君の、手をとって
昨日の出会いから一夜明け、俺は今日もいつも通りの1日を過ごしていた。しかし、
「おい新也!客人だぞ!!」
そのじいさんの言葉で流れが変わった。若者がほとんどいないこの街で、わざわざ俺を尋ねる人なんてまずいないからだ。
俺は疑問を抱えたままその客人とやらに会いに行く。するとそこにいたのは、
「エ、エヴァ!?どうしてここに?」
エヴァだった。昨日会っただけのエヴァが何でここに来たんだろうか?
「こんにちは新也さん、今お時間ありますか?」
「え、あぁ、あるけど、どうかしたのか?」
するとエヴァは手を叩いて言った。
「でしたら今からお散歩にでも行きませんか?」
・・・・・・・
そして俺たちは昨日俺たちが出会った浜辺に来ていた。
「ふぅ、風が何だか心地いいですね」
そう言うとエヴァは髪をかきあげる。その姿に俺はつい見惚れてしまった。
「新也さん?どうかしましたか?私の顔に何かついてますか?」
「い、いや!何もないよ!ただぼーっとしていただけで・・・」
俺がそう言うとエヴァは手で口を押さえて笑みを浮かべた。どうやら見惚れていたのはバレていないようだ。その後、俺はここに来たばかりのエヴァにここが如何に何もないか説法をしていた。すると、
「新也さんは、この街から出たいんですか?」
その言葉に俺は何も言い返すことができなかった。俺はこの街を出ない。出たいけど仕方ないものはどうしようもない。そう思っていたからだ。
するとエヴァはそれを見透かしたように言った。
「悩んでるですよね?その気持ち分かります、でも・・・」
「でも?」
「あなたの人生は誰のものでも無いんです。だから、誰かの望む選択ではなく自分の望む選択をするべきだと思いますよ」
その言葉に俺は息を呑んでしまった。どこまでも見透かされてるみたいで一抹の恐怖すら覚えた。ホントに何者なんだろうか?
「自分の望む選択、か・・・」
言われてることは分かる。けれど人はいきなりは変われない。でもいつか、俺も自分で選択できる時が来るんだろうか・・・
俺の表情を汲んだか、エヴァがとある提案をした。
「それなら明日、一緒にこの街を出てみませんか?」
「・・・え?」
「一度この街を出てみたら、踏ん切りがつくかもしれませんよ?」
なるほど、それは一理あるかもしれない。
「そうだな、それなら行ってみるか」
するとエヴァは表情をパッと明るくして言った。
「ッ!!ハイッ!」
・・・・・・・
帰り道、いつもの道を歩く途中で、俺はエヴァのことについて聞くことにした。
「エヴァは何でこの街に越して来たんだ?」
するとエヴァはどこか歯切れ悪そうに言った。
「えっと、それは・・・家庭の事情です」
「そっか、ごめんね。何だか聞きづらいこと聞いちゃって」
その言葉にエヴァは両手をブンブンと振りながら答えた。
「いえいえ!そんなことありません!誰だって気になることですから」
そして、少しの沈黙が俺たちを包んだ後、ポツリとエヴァが何やら話し始めた。
「新也さんは、とても優しい人ですね」
「えっ?俺が?いやいや、そんなことないよ」
俺がそう言うとエヴァは、俺の前にやってきて瞳をじっと見つめながら言った。
「そんな謙遜しないでください!実際、私の家庭のことも踏み込まないでくれましたし、初めて会った時だってあんなに沢山の荷物を持ってました!それはきっと・・・優しい人にしか出来ません」
「それに、見た目もとてもカッコいいですよ?」
その言葉に思わず顔を赤くしてしまって俺を見て、エヴァは優しく微笑み、そして俺の隣へと戻った。
「少なくとも、私の人生を変えちゃうくらいには」ボソッ
「え?何か言ったか?エヴァ」
「へっ!?いえ!何でもありませんよ?」
突然のエヴァの圧に押されながら俺は答える。
「お、おう。そうか、ならいいんだ」
「はいっ!」
・・・・・・・
「あっ、新也さんのお家、着いちゃいましたね」
「そうだな」
エヴァと話していたからか、いつもよりも家着くまでの時間があっという間に感じた。そしてそれと同時に、俺は感じたことのない寂しさを覚えた。
「それじゃあな、エヴァ」
「はいっ!新也さん、また明日!」
また明日、そんな言葉に俺は何とも言えない胸の高鳴りと高揚感を覚え、別れを告げた。
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