『開かれる扉』(6)

玄関を出た天王は、そこでバッタリと亜矢と会った。

ちょうど亜矢は、リョウの部屋に行く所だったのだ。

亜矢は天王を見ると、何か不思議な感じがしてピタっと足を止めた。


(リョウくんの部屋から出て来たみたいだけど、誰かしら?)


天王は亜矢に笑いかけた。不思議なくらい綺麗な人だな、と亜矢は思った。


「私は今日からこのマンションのオーナーになった、天真てんまだ」


天王は、人間界での自らの名を、そう名乗った。

亜矢は慌てて頭を下げた。


「あっ!春野です!お世話になります」


天王はそのまま、スっと亜矢の横を通り過ぎた。


「魂の器・春野亜矢…」


天王は小さく呟いた。

亜矢が頭を上げた時、目の前に天王の姿はなかった。


(大家さんが変わったなんて、知らなかったわ)


それに、あの声……どこかで聞いた事があるような?

亜矢はふと思ったが、気を取り直してリョウの部屋へと向かった。







次の日の朝、リョウが玄関のドアを開けると、目の前にはグリアが腕を組んで寄り掛かっていた。

リョウは少し驚いたが、すぐにいつもの笑顔を向ける。


「おはよう。今日はボクを待ち伏せ?」


だが、グリアはリョウを睨み据えたまま、少しも表情を変えない。

そして、小さく口を開いた。


「オレ様は、いつか天界をツブすぜ?」


リョウは眼を見開いた。笑顔が消える。


「その時、てめえが再び立ちはだかるなら……今度は斬るぜ」


グリアの言葉に嘘はないだろう。真剣味を帯びた鋭い瞳。

グリアは、知っているのだ。

天王の目的と、彼がリョウを手放したくない本当の理由を。

リョウはその言葉に含まれた意味に気付き、穏やかな笑いを返した。


「また、ボクに忠告してくれるんだね。ありがとう」


グリアは少し顔を背け、小さく舌打ちをした。

やっぱり、リョウと話していると調子が狂うのだ。

それは天使の特性なのか、リョウの特性なのか。

その時、リョウの部屋の右隣の部屋のドアが開いた。


「行ってらっしゃい、アヤー!!」


元気に見送るコランの声と共にドアから出て来た亜矢。

グリアは亜矢に気付くと、ニヤリと笑ってようやくいつもの彼らしい表情になった。


「よお、亜矢。…なんだよ、その構えは?」

「きゃー、近寄らないでよっ!!」


迫り来る死神から逃げようと、必死に抵抗する亜矢。

ふと、亜矢はリョウの姿に気付いた。


「リョウくん、おはよう!…っていうか助けて……」


リョウはクスっと笑った。


「遅刻したら、魔王先生に怒られちゃうね。グリアだけ。」


その一言に、一瞬だけグリアの動きが止まった。

その隙に亜矢はグリアの腕から逃れ、走り出した。


「てめえっ!待ちやがれ!!」


グリアも同時に走り出す。

そんな二人の背中を見送りながら、リョウも歩き出す。







新しい日々の始まり、新しく開かれたいくつもの扉。

一人の少女を巡る物語が、再び動き出す。

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