special2. 雪合戦
外を見ると、日が昇っているにもかかわらず、雪が積もっている。店はいつも通り開けているのだが、この雪でお客はいない。僕は雪を見るのは好きだが、やはりこの寒さはあまり好きになれない。お客がいないことをいいことに、暖を取るため電気ストーブの前を陣取ろうとしたら、すでに先約がいた。
「うぅ~。寒い~~。ぬくもりを私にください~」
柚乃は電気ストーブの前で小さく丸くなっていた。おいおい、その席は僕の特等席のはずなのだが……
「柚乃。僕にも電気ストーブのぬくもりをくれないか?」
「マスター。いいけど、この席は高いよ~。ホットのココアお願い~」
しれっと、ぱしらされた……まぁ僕もホットココアも飲みたいから作るかぁ。
カウンター奥に行ってココアを作ろうとしたら、イロナが手袋、ニット帽、もこもこのダウンと完全防備をして二階から降りてきた。まさか……
「マスターさん。お客さん来るまで外の雪で遊びたいんですけど、いいですか?」
子供は風の子とはよく言ったものだ。いや、こんな寒いのに外に出て遊ぶという考え自体考えられない……が、イロナは目を輝かせながら来ているので、言う言葉は決まっていた。
「もちろん。怪我しないように遊ぶんだよ」
「ありがとうございます!!行ってきます~」
イロナは一目散に扉の方にかける……が、電子ストーブで温まっている柚乃を見つけ、話しかけにいった。柚乃の顔はぱぁーっと明るくなり、イロナに少し話してからこちらに来る。
「マスター。電気ストーブの席は無料席に変わりました~。ご自由にお使いくださいませ~」
というと、二階にバタバタかけていく。僕はココアのコップをひとつ片づけつつ、自分の分のココアを入れる。入れ終わるぐらいに、柚乃はイロナと同じような完全防備をして降りてきた。そして、待たしていたイロナと共に外に出て行った……いや、子供ってすげぇわ。
無料開放された電気ストーブの席に行くと、ちょうど窓から柚乃とイロナが遊んでいる姿を見ることができた。温かいココアを飲みながら、二人の様子を眺める。
二人とも満面の笑みで雪玉を作って投げ合っている。積もりたてのふわふわの雪だからか、お互いに投げ合っている雪玉が当たっても痛そうには見えない。ここから見る限り、二人は姉妹のようにしか見えなくてほっこりする。いや、片方は可愛らしい角が生えているのだが、そんなことは誤差だ。
遠くから雪をかき分けながら歩いてくる人たちが見えた。お客が来たかなぁと思ったものの、よく見ると勇者、ルイ、ミア、リリーの旧勇者一行だ。各々ではよく来るものの、一行として来るのはかなり久々だ。
その一行が柚乃とイロナを見つけた。勇者が急に立ち止まると、雪をかき集めだした。それを見たルイ、ミア、リリーの三人も同様に集め始める。柚乃とイロナは二人で遊んでいるから気づいていない。
あっ、勇者が柚乃とイロナの方に突撃して雪玉を投げ始めた。柚乃もイロナも気づいたのか、応戦する。勇者は柚乃とイロナに雪玉を投げていて、柚乃とイロナは勇者に雪玉を投げているのはよくわかる。ただ、なぜかルイとミアとリリーは勇者の元に駆け寄っていない。よく見ると後ろから勇者に雪玉を投げている。なんなら、リリーとか魔法を使って雪をかき集めてマシンガンのように撃っている。ちゃんと柚乃とイロナに当たらないようにしながら。リリーってちゃんと考えてて、優しいよね。
勇者は明らかに後ろから当たっていることに気づいたのか後ろを振り向く。するとミアは待ってましたとばかりに魔法で大きくした雪玉を勇者に投げた。勇者は間一髪のところで避けようとしたものの、避けた先に柚乃とイロナがいることを理解して……顔面で受け止めて倒れた。さすが勇者。その気概は認めよう。
ルイとミアとリリーは三人見合わせて笑っている。柚乃は同じく笑っているものの、イロナは勇者が心配なのか、勇者の方に向かう。勇者はむくりと起き上がってイロナと何か話している。そしてイロナの頭をなでている。なで終わったと共に三人に指をさす。
「ぜったいに!!!!しばく!!!!!!!」
おいおい。店の中を温めるため窓を閉めているというのに声が聞こえるとか、どこまで大声で叫んでるんだ……勇者はイロナと共に柚乃の元に向かって何か話している。柚乃もイロナも笑顔になった。すると、勇者は詠唱し始めて……一瞬で雪で作った壁や旗がある雪合戦の戦場を作り上げた。よく見ると壁のところにはすでにたくさんの雪玉ができている。
ルイ、ミア、リリーはピンと来たのかすぐさま雪の壁に隠れる。そして……ガチの雪合戦が始まった。みんな雪玉を当てたり当てられたりしている。でも本当に楽しそうな笑顔だ。ただ参加しようとは思わない。だって寒いし。
ただ、みんなが雪合戦を終えて帰ってきたことを想定して、各々の好きなものの冷たいものを作るとしようか。あれだけ遊んだら暑いでしょ。
僕は冷めたココアを飲み切って、電気ストーブの前から立ち上がり、カウンターの方に向かった。
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