第16話 【古都スコータイで新しい道を拓く】
11月スコータイと言えば「ロイクラトン祭り」が有名である。古都であったスコータイは、このお祭りの発祥の地である。水の祭典とも言われ、クラトン(灯籠)をロイ(川に流す)するのである。
旧暦の12月(現在の11月頃)の満月に人々が集まり、川の女神である「プラ・メー・コンカー」へ感謝の気持ちを捧げる。タイ全土で行われるため地方によって形式は異なるが、バナナの幹や葉で作った灯籠に、ロウソクと線香を立てて川に流したのが始まりのようだ。
地歴・公民科の教員である真にとっては、好奇心をそそる素晴らしいお祭りを堪能できた。世界遺産に指定された美しい遺跡がライトアップされて、古き良き時代の庶民の暮らしを再現した展示やパフォーマンスなど、目の離せないイベントが盛りだくさんで行われていた。
生徒たちにとっては、一生懸命に競技に集中する場であるが、引率の先生たちにとっては、ちょっとした息抜きの場にもなっていた。真がタイの教育現場の中で注目したことがある。それは、伝統芸能を学校教育でしっかりと継承していることだ。
タイの生徒たちは、伝統の踊りや楽器の演奏を経験する。もちろんプロも存在するが、ほとんどの子どもたちが伝統芸能の継承者となっていることに、深い感慨を覚えるのであった。
開会式のセレモニーでは、伝統楽器の演奏による舞踊等のパフォーマンスが盛大に披露された。生徒たちにとっても、歴史に触れるいい機会でもあった。夜になるとさらに古都スコータイは、独特な雰囲気を醸し出していた。毎晩、いろんな先生たちとお酒を交わしながら、素晴らしいひと時を過ごしたのである。
1週間、古都スコータイを満喫し、最後の夜に真は全校長の食事会に招待され顔を出した。もちろん、野球の素晴らしさ伝えること、コーチとして招聘してほしいことを伝えるためである。そうすれば、強い野球チームを作ることができる。そして来年には、国内初の野球の大会を開催することを熱く語った。
お酒を飲んでいる席とは言え、真の口からは力強い言葉が躍った。その中で1番最初に興味を持ってくれたのが、タイ南部のナコンシータマラート県体育学校の校長先生だった。真は話を聞いてくれたお礼に「メー」(母)と「チャイルイ」(その通り)というタイの歌をタイ語で歌った。
このパフォーマンスは、校長先生を引きつけるのに十分なものだった。タイ語を話すおもしろい日本人との出会いを大切にしてくれた校長先生の計らいで、1月からナコンシータマラート県行きが決まったのだ。
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