもらうチャンスを得たのである。こうして音楽の先生とも仲良くなり、一緒に食事に連れていってもらうようになった。
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