海辺の少女エヴァ
神在月
邂逅
人生の自由なんてのは、所詮自分のいる環境の中でのモノでしかない。創作の中にあるような唯一無二の出会いや、呪いや運命みたいなオカルトじみたものは、少なくとも俺の生きる世界にはない。そう思っていた。
あの夏の日、アイツと出会うまでは・・・
・・・・・・・
「おーい!新也!買い物行ってくれるか!?」
そう、居間の方からじいさんの声が聞こえる。無駄なエネルギー消費が嫌いな俺は、断ることもせず重たい腰を上げる。
「分かったよじいちゃん。何買ってくればいい?」
「それに関してはこのメモの物を買ってきてくれ。頼むな」
そう言われると俺は一つのメモを渡される。俺はそいつを掴むと玄関を出て自転車に跨り漕ぎ始める。
俺の住んでいる街は海沿いの小さな街で、いわゆる限界集落と言われる街だ。いや、むしろ村だ。野菜が欲しければ八百屋に行き、魚が欲しければ魚屋に行く。日用品が欲しければ、個人経営の小さな商店へ行く。それらが一緒になっているような建物は、当然存在しない。
俺は、両親の死をきっかけにじいさんのいるこの街にやって来た。それまでいた都会とは違ったこの街は、小さい俺には新鮮で毎日が楽しかった。だけど、その楽しさの賞味期限が切れてからは、毎日がどうしようもなく退屈だ。
けれど、俺はこの街を離れるつもりはない。それは、あのじいさんに少なからず恩を感じているからだ。あの都会の喧騒が羨ましいが、まあ俺の人生なんてのは恐らく死ぬまで仕方ないで済ませられる軽いものなんだろう・・・
「にしても・・・」
「あのジジイ、物を頼みすぎだろ!!」
今回の買い物は普段よりもやたら量が多く、自転車のカゴに入りきらず、サドルにも買い物袋を引っ提げている。
「この状態だと自転車は運転しづらいんだよ」
そう呟くと俺は荷物で重くなった自転車を再び漕ぎ、家へと向かおうとした。しかし、
「今日は久々に海の夕焼けでも見に行くとするか・・・」
そして俺はしばらく自転車を動かし、とある場所へと向かった。
「うん、やっぱりここは落ち着くな」
俺がやって来たのはとある海岸だ。普段は俺ぐらいしか立ち寄らず、ちょっとした秘密基地になっている。しかし、今日は違った。
「ん?何だこの声は・・・歌?」
岩場の向こうから歌声が聞こえたのだ。その声はとても綺麗で、思わずその方向に向かっていってしまった。
「誰?そこで歌っているのは・・・誰?」
・・・・・・・
「・・・ッハ!?」
気づくと俺は岩場に横になっていた。体のほとんどに岩の感覚がある中、頭だけは柔らかな感触がした。それと同時に俺が誰かに膝枕されていると自覚し、俺は飛び起きる。
「うわっ!?ご、ごめん!」
その声に膝枕の主が反応する。
「いえいえ、いいんです」
俺はそのとき初めて声の主を見る。その人は見たところ女性。同い年ぐらいだろうか?顔立ちはかなり整っていて髪は綺麗な茶髪だ。この辺りでは見ない顔だったので、俺はその子に質問を投げる。
「この辺りじゃ見ない顔だけど・・・引っ越して来たのか?」
「え、えっと・・・はい、最近こっちに越して来たんです」
「そうなんだ、名前は・・・」
「
「え・・・?」
「今際エヴァです、あなたは?」
珍しい名前だったので反応が遅れてしまった。しかしすぐに名前を名乗る。
「俺?俺の名前は
「はい!新也さん、よろしくお願いします」
「何で新也さんはこんな所で倒れてたんですか?」
やっぱり俺は倒れてたのか・・・
「それが、さっぱり分からないんだ。何となくここに来て、そして岩場・・・そう、ちょうどここら辺から歌声が聞こえて、そして気づいたら・・・ごめん、これ以上は思い出せない」
するとエヴァはどこか複雑そうな顔をしていた。
「そう、なんですね。と、とりあえずもう暗くなって来ましたし、そろそろ帰りましょう」
「そうだね」
そして俺は岩場を飛び降りる。それに続いてエヴァも飛び降りるが・・・
「痛っ!?」
何処かを痛めたようだ。俺はすぐに彼女の元に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「あっ、はい。大丈夫です」
「何処か怪我してるかもしれない。足見せてみろ」
「ダメです!ほら!怪我なんてしていませんから!」
そう言いながらエヴァは軽くジャンプしてみせる。確かにその様子なら怪我はないだろう。
「そう・・・それなら帰ろうか」
「はいっ!」
その後、俺とエヴァは共に帰路に着いた。エヴァの家は俺の家より海から遠いらしく、送ろうとしたが大丈夫と一方的に言われたため、エヴァを送り届けることなく俺は家に着いた。
だけど、この時は俺は何も知らなかった。エヴァが何者なのか、何であんな所にいたのか、何で僕が家まで送るのを拒んだのかを・・・
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