第14話 【本気で甲子園を目指した日々】
この後の将志の成長ぶりは、真の考え方を証明するものとなった。彼は1度も練習を休むことはなかった。チームにとってなくてはならい中心選手として3年生の最後の大会を迎えた。
毎年夏の大会前に、練習試合をお願いしていた私立の強豪校(ヒグマ打線との異名を持つ甲子園常連校)との練習試合ではあったが、何と3対2で勝つまで実力をつけたのである。
選抜の甲子園出場チームに勝ったうわさは、同じ管内の学校に伝わった。真には、甲子園を目指す最後の大会で、近隣校から試合をしたくないと恐れられるチームになったことが誇らしかった。
本校にとって唯一あたらなければいいと思っていた高校が、真が期限付きで所属した高校であった。ここは春の大会では札幌市内の強豪校にも勝てる実力をつけて、この管内では一番甲子園に近いチームになっていたのである。
四苦八苦の中に「怨憎会苦」(会いたくないと思う人と出会う苦しみ)とあるように、あたらないように願う相手とは不思議とあたってしまうのが世の常ではないだろうか。夏の大会、この支部には3つのブロックがあったのに、このチームと2回戦であたることが決まってしまった。向こうも嫌だっただろうが、こちらはそれ以上に嫌だった。
将志にとって高校最後になるかもしれない試合である。わが校のエースピッチャーには強気の内角攻めで4番を完璧に抑えさせたが、下位打線に渋いヒットを連打され、最後は4対6で惜敗した。最後の試合で将志は、2塁打を含む複数安打を放つ猛打賞な大活躍をしてくれた。
相手は次の地区の決勝戦でノーヒットノーランを達成、全道大会へ出場し、全道大会で惜しくも北北海道大会ベスト4で敗れた。全道大会へ連れていく約束を果たせなかった真にとって本当に悔しい試合で、久しぶりに眠れない夜を過ごしたのであった。
癒しがたい傷跡を心の中に抱えていても、担任には日常の教育活動は容赦なく進んでいく。教師が生徒たちの前進を阻むことは許されない。3年生のクラス担任になり、将志も含めて進路活動の真っただ中に突入していたのであった。
悔しさを乗り越えたエースピッチャーの谷山は、野球での活躍が認められ進学を果たし、札幌六大学屈指のピッチャーとして活躍を見せてくれた。将志は数倍の倍率を跳ねのけて、希望の就職先の内定を勝ち取った。そして数年働いた後に独立を果たし、二十代の若さで起業し実業家となったのである。
真がタイで野球の指導をすることになり、道具がなくて困っていた時、真っ先に野球道具をかき集めてくれて、段ボール数箱分を自費で送ってくれたのが将志であった。異国の地で窮地に立たされていた真にとって将志の気持ちが本当にうれしかった。彼の真心がタイでの野球の普及活動の追い風となったことは言うまでもない。
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